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第5話 女神様は腹違いの弟と妹に出会う

 さて一週間後、合格発表日となった。

 学校前の掲示板には、まだ発表前だというのに大勢の人が集まっていた。


 実は『梟の瞳』を開けば合否が分かるティシアであったが、それは普通(・・)の女の子とは言えない。

 そのため他の受験生と一緒に、ちょっとしたドキドキを味わう。


 発表方法は実名ではなく、受験番号。

 そして成績順に発表されるということは、予め知っていた。


 掲示板には大きな布が被せられている。

 発表時にはこれが剥がされるのだ。


 ドキドキしながら待っていると、大学の教授と思われる人物が現れた。

 助手と思われる人々と共に、布を外す。


 一瞬の沈黙。

 そして大きな歓声が上がった。

 歓声を上げたのは、合格した者たち。 

 一方、茫然と佇む者や黙って立ち去る者、泣き出す者もいた。


 尚、ティシアは……


 「ぐぬぬ……見えない、見えない……」


 人間に化けている時のティシアの背は、高いとは決して言えない。

 そのため人込みの所為で、掲示板が見えない。

 何とか人を掻き分けて、掲示板がギリギリ見える位置まで移動する。


 確認するのは、左端の一番上から三番目。

 そこに名前が無ければ、お金がないのでティシアは入れない。

 

 結果は……


 「あ、あった!」


 一番上にあった。

 当然の結果だと思う一方で、少しだけティシアは安堵していた。


 学校に入りたかったというのもあるが……

 人間に負けるというのは、神としてのささやかなプライドが許さなかった。


 力を制限してたとはいえ、制限内で全力を出したのだ。

 それで負ければ大恥も良いところだろう。


 (少し大人気無かったかな?)


 ともティシアは思ったが、人間には神に迫るほど優秀な者もたまにいる。

 油断はよくないだろう。


 「な、三位だと! 俺が!? ……お前はどうだった?」

 「……二位だわ。誰よ、ティシアって! 私たち、満点近く取ったでしょう? 不正じゃないの!?」


 有らぬ不正疑惑を掛けられたティシアは後ろを振り返った。

 するとそこには二人の大変顔立ちの整った男女がいた。


 服装からしてみても、身分も高そうだ。


 (……どこかで見たことがあるような気がするんだよなぁ、この顔)


 ティシアはじっと二人の顔を見た。

 二人の容姿は本当に――さすがに女神としての姿を現したアルティシーナ神ほどではないにしても――整っている。 

 その美しさは人間のモノではない。


 ……人間のモノではない?


 ティシアは二人の魂をよくよく観測してみる。 

 すると……やはり案の定、二人は普通の人間ではなかった。


 半神半人、つまり神と人間の合いの子である。


 ここまで来ると、アホでも知恵の女神であるティシアの灰色の脳細胞が、既視感の正体を看破する。

 自分の顔だ。


 とても自分に似ている。

 正確に言えば……自分の父親兼祖父に似ている。


 (あー、またやらかしたのね。あの人)


 強姦か和姦かどうかは分からないが、要するにまた人間の女、どっかのお姫様でも種付けしたんだろうとティシアは考察した。


 神々の王、ディシウスの下半身事情の悪さは大変有名である。

 ティシア自身も度々やられそうになるくらいなのだから。

 まあいつものことと言ったら、いつものことであるが。


 「何だ? あんた」

 「……私たちの顔に何かついているの?」


 ティシアの視線に気付いた二人の兄弟姉妹は眉を顰めた。

 ティシアは腹違いの弟と妹に対し、友好的に接しようと笑顔を浮かべて近づく。


 「ティシアです、一年間よろしくね」


 にっこりと笑うと、二人は目を見開いた。

 折角なので、少し揶揄ってみようと思ったティシアは二人に対し、小さな声で言った。


 「……まさかこんなところで、腹違いの兄弟姉妹と会えるとは、思わなかったよ」


 ティシアの言葉に二人は硬直した。

 しばらくの沈黙の後、女の子の方がティシアに尋ねる。


 「あ、あなたも、もしかして、その……」

 「うん。……父親は、同じだよ」


 ティシアがそう答えると……

 女の子はティシアに抱き付いた。


 「きゃー! 私、妹がずっと欲しいと思ってたの!! えっと、ティシアちゃんだっけ? 私はアレクサンドラ。こっちはレオニダス。よろしくね」

 

 妹扱いされたティシアは顔を顰める。 

 こちとら一万年は生きてるんだぞ、ゴラ! とティシアは思ったが……

 今は普通の女の子なので、ぐっと堪えた。

 普通の女の子は一万年も生きたりしない。


 実際、ティシアの容姿はかなり幼いのも事実なのだ。

 ここは妹ということにしておこうと、ティシアは考える。


 「俺も妹ができたのは嬉しいよ、よろしくな。ティシア」

 「はい……お兄様!」

 「お、お兄様……」


 ティシアが考えていたよりも効果があったようで、レオニダスはその甘美な響きを、何度も口の中で呟く。

 

 「てぃ、ティシアちゃん! わ、私、私は!」

 「……お姉様」

 「きゃー!!」


 アレクサンドラは大喜びでティシアをぎゅうぎゅうと抱きしめる。

 母性の塊(むね)に顔を押し付けられ、ぐにぐにと圧迫されたティシアは何とも言えない気持ちになった。


 (……ティシアである時は負けてるけど、アルティシーナ神の時は勝ってるから)


 意味もない張り合いを頭の中でする。

 姉としても女神としても負けてられない。


 「ティシアちゃんは素直で良い子ね! このアホなんて、姉である私を呼び捨てにするのよ!」

 「それはこっちのセリフだ! 俺の方が兄だ!! ティシア、こんなアホなやつを見習うなよ」

 「んぐ、同じ学年だから年齢なんて大差ないのでは?」


 まあ私とあなたたちは一万年くらい差があるけど。

 と、内心で思いつつ、ティシアは二人を諌める。


 しかし二人の中ではどちらが姉、兄なのかは重大な問題らしい。

 

 「お兄様とお姉様は二卵性双生児なの?」

 

 ティシアが聞くと二人は頷いた。

 もう一つ、重大なことをティシアは尋ねる。


 「ユー、ごほん。神々の女王様には見つかってない?」


 ティシアが尋ねると二人は顔を青くさせた。

 神々の女王、ユーラ神。

 神々の王、ディシウスの正妻である。


 女神の中では珍しく、浮気もしない貞淑な妻だが…… 

 嫉妬深いことで大変有名であった。 

 彼女の怒りは浮気相手は無論のこと、その子供にまで向く。


 ティシア――アルティシーナ神――も何度か絡まれたことがあった。

 もっともさすがに戦神であるアルティシーナ神に勝負を挑むほど、ユーラは愚かな女神ではないが。


 「い、今のところは……」

 「た、多分、な」


 二人は小さな声で言った。

 

 「確かに! 見つかってたら、二人とも死んでるもんね」

 「……そうね」

 「笑えねぇよ」


 ユーラ神は浮気相手の子供が幸せになることは、絶対に、絶対に許さない。 

 割と殺す気で呪ってくる。

 さらにはその子供と関わった人間までも、平気で呪い殺しに来る。


 もし見つかっていたら、呑気に学園生活など送れないだろう。


 (まあ、もしもの時は私が守ってあげればいいか)


 ティシア――アルティシーナ神――が傍にいるとなれば、如何にユーラ神といえども簡単には手は出せない。

 仮に手を出して来たら、タコ殴りにしてやれば良い話だ。

 

 (それにしてもお父様の子供かぁ……レオニダスはきっと、英雄になるだろうね)


 ティシアはじっと、レオニダスの顔を見る。 

 見れば見るほど、父親によく似ている。


 ティシア――アルティシーナ神――は英雄が好きだ。

 有望な若者を見ると、武術を教えたり、知恵を貸したり、加護を与えたくなってしまう。

 戦神としての性である。


 アルティシーナ神である頃は、敢えてユーラ神の暴挙を見過ごし……

 試練を与えて、英雄に仕立てあげたことすらもあった。


 もっとも今は神である自分を封じていることもあり、そこまでの執着はないが。


 ティシアはレオニダスの将来を想像し、思わず笑みを浮かべた。

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