異界
第3章 異界
俺達は時間潰しの為に近場で食事を取ることにした。山岸に奢らせる事を前提として俺は百香亭という中華料理店を選んだ。個人的にはこの辺りでは高級な店舗と認識している。渡部は席に着くなり高菜チャーハンを注文する、コイツは大体の店舗で食うものはいつも一緒なのだ。俺は少し考えた後にナスのバジル炒めと鳥のから揚げそれからかに玉を注文した。渡部が目の前で嫌そうな顔をするが当然無視する。山岸は苦笑いしながらご飯のセットを注文した。
「先に言っとくがあたしはチャーハン以外アレルギーだからね!」
「そんな話は聞いた事が無い。」
「あっしはまた食うもんえらべねぇパターンか・・・。」
などと各々言いたい事を言った後は一心不乱に食い始める。感覚を空けると無理なのだ、一気に食わなければ腹が一杯になる、渡部はあっさりと片付ける。高菜チャーハンは一皿で3人前はあるがあっさりした味付けと少な目の油で調理しているので旨くて食いやすい。一方、俺と山岸は必死に取り掛かった。ナスは以外に油がしみている為に結構重い、バジルが程よく聞き食欲をそそるがご飯が足りないのである。から揚げも上品な味付けでけしてしつこくない、しかし、数が多すぎる・・・。明らかな注文オーバー、渡部が冷たい視線で見てくるが俺は余るのが当たり前とばかりに3分の1程の料理をテイクアウトするのだった。
「奢らせた上にテイクアウトとは・・・。」
「知ってるか、中華ってのはそもそも残るように作ってるんだぜ。」
「んなわけあるか。」
「食べ切れたら歓待仕切れなかったということらしいぜ。」
などど適当なことを言いながら会場に戻るのだった、会場に戻ると参加者が次々に集まっていた。年齢層も幅が広く全部で30人近くいそうなかんじだった。そんな会場を一人の女性が整理していた。
「では、皆様。お手持ちの番号の席におつきください。」
「我々も受付をお願いします。」
俺が話しかけると名前を確認し、その後、他のスタッフを呼び交代する。
「失礼しました、鮫島様ですね?VIPルームにご案内しますね。」
どうやら、俺達は岡田達と一緒に参加しなければいけないようだった。俺がげんなりしているうちに山岸がちゃっかり受付上を口説き始めた。それを見なかった事にして俺と渡部は決められた席につくのだった。30分後うきうきした山岸が俺の横に座りながら嬉しそうにゲットしたメアドを見せびらかして来たので破ろうとした、と、その時。岡田が立ち上がり何かの準備が始まった。
「会場の皆様、本日はお集まりいただき誠に有難うございます。会長の岡田です。」
「今回の企画ですが皆さんには是非楽しんでいただきたい、賞金なども用意してますので是非良いお話をお願いいたします。」
「では、ルール説明を致します。今回は皆様に怪談とそれにまつわるグッツをお持ち頂いています。」
「まずは、お持ち頂いたグッツを祭壇において頂き、その後、怪談を披露して頂きます。」
「その後、奥の扉から先の部屋に進んで頂き、再奥の部屋の鏡をのぞきその後行燈の火を消してください。」
「終わりましたら戻ってきて頂きます、その間も怪談は続けて頂いて結構です。」
と、先ほどの受付の女性が笑顔で説明する。まぁ、こういうのも失礼だが何故あのような美人がこんなイベントに参加してるのだろう?オカルトとは縁のなさそうな明るい性格。清楚さの中にも大胆さをあしらったミニスカ浴衣から出た生足が眩しい・・・。金とはなんでも手に入るのだな。などと思っているうちにどうやら開始されたようだ。
「岡田です、今回はお集まり頂き誠に有難う御座います。本日は是非楽しんで言って下さい。まずは私からお一つお話をさせて頂きます。」
それは、江戸時代後期とある若者が百物語をし、その後現れる怪異達を撃退し、怪異たちの棟梁から贈り物を貰うというまさに今回の会の手本のような話をした。
「これが、その時に与えられた木槌です。」
会場の皆が息を呑む歴史資料になっているあれを持ってくるとは。では、怪談を続けましょうといい、他の者達も怪談を続け、自慢の逸品を出していった。しばらくたった所で異変に気づいた。明らかに参加者の数が減っているような気がする。寧ろ誰も戻ってきてないのではないか?
「なんか人が戻ってこないような気がするな。ちょっとみてきましょうか?」
「いえ、大事なお役目がありますのでここでお待ち下さい。」
岡田がそういうのでそのまま待つことにする。もしかすると終わったらそのまま退室する流れなのかもしれない。そうこうするうちに岡田がそろそろ頃合かとつぶやいた。
「では、鮫島先生。払いの祝詞をお願いできますか?」
「とはいっても道具ないですよ?」
「これをどうぞ」
そういって渡してきた守り刀を受け取る。刃が無い儀礼用の銀の刀身だった。払いというか祭儀用の気がするがまぁいいか。俺には物質に霊的な力を移す、若しくは増幅する能力がある。これを我が
一族では神気とよんでいる。神気は実は誰にでも例外無くある物なのだ理解して使う意思さえ持てば覚醒する事ができる。しかし、信仰の無いこの時代では目に見えて発言する能力は希少なので説いたところで詐欺師がいいとこなのである。俺は刀の力を増幅し銀の霊力を木槌に送る。銀の霊力は悪しき魂なら浄化し、尊き魂ならば格を上げる若しくは回復させる効果がある。俗に魂呼びや神降ろしなどと呼ばれる儀式である。呼ぶも払うも紙一重とはこの事だ、何も起こらないはずだった・・・。銀の霊力を吸収した木槌に神格が蘇る!常世に信仰が無い以上その効果は出ないはずしかし、起こりえない事は起きた。
「馬鹿な!そんな筈は常世に信仰はない!何より木槌に由来があるのは魔王だろ!」
「そう、常世に信仰は無いよ、常世にはね。」
俺の叫びに岡田が答えた、くそ!謀られたか・・・。そう、この百物語自体が儀式だったのだ常世の一部を魔境に召喚する儀式、怪異を呼ぶのではなくこの建物を魔界に落としたのだ!今思えばおかしな事は幾分あった、コイツは知っていたのだろう。俺の増幅は未熟ゆえ常時発動なのだ常世では例外無く儀式は成功しない、信仰が無いからだ。しかし、この建物内で世界を区切り信じる者だけを集めた、それでも足りない、だから集めたのだ御神体となりえる曰く付の品々を。それでも足りなかった。だから、信仰。この場合は畏怖を集め神体に注ぎそして尚且つ俺の増幅を使ったのだろう。本来ならば起きぬ状態を偶然を装い確実に遂行したのだ結果、断言しようココは魔境だ。ならば儀式は当然成功する。
「ついに、ついに私は戻ってきた!」
「陰陽師に力を拡散され千数百年、私の意識が覚醒した時には信仰が無かった。」
「世に必要なのは畏怖よ我はこれより魔境を広げ神世の時代を取り戻す。」
「まずはこの場のものを我が配下としよう光栄に思うがいい。」
岡田だった何者か恐らくは神世の時代の魔王なのだろう、その畏怖は強大で禍々しいはずの邪気は神々しささえ感じるほどだった。鏡の魔に手をかざすと何かの祝詞を語る。その瞬間そちらからうめき声のようなものが聞こえてきた、恐らく今のは口寄せの類だろう無数の邪気が迫ってくるのが分かった。
「こいつはまずい、観音法千手瑠璃結界!」
俺は16個の瑠璃をばら撒きながら呪いを行う、近くの俺、渡部、山岸、受付のお姉さんの4人に回りに瑠璃がまい回転して周りを回る。俺は叫びながら一目散に走った!
「出口から脱出する!何も考えずに走れ!」
「やれやれ、とんだ災難ですね。」
「考えんなってのが無理でしょうよ、お嬢さんお手を。」
「すいません、ありがとう御座います。」
四人で一気に駆け抜ける、申し訳ないが一般会場は見捨てるしかないだろう。前方から禍々しい一団が呻きながら迫ってくる。ゾンビのような者だと思えばいいだろう、奴らは魍魎。死んだ人間の魂が落ちた存在、人は死後一定期間放置すると魍魎に落ちる。意識が無くなり神気に惹かれ神気を喰らう存在となる。神気を食われた人間もまた魍魎となる。魍魎は神気を喰らい新たな神気を得るそして意識が覚醒したものが怪異に至る。また、その怪異が更なる神気を得て神に等しい力を持つとそれは禍津神へと至る。そうして魔王が生まれる。
「仕方ない!明王法孔雀玻璃浄化珠!」
俺はポケットから一掴みの石英を投げ放つ!それらは魍魎共に向かって打ち抜き消滅させる。これで奴らも転生するだろう。しかし、全ては浄化しきれない。意を決して扉まで飛び込む様にして転がり出た。つかみかかって来る奴らは瑠璃が弾き飛ばすが瑠璃も砕け散った。
「全員無事か?」
「えぇ、まぁ。しかし貴方、本当に超能力者だったんだねぇ。」
「いや大したもんだ逃げずに倒せばよかったんじゃないですかい?」
「逃げたって事は絶対に勝てないって事ですよ。周りを見て下さい。」
見た感じは現世と同じ、だが決定的に違うところがあった。景色は荒廃し同じ場所には見えない、そして、天は黒く空はなくなっていた。
「ここは我々がいた世界じゃない。だが、建物の配置とかは同じようだ。渡部どうする?」
「そうですね、寧ろ貴方が本職っぽいですが立て篭もるならいい場所がありますよ。」
「まずはそこまで走って逃げよう!」
こうして、俺達の逃走劇が始まった。この後、魔王は現世の侵食を進めることになる、この3人がその侵食を止める切り札となるのだがそれはもっと後の話になる。今は只逃げるのみ、現世においては詐欺師、変人、鬼畜と言われるこのどうしもない奴らが英雄と呼ばれる事になる。だが今はひたすら逃げるのみだった・・・。
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