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第1話 女神様は下界に降りる

ひっそりと新作を投稿

40話前半で完結します

 「私、人間になろうと思います」

 「前からアホだと思っていたが、ついに狂ったか?」


 唐突にトチ狂ったことを言いだした愛娘、アルティシーナ神に対してディシウス神は困惑した表情で言った。

 アルティシーナ神は戦略、工芸、守護、戦争を司る女神である。

 世界の秩序を司る十二柱の神々の一角を占める。

 背中まで伸びる美しい金髪、豊かな胸と縊れた腰、突き出た臀部、そして神秘的な黄金に光る双眸を持った女性であった。

 背中で編まれた美しく長い金髪は途中から黄金に輝く蛇へと変わり、アルティシーナ神の体に纏わりつき、チロチロと舌を伸ばしながら首をもたげている。


 アルティシーナ神の父であり、祖父でもある神々の王、ディシウス神は知恵の女神のくせにどこか抜けている愛娘に優しく語り掛ける。


 「良いか、お前は女神だ」

 「知ってます」

 「なら分かるだろう。人間にはなれない」

 「別に人間になるとは言ってません」


 さっき言ったじゃん。

 とディシウス神は思ったが、一先ずアルティシーナ神の言い分を聞くことにする。


 「人間の、普通の女の子みたいな生活をしてみたいんです」

 「ほー、具体的には?」

 「ほら、お洒落して、学校に通って、恋をして、友達を作って、たまに冒険して世界の危機を救ったりしたいんです」 

 「ははーん、人間の書いた変な小説読んだな? 学園モノにでも嵌ったか?」

 「もう千冊以上は読みました。予行演習は完璧です、すぐにでも普通の女の子になれます」


 アルティシーナ神は両手を握って見せた。

 

 「恋をしたいなら、同じ神を相手にしろや。何なら、俺が相手になってやるよ」

 「お爺様はタイプじゃないです。それに神々は誰もかれも紳士的じゃないので嫌いです。野蛮人しかいないじゃないですか」

 「お前みたいなポンコツ女神に言われたくはないと思うがな」

 「私はポンコツではありません」

 「ポンコツはみんなそう言う」


 ディシウス神がそう言うと、アルティシーナ神は拗ねたようにそっぽを向いた。

 そして大きな声で宣言する。


 「とにかく! 私は下界に降ります。暫くは人間として暮らすので、そのつもりでいてください」

 「絶対、無理だと思うけどな。お前が普通の女の子とやらになるのは。王権を掛けても良いね。まあ、絶対にやらないけど」


 ディシウス神の言葉に、アルティシーナ神はあっかんべーをした。

 そしてその身を梟に変えて、飛び立った。






 アルティシーナ神は地上に降り立つと、意気揚々と街に向かう。

 どちらの方向に街があるかは知らなかったが、取り敢えず歩いていればいつかは辿り着くだろうと考えた。

 軽く一万年は生きているアルティシーナ神は大変マイペースだ。


 しばらく歩いていると、遠くから旅人が現れた。

 これ幸いにと、アルティシーナ神は旅人に近づく。


 「こんにちは、お一つお聞きしたいのですが……」

 「あ、あなたは……め、女神アルティシーナ様!! お会いできて光栄です!!!」


 旅人は出会い頭に膝を折って、アルティシーナ神に祈り始めた。

 アホでも神であるアルティシーナ神は強力な神性・神威、つまり神っぽいオーラが出ているので一目で女神だとバレてしまう。

 その上、アルティシーナ神の彫刻はそこかしこにあるのでアルティシーナ神の容姿は幼子でも知っている。


 そもそも髪の毛が途中で蛇になっている女など、世界広しといえどもアルティシーナ神かアルティシーナ神の母親くらいである。


 内心で失敗したなと思いつつ、アルティシーナ神は尋ねた。


 「この近くに街はありますか?」

 「え、あ、はい! この道を真っ直ぐ進むとアルティシーナ王国の首都、アルティシーナ市があります」

 「あー、そう言えばこの辺でしたね」


 何千年くらい前であるか忘れたが、アルティシーナが守護神となり、その名を与えた国であった。

 何かの縁だと思ったアルティシーナは、その街に住むことを決める。


 「ありがとうございます。何か、褒美を与えましょう。欲しいモノを言いなさい」

 「ほ、欲しいモノ? と、とんでもございません。私はただ道をお教えしただけに過ぎません、その程度のことで御身から……」

 「……私からの褒美は要らないと?」


 若干、アルティシーナ神は不機嫌そうに言った。

 アルティシーナ神に限らないが、神々は怒りやすい。……というより、アルティシーナ神はむしろ寛容な方である。

 もしアルティシーナ神の父、そして祖父である雷神ディシウスであったら既にこの旅人は消し炭にされていただろう。


 「い、いえ、欲しいです! えっと……実は今、私は故郷に帰る途中なのですが、故郷に何か手土産を持っていきたいと思っておりまして」

 「なるほど、分かりました。ではこれを与えましょう」

 

 アルティシーナ神は胸元から美しい装飾品を取り出した。


 「工芸の神である私が作り出したものです。どうですか?」

 「あ、ありがとうございます! か、家宝に致します。で、では私はこれで!!」


 逃げるように去っていく旅人を見て、アルティシーナ神は満足気に頷いた。

 旅人が立ち去ってから、その場で顎に手を与えて考える。


 (もし私がこのまま街に行くと、もしかして大騒ぎになるんでしょうか?)


 もしかしなくてもなるだろう。

 何しろ、今からアルティシーナ神が向かおうとしている街は『アルティシーナ』と名付けるほどにアルティシーナ神を信仰しているのだから。


 「人間に化けなくてはなりませんね」


 アルティシーナ神は目を瞑り、ゆっくりと己の神性を身の内側に押し込んでいく。

 魔術を使って封印を施すことで、神としての力を封じる。

 

 「これで普通の女の子になったはず!」


 アルティシーナ神は笑った。

 そこには神としての傲慢さや、驕り、そして権能の殆どを封じ込んだ……

 一見、人間に見える一人の少女がいた。


 黄金に輝いていた髪は煌めきを失い、栗色に変化。

 また黄金の双眸も、茶色に変わっている。


 容姿からは神々しさが消え失せ、美しいというよりは可愛らしい、どこか幼さと芋っぽさのある容姿へと変化していた。

 また体つきも退行し、十五歳ほどの未完成な肉体へと変貌した。


 黄金の蛇は消滅している。


 美少女ではあったが、少なくとも神々しい女神ではなくなった。


 「髪の毛、切っちゃおうかな」

 

 アルティシーナ神は魔術を使い、背中まで伸びていた髪を肩に掛る程度にまで調節する。

 

 「ふふ、これでどこからどう見ても普通の女の子でしょ!」


 アルティシーナ神はスキップを踏みながら、街へと向かった。



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