新しい家族
母さんはキヤにある提案をした。
単純なものだ、少女を家族にしたい、というものだった。少女の家族は死んでいると聞いていた為それにはキヤも賛成だった。しかし問題がある。
「父さん許してくれるかな…」
キラキラした少女の瞳をぼんやり見つめながらそう漏らすと母さんも困ったように頬に手を当てた。
父さんは頑固だから孤児院なり寺院になり預けろとでも言いかねない。
そう親子で思っていたが、仕事から帰ってきた父親の返答はあっけらかんとしていた。
「あ、うん、じゃあ母さん、明日役所に行って養子にする手続きしといてくれ」
「え、あら、え?はい」
俺が行けたらいいんだが仕事だからなぁとぼやく父さんを母さんが呆然と見つめている。まさか了承とは思わなかったのだろう。
すると父さんはそんな母さんに笑みを向け、「娘が欲しいと思ってたところだからこれは天からの授かりものだな」なんて事まで言ってのけた。
「きみは、名前がないんだったか。もし家族になるのが差し支え無ければ私たちできみの名前を決めていいかい?」
少女が頷く。嬉しいのか僅かに口元が綻んでいる。
次の日、少女は遠い国の言葉で春を意味する「ユア」という名前を貰った。
ユアは嬉しそうに笑う。案外あっさり決まったユアの家族入りに母さんも嬉しそうで、キヤは出会いの恥ずかしかった思いは思い出として蓋をすることにした。