(3)「冬の国」
「さて、そろそろ国境に近づく頃だな。」
少し身震いしつつ、ようやく見えてきた国境の警備員に手を振る。
向こうもこちらに気づいたようで、一礼をされた。
「ようこそ、冬の国へ。旅人だな、入国審査の受付はこっちだ。」
「竜使いと竜だ、よろしく頼む。」
そう言うと、まもなく審査官がやって来て入国審査が終わる。
ちょびは少し吹雪いてる風が寒いらしく、俺にぴったりくっ付いて離れない。
「ちょび、街に入るぞ。」
軽く声を掛けると、ちょびは俺のバッグへと潜りこむ。
それを確認してから、街へと入る。
どうやらこの冬の国では、白竜は『雪の使い』として崇められ、恐れられている。
仔竜となればそうでも無いのだろうが、『竜使い』としての職業の認知が進んでない国になる。
揉め事にならないように、ちょびには頭の両脇にある角を隠すために帽子を被せて、
バッグの中に居て貰っている。傍目から観れば『白い仔犬』に見えるかもしれない。
鳴き声は変えられないので、十分に注意をする必要があるのは変わらない。
「キュ~。」
ちょびは小さく鳴いてバッグから顔だけを出し、雪が降る空を見つめている。
「ちょび、寒いからほどほどにしろよ。」
俺が言うと、もぞもぞとバッグの中に潜って上半分だけ顔を出す。
「明日は、大きなお祭りがあるらしいから、観に行ってみるか?」
バッグに声を掛けて軽く叩くと、嬉しそうな返事が帰ってきた。
やはり、お祭りは竜だろうが獣だろうが種族問わず好きなようだ。
俺は早々に宿屋に記帳を済ませ、ちょびを連れて買出しへと向かう。
宿で出る食事はあるが、ちょびは『ペット』扱いになってる為、満足な食事は無い。
『白竜』なんて説明したら、崇められそうだ。俺は、逆に捕まりそうだしな。
ちょび用の食事を買い整えて、帰り道。
ちょびは通り過ぎる時の食品店や衣料品店が気になるらしく、
何度もバッグの中からキョロキョロしていた。
たまに俺に『これ欲しい』と軽くバッグの中から叩く事があったので、
少しだけ買ってやりながら、街を散策して用事を済ませる。
「疲れた……。流石に買いすぎたかな。」
結構な量のちょび用の食料を部屋に置き、俺はベッドに寝そべる。
ちょびもすぐにバッグから出て、俺の隣に来て丸くなる。
ほどよいちょびの体温に暖まりながら、俺はうとうとし始めた。
しばらくそうしていたら、ちょびが起きあがって周りを見回した後に俺をつつく。
寝ぼけ眼でちょびを見ると警戒態勢になっていたので、俺も枕元の剣に手を伸ばす。
(物騒じゃない国って聞いたんだがなぁ……。)
俺は細身の剣を持ち聞き耳を立てて、物音の犯人を待つ。
(……何人だ?)
声を聞く限り、3~4人という所か。ちょびも警戒したまま俺から離れない。
「ここか? 竜使いは。」
呟いた直後に窓から2人、部屋のドアから2人入ってくる。
俺はドアから来た2人を鞘から抜かずに剣で峰打ちして気絶させる。
ちょびは窓から来た方に向かって行ったので、俺は急いで唱える。
「開錠。」
俺が呟くと、ちょびは翼を広げる。
すると、身体から白い透明な『ちょび』が出てきて、窓から来た2人を抑えつける。
「ちっ……。」
「何しに来たんだ? お前ら。」
「言うと思うか?」
「まぁ、そうだろうな。」
ちょびに放すように言って、気絶させたドアの二人も投げつける。
「相手が悪かったな。竜使いを狙うのは止めた方がいいぞ。
みんな、俺よりかは強いからな。」
「くそっ、引き上げるぞ!」
逃げていくのを見逃しながら、後で宿の店主に教えておくことにした。
どうせ、夜盗だろうし警戒しておいた方が良い。
こうやって改めて自分で遭遇すると、やっぱり狙われる対象なんだなという事を
嫌というほど理解させられてくる。
ちょびが顔をのぞき込んできたから、撫でながら考えていた。
基本的に竜使いと竜で、小さめの国の軍隊並の力はある。
それ以上は竜使いの技量と竜の相性次第だが……。
だからこそ、竜使いと竜を手に入れたいという輩も居るのだろう。
なので、俺は早々に用事を済ませる事にする。元々、長居する予定ではなかったし。
次の日。
俺は国王に謁見して親書を渡す。竜使い組合から頼まれたものだ。
内容は知らないが、国王の親書を読む様子からして悪い知らせでは無いのだろう。
「旅華。そして竜よ。」
「はい。」
「友を探してるらしいな。蒼黒種の竜使いを。」
「はい。何かご存じでしたら教えて頂けると助かります。」
どうやら、俺の事も書いてあったらしい。
「我が国では、そのような竜は見たことが無い。
残念だが、協力出来そうなのは資金くらいになりそうだ。すまんな。」
「いえ、十分です。ありがとうございます。」
礼をして、俺はちょびと一緒に下がる。
ちょびはまだよく分かってないようで、俺の肩で首を傾げている。
残念ながら、冬の国では収穫無しのようだ。
正直、資金や物資の補給が出来るだけでも、
十分にありがたいので高望みしても仕方がない。
俺は出国の支度を整えた。ほどなく、出国手続きをして冬の国を出発した。
本当は、ちょびに乗れればもう少し旅も楽なのだが、まだまだ先の話だ。
「次は、春の国に行ってみるか。ちょび、行くよ。」
「キュ♪」
荷物を抱え直し、俺はちょびと旅を続ける。
・旅華 [♂]
ちょびの竜使い。
得意な武器は長剣。
・玲 [♂]
見習いの頃からの友人。
得意な武器は、短剣。
旅華より先に竜使いになり、各地を巡る。
・ちょび [?]
旅華の竜。白く薄い、トンボのような羽と、
純白の肌を持つ、「銀白種」の竜。
・ヒョウガ [?]
玲の竜。コウモリ状の翼と、蒼い肌を持つ、「蒼黒種」の竜。
・冬の国の王 [♂]
気さくな王様。
広い領土を持つ冬の国を統べる力の持ち主。
昔は英雄の一人と言われていたほど。