(1)「駆け出しの旅人」
[旅華と玲について]
この二人に関しては、服装や武器は
小説に登場しますが、容姿には触れません。
皆さんが、好きな獣人/竜人などを想像してください。
勿論、人間でもいいです。
俺は旅華。
今日は待ちに待った、成人の儀の日。
うちの村では、12歳になると成人の儀を行い、
大人と同じ扱いになる。
旅に出るも良し、結婚するも良し。
一人前としての責任と自由が与えられる。
俺はこの日を待ちわびていた。
これでようやく、俺は旅に出る事が出来る。
小さい頃、本は沢山読んだし、じーちゃんにも聞かされた。
特に旅物語が大好きで、
自分もこんな主人公になってみたい憧れも出来、
何度も『プチ旅人』をして、親に怒られてた。
でも、もう違う。今日からは、大人の仲間入り。
俺は心躍らせながら、旅支度を整えていく。
「ほんとに行くんじゃなぁ……。」
「じーちゃんが、あれだけ武勇伝を語ってたら、
そりゃ行きたくもなるよ。」
苦笑しながら祖父を見上げる。
見上げた祖父の顔は寂しそうにしつつも、
昔の自分も同じことをしたのだろうか、
強く引き止めはしなかった。
「じーちゃんが生きてるうちに、帰ってくるよ。」
「簡単に死ぬ訳なかろう。これでもワシは昔……」
「世界を救った英雄なんだろ?分かってるから。
じーちゃんが出来なかった事、やってみたいんだ。
……じゃ、行ってくるね。」
後ろ手に手を振りながら、俺は家を出た。
とりあえずのアテは、帝都。
村から少し距離はあるがここは我慢する。
乗り合い馬車とかを使って無駄遣いすると、
すぐに手持ちも無くなってしまうので、
歩いて向かう事にした。
2日ほどして、帝都に到着。
野盗に狙われ無かったのはラッキーだったかもな。
早速、門で帝都に入る手続きを済ませて中に入る。
「やっぱり違うなぁ……。」
帝都は広いし、デカイ。入り口から見える町並みの一番奥に、
巨大な城も見える。村に居たときとは全く違う人の波と量、量、量。
俺は圧倒されつつ、まずは職業斡旋場へ。
すぐには場所もわからなかったので近くの商店で聞いてから向かった。
到着した職業斡旋所も、とても混んでいた。
仕方がないので、順番待ちをする。
30分後、ようやく自分の番になり、受付へ行く。
「どんな職を目指されてますか?」
「えーと、……特に決めてません。」
「では、5番の窓口へ。そちらで、職斡旋されてください。」
「はぁ。」
何がなんだか分からないまま、5番へ。
「職適応が高いものから順に、一覧にしたのを渡しますね。
何かあれば質問してください。」
リストを手渡され、待合室で見てみた。
各職業の隣に、何やら記号が書いてある。
×は特に向いてない職。
△は向いてない職。
○は普通。人並みに出来る職。
◎は向いている職。
◎【狩人】
○【冒険家】
△【魔法使い】
×【戦士】
△【格闘家】
○【商人】
×【裁判官】
これを見ると、俺は直接戦うのに向いて無いのか。
他には書いてあるのは……。
◎【竜使い】
ん?なんだこれ。聞いたことないな。
「すいません。これは?」
「それは、"竜使い"。
ドラゴンは御存じですよね?
そのドラゴンと共に、旅をする人達の事です。
大概は、何かしらの任務を受けて、旅する事が多いです。
……あ、旅が苦手でしたら、狩人も適正みたいですね。」
「竜使いでお願いします。」
何かとても惹かれるものがあった。
きっとこの時からアイツに出会うのが、
決まってたんだろうなって、今となっては思っている。
そのまま手続きして、職斡旋を済ませると、身分証が手渡された。
【旅華(12)♂:竜使い ランク/見習い】
身分証には、これしか書いてない。
あとは、竜使いの訓練所のパンフレットを貰った。
聞こうと思ったが、受付の人達は慌だしく仕事をしてるので、
聞ける状況でもなさそうだった。
「とりあえず、行ってみるか。」
まだ見慣れていない帝都の道を、
たまに巡回している衛兵さんに聞きながら、歩くこと数十分。
「ここか。」
入口の大きな扉には、竜に乗った騎士が描かれていた。
後で聞いた話だと大昔に竜と共に王国を守った騎士らしい。
扉を入ってすぐ受付らしき場所を見つけたので、
事情を説明し、身分証を見せた。
「……えーっと。見習いさんなんですね?
竜使い見習いの方は、右奥の大広間へ向かってください。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
さっきの職斡旋所に近いような対応だった。ここも忙しいらしい。
これも後で聞いたのだが、駆け込みで職斡旋を受ける人が
とても増加する時期だったとか。各地域の風習の時期が重なってるらしい。
大広間へ向かうと、結構な人数の…200人くらいか?
様々な種族の人達が、列に分れて並んでいた。
「見習いの子かな? 君はココの列ね。」
「あ、はい。」
言われるまま左側の列に並ぶ。
動いてる気配は無いが、このまま待っていることになりそうだ。
しばらくして大広間の奥から、威厳たっぷりの男の人が出てくる。
勲章らしきものも服にあるし、恐らく騎士長なのだろう。
「えー……、新しく竜使いになった者達よ。
まずは、君たちがなろうとしているモノについて軽く説明する。
君たちがなろうとしているモノは、とても前途多難な道だ。
有名になれる奴もとても少ない。諦める者も多い。
はぐれ竜使いと呼ばれるようなって、野盗になるものもいる。
世間からは疎まれ、恐怖の対象になっている地域もある。
全く知られていない地域だってまだまだある。そんな職業だ。」
騎士長らしき人は一息ついてから、とても真剣な顔をして続ける。
「それでも竜使いになってみたい者たちに。
改めて、心から礼を言わせて貰う。ありがとう。
君たちの未来に、竜の加護があらんことを。
では、最初にやる事を説明する。
これから君たちには、卵の選定を行ってもらう。
先輩方の後についていき、
自分のパートナーになる竜の卵を選んで貰いたい。
これが、諸君らが通る、第一関門だ。」
それだけ言うと、騎士長は奥の部屋へと消えていった。
(第一関門? 卵を選ぶだけじゃないのか?)
よく納得がいかないまま、先輩に先導されて卵のある部屋へと向かった。
竜の卵の部屋……どうやら【竜巣】と呼ばれるその場所は、
帝都に複数あるらしい。そして先輩によって行く場所も違うと聞かされた。
俺の先導をしてる方は、帝都の東側にある教会を目指している。
「……着いたぞ。こっちだ。」
そこは、教会の祭壇前。先輩が何やら唱えると、地下への階段が現れた。
「竜使いになった者達よ。竜巣の場所は他言無用とせよ。
ドラゴンは非常にデリケートな生物だ。
だが、強大な力故に、誤った使われ方をする事もある。
破った時には、命を代償にすると思え。」
言い終わった頃、巨大な扉の前に着いた。
ゆっくりと開いた先には……藁に囲まれて、沢山の卵があった。
「では、一人ずつ順番に卵に触れてみろ。
何か感じたら、知らせるように。」
一人ずつ順番に卵に触れていく。……そして、俺の番。
俺は順番的に後ろの方だったから、どのようなことが起きるのかは見て取れた。
触れた時に卵に反応があるのが本人には分かるようで、
それによって竜使いとして決定されるかどうか、という形のようだ。
つまり、竜がこちらを見定めてるということ。なので俺の番になる時には、
既に卵が決定してる者もおり……卵が決定せず、職斡旋に戻された者も居た。
戻された場合は他の竜巣に行くか、翌年の卵選定になる。
その中で再度職選定を希望する者は、
竜巣の場所を忘れる代わりに、職選定をやり直せるらしい。
……で、俺は卵に恵まれ無かった。やり直す気も無かったので、
他の竜巣をあたらせて貰ったが、見つからなかった。
半ば諦めかけた頃、竜巣に居た先輩に言われた。
「……あれ? お前は竜に選ばれなかったのか?」
「全部回りましたが……、残念ながらダメでした。」
「じゃ、もしかしたら稀に居るアレかもな。
"野生"のドラゴンじゃないとダメなのかもな。」
「え、野生!?」
先輩の話はこうだ。
極稀に、帝都のドラゴン……飼われたというと語弊はあるが。
それらの竜巣のドラゴンと相性の合わない人も居て、
そういう人は野生のドラゴンの巣から、卵を探さないといけないらしい。
普通は傭兵などを雇って、竜巣へと向かうらしい。
そんな金、持って無いな。……どうする?
先輩方に協力を仰いだが、これは"試練"だからダメだとか。
仕方が無いので、野生のドラゴンの中でも大人しい、
"紫蓮"という種族の竜が、住んでいる竜巣を教えて貰った。
旅の支度を整えて、巣へと一人で向かう。
野生竜巣。"紫蓮"というのは、名の通り、
紫の体躯と蓮の花のような形の鱗をもった、翼の無いドラゴン。
鱗は背面側にのみある。基本的に人間と争わない、大人しいタイプ。
稀に恋に落ち、人と竜の間の"竜人"も生まれる事があるらしい。
(やけに静かだな……。)
慎重に奥へと進んでいく。しばらく進むと、竜の咆哮と剣撃の音が聞こえる。
どうも様子がおかしい。音のする方へ向かっていくと、
一人の人間と、黒い竜が対峙していた。様子をみる限り、人間側が優勢。
黒い竜は……まもなく地に伏せた。
「……ここは、"紫蓮"が居る竜巣じゃなかったのか?」
剣の血を払い、鞘にしまった後、その人に尋ねる。
「運が悪かったな。それは3ヶ月前までの話だ。
今は、"愚煉"の住処。……だった場所だ。」
「愚煉!?」
愚煉とは、凶暴な野生のドラゴン。
黒竜としてよく知られており、見習いの俺では全く太刀打ち出来ない相手。
「……まぁ、どうやら紫蓮以外にも居たようだが、コイツに荒らされたみたいだな。
お前は早めに帰った方がいいぞ。いつまでココも安全か怪しいもんだ。」
「あぁ、分かった。ありがとう。」
それだけ答えて、俺は出口へと急ぐ事にする。
竜巣の書き換えがあった場合には伝えなければいけない、と聞かされていたから。
出口へ向かう途中、何故か脇道が気になり、覗いてみた。
……そこには、竜の卵があった。
「愚煉の……じゃないよな?」
恐る恐る触れてみる。すると触れた瞬間、周囲が光に包まれ、
一瞬、小さな白い竜が頭の中に見えた。
「え? この卵が俺の……相棒、なのか?」
既に契約が済んだ、他の見習いに言われていたのと同じイメージ。
自分のパートナーとなる竜の幼い姿が見えると聞いていたが、
これほど鮮明に見えるとは思ってもいなかった。
俺の場合は、この白い竜がパートナーになるらしい。
その白い卵を持ち帰ることにして、竜巣を後にする。
「白い竜? 聞いた事無いな……」
騎士長に竜巣の経緯を伝えた後に、言われた一言。
「気のせい、……だったのか?」
普通ならば何かしらの"色"を持った竜のイメージが見える。
"赤"、"青"、"黄"の"原色"に近いほど強く特性が表れるが、
他の色への弱さも強まる。だから、"白"と"黒"は本来見ない色。
"黒"は愚煉だが、愚煉だけは生まれた時から凶暴な為、飼育するのは不可能だ。
とりあえずは第一関門は突破出来たという事で、俺にも宿舎が割り当てられた。
俺は割り当てられた、見習い用の部屋へと向かう。
見習いの部屋とは言えど、竜使いの部屋は一人一室きちんと割り当てがある。
これは竜同士の喧嘩や、"暴走"を防ぐためだという。
竜は竜使いに慣れた後も不意に野生に戻る事がある。
その時に"力が暴走"して、周囲や他の竜や竜使いを傷つけてしまう事もあるのだとか。
ちなみに育て親には卵が孵った際に、竜への耐性が身に着くようで、大丈夫らしい。
ある意味、人間で言う"夜泣き"だと聞いた。
俺の場合は完全に野生のようだから、ソレは頻発しそうだ。
……大丈夫なのか? 俺。
それから竜使いとしての訓練を受けながら、3ヶ月経った。
普通なら1ヶ月もしないうちに孵り、"育児"……もとい"育竜"しながら、
初期戦闘訓練が行われるのだが、俺はまだ出来ていない。
何故なら、卵が孵らないからだ。こればかりは仕方がない。
今日も訓練を終えた後、夕食前に自室に戻る。
「なぁ、早くお前が見たいよ。どんな姿なんだ?」
そう言いながら、いつも通り、卵を撫でながら見つめる。
いろいろ想像はするが、孵ってくれないことには何もわからない。
「おーい、旅華ぁ。夕食だぞー。」
「ああ、今行くー。」
最近仲良くなった隣り部屋の玲に呼ばれ、食堂へ向かう。
「旅華の竜はどんな姿なんだろうなぁ、かなーり楽しみ。」
「玲のは、蒼竜だったよな?」
「うん。蒼竜のヒョウガ。
ちょうど懐き始めた頃だから、目茶苦茶可愛いー♪」
「だろうな。」
苦笑いをしながら答える。故郷では、玲は一人っ子だったそうで、
ペットも飼ってたらしい。それもあって、とても楽しそうだ。
雑談をしつつ食事を終え、玲と部屋に戻る。
「あれ? ヒョウガはいいのか?」
「あぁ。ヒョウガは今寝てるから大丈夫~♪
それに、起きたら分かるし。」
玲はコンコンと壁をたたく。……まぁ、隣りだし大丈夫なんだろう。
「で、旅華のは?」
「んー、……まだ掛かりそうな気もするな。正直よく分からん。」
「えー、せっかく来たのに。ま、いいか。部屋戻るわ。
ヒ・ョ・ウ・ガ~♪♪」
そんな事をいいながら、玲は部屋に戻っていく。
玲なりに気にしてくれてるというのが分かってるからこそ、少しありがたい。
実際は"孵る"時に、竜使いは二人以上居てはいけない。
誰が親か分からなくなる上に、"暴走"した時の為の耐性が付かなくなるからだ。
だから、玲はああやって立ち会うつもりは無いが、
励ますつもりで言ってくれてるんだろう。たまにそうやって様子を見に来るし。
「今日は早めに寝るか。……おやすみ。」
卵を撫でてからベットに横になる。
数分後。目を瞑ってウトウトしてた頃、小さな物音がしたので起きると。
卵が僅かに光っていた。……触れてみると、暖かい。
「とうとう生まれるか?」
独り言を呟いて、卵の様子をうかがう。
「……キュ。」
小さく鳴く声が聞こえた。俺は優しく卵を撫でる。
しばらくして光が弱まった頃、
卵のてっぺんに穴が空き、徐々に卵が割れていく。
上の方が綺麗に割れて頭が卵から飛び出ると俺を見つめてくる。
「キュ?」
卵から出た顔に見つめられたので、俺は声を掛けた。
「こんにちは……じゃなくて。
こんばんは、だな。よろしくな、小さな相棒。」
生まれたばかりの白い子竜の頭を撫でると、
小さく鳴いて、少し嬉しそうだった気がした。
のちに『ちょび』と名付けた白竜と俺の物語は、
ココから始まったのだった。
・旅華 [♂]
ちょびの竜使い。得意な武器は長剣。
・玲 [♂]
見習いの頃からの友達。
得意な武器は、短剣。
旅華より先に竜使いになり、各地を巡る。
・ちょび [?]
旅華の竜。白く薄い、トンボのような羽と、
純白の肌を持つ、「銀白種」の竜。
・ヒョウガ [?]
玲の竜。コウモリ状の翼と、蒼い肌を持つ、「蒼黒種」の竜。