冒険者って意外と大変
大会がやっと始まった。
どんな試合が行われるのか、とても楽しみだ…。
···この服じゃなければもっとな!
「さあさあさあ!記念すべき、フィスタリア第一回戦がまもなく始まります!!!」
元気良く、大きな司会の声が聞こえてきた。どうやら観客全ての人達に聞こえているらしい。何か魔法を使っているのだろうか…。
「司会進行役はこの私!」
「ターニャ・ニーニャです!!!」
わっと歓声があがった。
多分有名な人なのだろう。
しかしとても驚いたが、ネコ耳が生えているのだ。
後で聞くと、父上曰く、幻惑魔法の一種らしい。
本当に生えている人もいるようだが…。
「本日、来ていただいているのは」
「国王の、ビルグランド・バティスチア様と、」
「今日初のお披露目になる、その息子の」
「ユウ・バティスチア様です」
「めっちゃ可愛いですけど男の子です!」
などなど、笑顔で僕のことを解説している。
正直、恥ずかしいから早く終わらせてほしい…。
「えー、世間話はここまでにして」
「第一回戦目の出場者は、」
「A級冒険者の、騎士、エジットと、」
「同じくA級冒険者、魔法使いのラーンです!」
観客達が、ざわめいている。
どうやらラーンは、凄腕の火の魔法使いとして、多くの人に知られているらしい。
ちなみに、二つ名が、豪炎の魔法使いだそうだ。
いかにも厨二病染みた二つ名だが、この世界では、マシな方に入るらしい。いったいどれほど酷い二つ名があるのだろうか。少し、気になってしまった。
僕は、この試合で、魔法を見ることが出来るのかもしれないと思い、とても興奮している。
同時に、見逃してはならないと思い、僕は目線を二人に合わせた。
「では、フィスタリア第一回戦、」
「開始!!」
その声が聞こえた瞬間、試合は始まった…。
♤ ♡ ♧ ♢
試合開始前、騎士のエジットは、目の前の者がただ者でないことを、長年の経験から感じ取っていた。
もちろん、豪炎の魔法使いとして有名なのも知っていた。
そして、間違いなくこの試合はきつくなるだろうと、同時に思っていた。
だが、その予想はあっさりと覆された…。
騎士エジットは、先手必勝と思い、開始直後に、身体強化を重ねがけした攻撃を仕掛けた。
が、しかし、突然出てきた炎のバリアに、あっさり防がれてしまう。
それをエジットが理解した時には、もう手遅れだった。
自分の攻撃は、はじめから相手に読まれていたのだ。
もっと慎重に行動すべきだったのだ。
その瞬間に、上級火魔法、火炎の地獄で、倒されてしまっていた。
その間、たったの五秒。
騎士エジットが倒された時、
ほんの一瞬だけ何も聞こえないくらいに静かになり、
その後、盛大に歓声が湧き上がった。
今度は違う意味で何も聞こえなくなっていた。
僕が、あまりの試合の速さにただ呆然としていると、
ずっと隣に立っていたバルが、話しかけてきた。
「冒険者は、職業柄、一瞬のはかり間違いが、命取りになる」
「今回、騎士エジットが負けたのは、相手の実力に対しての、自分の戦法を間違えてしまったからだ」
「ようは、ただ強いだけじゃ勝てないってことだな」
「意外と冒険者は大変なんだぜ、ユウ」
その言葉を聞いて、僕は、心の底から納得した。
冒険者には生半可な気持ちではなれないのだろう。
命懸けの職業なのだから…。
僕は、心の隅にそのことを置いて、
次の試合を観戦することにした。
♤ ♡ ♧ ♢
「続いて、ニ回戦目の出場者は、」
「あの、疾風の冒険者として有名な、」
「A級冒険者、ルーナと、」
「つい先日、S級冒険者になった」
「酒豪のネビルだ!!!!」
すると、競技場に
プラチナブロンドの美しい髪をした女性と、
ひげをモシャモシャと生やした、四十代半ばの、少し太ったおじさんが出てきた。
二人とも、少しばかり空気がギスギスしている気がする。
バルによると、この二人は性格が真反対で、いつも対立しているらしい。
···が、今まで戦ってきて、決着がついたことは無いらしい。
今回の戦いで、初めて決着がつくのだろうか、と
みんなが気になっているらしいが…。