第九章
これでいい。
上手くミナトをだませた。
ほっとする気持ちを一緒に罪悪感もこみ上げてきた。
ミナトに話したことにだいたい嘘はない。
村を壊滅させたこともだ。
変革には犠牲が必要なのだ。楽をして何かを変えようと言うのは無理な話だ。
少なくともミナトには俺を越えてもらわなければならない。
今のあいつのネックになっているのは甘さだ。
自分の事を僕と呼ぶ時点で温厚な感じだ。それでは相手に威圧を与えることすら出来ない。
俺が村を壊滅させることで、ミナトは俺を恨む。
それでいいのだ。ミナトの感情は怒りが支配するだろう。
そうだ。鬼の様に非情になれ、ミナト。
そして俺を殺しに来い。
ミナト、お前が俺を殺した暁には全てを教えるさ。
そしてミナトは俺の意志を継いでくれるだろう。
そう「レセル」をミナトなら倒せる。
正の感情では強さに限界がある、負の感情でないと。
頼む、ミナト。
ゼンの野郎、いつからあんなになったんだ?!
僕と過ごしていたときはあんな風じゃなかったのに。
残る全ての力を振り絞り、僕は村へ向かった。
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村に着くと僕は愕然とした。多少、予想していたが、想像と現実は違う物だった。村はほぼ全焼させられ、家々は崩れ火に飲まれていた。辛うじて形を保っている物もあるが今にも倒れそうだった。ある1つの家を見ると生々しい、血の後も付いていた。
僕はのどにこみ上げてきた物を全てはき出した。きたない。
そんな僕に雨が降った。まるで天候だけが僕を慰めているかのようだった。すでに僕はぐしょ濡れで服の奥にも体の奥にも悲しみが伝わってきた。
もう何もない。僕を取り巻いていたこの環境はもう無くなった。友と遊ぶことも恋人とキスをすることもない。親に抱いてもらうこともない。全てがあった場所にはもう何もない。
「どうだよ?ミナト」
横にはゼンがいた。
「お前が断ったばっかりにこんな事になったんだぜ?」
「俺が憎いか?」
何も言えない。答える気がしない。でも答えなければ。
「・・・憎いよ」
「そうか。ついに親友でもなくなっちまったな、俺ら」
「お前が言うセリフかよ」
「そうだな」
今はゼンへの憎しみよりも悲しみの方が大きくて何もできない。
「まぁ、俺はずいぶん前からここを離れた身だからよ。何にもって言ったら嘘になるが、そう悲しくはねぇよ」
「なら・・・」
僕は・・・俺は唾を飲み込んで、決意した。
「俺がお前を殺してやるよ」
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