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異界百語  作者: 西渡島 勝之秀
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異界落とし

             

 

 突然ではあるが俺は神経がいかれてしまったのであろう。まともな奴じゃないと思って話を聞いて欲しい。まともな人間であればこんな事を言い出さないであろう。

 そも、常識とは何か?何を基準に決めるのか、そんなことを言ったらそもそも、まともな人間など存在しないのかも知れない。そんな事を考えている俺の横を何かが横切っていく。たれてきた血と前の壁に突き刺さったそれを見る事によって俺は血の気が引くのを感じていた。

 普段目にするいつもの町、しかし、いつもと違う町・・・。辺りに人気はなく車や動物もいない、なにより、この町には空が無い。ただ黒い空間が空に広がるだけだ。そこで俺は逃げることしか出来ない。噂の怪人から、黒いシルクハットを被った黒マントの紳士。仮面舞踏会の様なマスクを被り、ゆっくりと、ゆっくりと追って来ている。そう、確かに動きはゆっくりなのだ。だが、全力で走る俺のスピードにどんどん追いついて来る。そのゆるい動きと迫るギャップに恐怖を覚え、声にならない声を発しながら俺はただただ、ひた走る!

 ついに追いつかれ、肩を掴まれるその瞬間、俺は盛大に転んだ。転んだ勢いで回転しながらゴミ箱に突っ込む!その勢いでまき散らかったゴミに足を取られた紳士がよろめく。その瞬間、空が落ちてきた。



 やぁ、皆さんおはよう。おはようと言っても時間は13時をとうに過ぎているのであるが、俺は最近会社の上司と凄まじい喧嘩をし、28歳という働き盛りでありながらサラリーマンをドロップアウトするハメになったなんとも間抜けな男である。

 ドロップあうと?再就職しろ、なんて野暮な事を言う君の為に軽く経歴紹介と行こうか。まずは学生時代からいこう。小中学校と平凡に過ごし・・・。すまん、嘘をついた。まぁ、虚弱体質だったので多少の虐めを受けることになった。そして、高校に入り私は自分を変える為に格闘技を嗜んだ。まぁ、あれだ復讐とかの為とかでは誓ってないぞ。入学5日目に調子に乗って中学時代に苛められた同級生が絡んできた時にクラスメートの前で気絶させたりしたが、自己防衛だ。けして無様に恥をかいて片身が狭くなるといいさ。なんて思ったことは無い。そう、断じて無いぞ。俺は高校を優秀な成績で卒業、科学部の部長を務め、生徒会役員を兼任、応援団の副会長を務めると内申も上場で専門大学に推薦で合格した。

 だが、良かったのはココまでだった・・・。入学した大学は半年で喧嘩が原因で自主退学せざるをえなくなった。なかなか職が決まらず、20歳で飲食店のバイトに合格するも注文を聞きに言った酔っ払いが暴れだし、俺の右ストレートが見事にクリーンヒット。ゴングと共に俺の初就職は解雇でノックアウト。

 それから3年程派遣社員をするも短気が元でいの一番に解雇通告される。俺はこの頃本当に思ったね、俺って本当に優秀な学生だったのか?社会不適合者なのではと・・・。そんな俺が変れたの23歳の時だった、某大手企業のゲーム会社がスーパーの一角に小さな店舗を出店すると言う事でバイトに面接に行ったところ合格。俺の経歴を知った上で雇ってくれた上司に感謝し前向きに頑張ったところ3ヶ月で店長に任命される事になる。5年間実績を積み子会社の社員になり、これから本社社員になろうという時に会社が某大手と合併。新たに来た上司にアッパーカットが炸裂するまでに掛かった期間は1週間となかった・・・。

 と、まぁ。サラリーマンが向かないと悟った俺は便利屋を開業する事になった。そもそも、喧嘩が強かろうが、頭が良かろうが、苛められる奴は苛められるのだ。俺は今までの経験を生かしカンセリング重視で開業したが驚くほど客がこなかった・・・。正直、ちょっとおかしな常連さんたちで何とか持ってる感じである。そんな中、突然ドアが開いた。

 「うっす、おつかれ~。」と、気の抜けた声で25歳くらいの眼鏡をかけた男が入ってきた。「相変わらず暇だね~。鮫島さんやる気あんの?」などど、失礼な事をいうコイツは渡部靖、近所の書店の馬鹿オーナーである。

 「まぁ、いんだけどね。何回も言ってるよね空ける前に呼び鈴押してって。まぁ、いいけどさ。」

 「それ、良くないと思ってる人の台詞だよね。良くないならちゃんと言わないとわかんないよ。まぁ、言われたからってやる事はかえないけど。」

 「わかってんじゃないか!分かった上でやるんだもんな!この前全裸で入る時に空けたんだから反省しろよな。」

 「鍵を開けたまま全裸になってる変態なオマエが悪いって決着でいいね。」

 「あぁ、もうそれでいいよ!メンドクセェ眼鏡だ。」

 諦めた俺を勝ち誇った清々しい顔で見ながら言うコイツは悪友である。見た目は正直に言って特徴がない。中肉中背、そして髪型も只程よい長さに切っているだけ。特徴と言えば眼鏡だけである。寧ろ眼鏡が本体なんだろうな思うくらいだ。只、普通の見た目によらず中身はかなりの変人である。経営する書店も癖のある他では置いてないような呪いの本や怪談が中心で後は売れ筋の漫画がある程度である。故に仲がよくなったのだが・・・。

 「ところでさ、仕事紹介に来たんだけど。」と、渡部が語りだした。

 「仕事、どうせいつものお守り売りだろ?」と、俺は返す。俺は実家を出て一人暮らしだが、爺さんが昔、まじない師をやっていたらしい。昔は評判だったらしく、その情報を聞きつけたコイツが商売にしたのだ。

 「あれだって、あんたの収入源の大半じゃないか。それなかったら家賃滞納で出て行く寸前だったでしょ。まぁ、貰えないの俺なんだけどね。」そう、大家でもあるのですよ悔しい事に。まぁ、彼くらいしか俺に部屋など貸してくれんのだがね・・・。お守りってのはパワーストーンや古銭なんかの分かりやすい媒体に俺がまじないをかけた物らしい。模造刀なんかもある。昔、爺さんがやっていたらしく同じ事をやった物を近所のご年配さんがありがたがって買っていくのである。そのうち捕まるんじゃないのかねこりゃ・・・。

 「感謝はしてるけどさ、あれはいいのか?」

 「本人が納得してれば問題は無い。再開して嬉しいといってるだろ?神社にお参りいくのと同じさ。」

 「そうね、で、依頼の内容は?」

 「ある好事家がね、百物語りをやりたいと言っていてねそれに参加して欲しいそうだ。」

 「百物語りねぇ・・・。今更なこってすな。」

 「そうでもないよ。今も昔も人気は変らんさ。何でも本当になにかあるのか確かめたいんだと。」

 「気が進まんねぇ、俗に言う霊能者枠だろ?詐欺になんだろ。俺の能力なんて確認できないものなんだぜ。見えないし、聞こえない。感じはするが、出来るのはこめるだけ。それも、最低3ヶ月は時間かけた物じゃないと効果ないって代物だぞ。」

 「そんなのは君のルールさ、効果気にしなきゃもっと売れるのにさ。どうせ効果あっても証明出来ないのは一緒だろ?ギャラがいいんだよ。20万、仕入れのツケ払ってよ!」

 「それを言われると断れないんだよな・・・。」

 「結果同じなんだからつべこべ言わずについて来い。車で待ってるから5分以内にきなさい。」と、ドアから出て行った渡部を見ながら俺はため息をついた。なんにしても、行くとするか。この後俺が彼と共に数々の困難を乗り越える事になるとはこの時はまったく思っていなかった。



 俺は渡部の車に乗り込み目的地を尋ねる事にした。

 

 「で、どこにむかうのさ?」

 「何、ついそこまでさ、県道沿いのスーパーの先の潰れたパチンコ屋。」

 「あそこかぁ、まだ犬がいるとかないよな?」

 「流石にそれはないだろ、噂によると系列店に引き取られたらしいぞ。」


 俺達は何故か店舗の裏口に犬を飼っているというアットホームなパチンコ屋があった廃店舗に向かうことした。立地もよく広い駐車場があり料金設定も遊び感覚で遊べるいい店だったのに残念だと思いながら、そうこうしている間に目的地についた。

 

 「どうやら開いてるようだな。」

 渡部がドアを開け中に入るのを見て俺も後に続く。中に入ったところ機材などは運び出され広い空間が作られている。それどころか、オープンしていた時よりも中は綺麗に清掃され、ソファーやテーブルなどが用意され快適な空間が整っていた。


 「てか、住めんじゃない?俺の部屋よりグレードがいいってか、廃屋じゃないし・・・。」

 「貴方の部屋と比べるのはどうですかね?あれは人の住む部屋じゃないでしょ。」

 「本人目の前にしていう?酷くない?傷つきますわ。」

 「酷いのは貴方でしょ、最終的にどうにかすんのわたしでしょ?分かってる!ねぇ!」


 と、若干引く勢いで渡部が切れ始めた・・・。どうにも困った俺は話を摩り替えることにするのだったが、これは収まるのだろうか・・・。


 「まぁ、そんな事より随分と盛況じゃないか。」

 「あ、ごまかしやがりましたね?まぁ、そうですね一体いくら予算使ってんんかね。」


 などど話していると遠くから一人見慣れた男が近づいてきた。その男は背が高く180cmはあるだろう高い身長に反して体は随分と細い感じの男だった。スーツ姿にサングラスの短髪を逆立てた男はその容姿に反した明るく親しみやすい声で話しかけ来た。


 「やぁ、渡部さん。相変わらずそんなチンピラとつるんでるんでるんですかい?」

 「まぁね、そういうあんただって週一くらいであって遊んでんでしょ?」

 「麻雀の決着がつかなくてですね、勝敗がはっきりしないと気持ちわるいんでさ。」


 二人のやり取りを聞きながらどうしようかと思いながらも俺は疑問を口にする事にした。


 「どうも、山岸さん、いつもお世話になってます。今回はどうして?趣味じゃないでしょ?」   「そうなんすけどね、金が絡んできたら話は別ですわな。この辺りで大金動いてたらそら。」

 

 そう、この男、山岸秀紀はこの辺りを牛耳る地元では有名な会社のドラ息子である。まぁ、仕事を世話して貰っている関係で頭が上がらないのだが。それ以外でも人情味に熱いナイスガイである。


 「自販機あるけど金入れなくてもボタン押せば出るんで好きなだけ飲んで下さいよ。」

 「そらまぁ、至れりつくせりで、でも、これで繋がったな。あんたが俺を引っ張りだしたんだな」

 「おお、流石!こいつはご名答。今回もピンはねさせて頂いてますよ。」


 爽やかに、さらっととんでもない事言いやがった!渡部もとおしてるからなこいつら俺からいくらぬいてやがんだよ!などど考えてると。


 「もちろん、私もピンハネしてますよ。」


 と、ニヤニヤしながら渡部が言う。そう、コイツは分かっているのだ。俺がどこでイラつくのかをそして、分かった上でベストなタイミングでぶち込みやがる。俺は二人を睨みながら自販機に行き、いつものお気に入りのホットコーヒーを選ぶ。ガタンっと音を立てて出てきたのはジンジャエールだった・・・。


 「飲み物は大切にしないといけませんぜ!」

 「何故?ジンジャが・・・。」

 「仕込んどきました!」


 凄く嬉しそうな顔で爽やかに決めやがった!コイツに飲み物の差し入れをする時に渡部と共謀し、ジンジャエールで統一した結果コイツはジンジャエールが嫌いになった過去があった。その復讐か・・・。ガコンっと音が鳴り驚愕の表情で立つ渡部がいた・・・。


 「驚きましたね・・・。裏を書いて全然見当違いな物をえらんだのですが・・・。」

 「そこまで計算済みですよ、あっしはやられたら、やりかえす、そういう男です。」


 などど下らんことを言い出した山岸のドヤ顔を後ろに作業が開始された。スーツ姿の男が作業服姿の男達に指示を出す。


 「中のジュース全部ジンジャだからさぁ、正しいのに入れ替えて!なにこれマジうける!」


 茶髪の若造がケラケラと笑っているがあれはなんだろう。そこまで俺をイラつかせる演出だとしたらコイツはもはや神の域に達したのではないだろうか・・・。


 「それはそうとして、紹介しないといけない人はいるんですわな。ついてきて下さい。」


 仕方なく後をついていくと別室になっている部屋に通される。そこには明らかに高級ないでたちの初老の紳士がそこにいた。老紳士の名は岡田清よくはわからないが古くから続く名家の当主という事らしが俺が気にすることではないのであろう。


 「貴方が鮫島先生ですね、今日はどうぞよろしくお願いいたします。さっそく準備にかかりたい」

 「わかりました、お受けしたした以上はプロの仕事をさせていただきましょう。」

 「では、設営のチェックと手直しををお願い致します。」


 こうして、俺達は設営のチェックに入った。相当こだわっているのであろう、大きな店舗を活かしL字型に会場を3部屋に区切っている。百物語りのルールとして、一番奥の部屋に行灯を100個用意する。その行灯には青い紙を貼るとされている。これはOK。というか、よく用意したな。そして中央に文机が置かれている、これもOKだ、その上に鏡を置くのだが俺はそれを見て背筋から悪寒を感じた。よくは分からないがこれは不味い・・・。俺はそう感じたので店舗から持ってきた玻璃を二つ台座に置いて配置した。次に真ん中に当たる部屋だ、ここは無灯にし手探りで次の部屋に進むための部屋である、その為物があると危険なため当然何も無い、何も無いのだが・・・。よく見たら奥の部屋に繋がる扉って完全に鬼門じゃねぇか・・・。俺は悪意しか感じないその部屋の4隅にこっそりと瑠璃を配置した。最後に百物語の参加者が待機する部屋があるがこれは何も変哲も無いとは言わないが得な何も無い。部屋こそ無灯で暗くなるが大勢が待機でき隣の部屋に向かうのも危険が無いように椅子の配置なども考えられているようだ。そして、最後に部屋の再奥にVIPルームと言う訳ですか。ご丁寧に霊的処理もこの部屋だけは考えられているようだ。どうやら江戸期に流行した伝統スタイルのようである。


 「確認終わりました、大筋よろしいでしょう。」

 「有難う御座います。して、如何ですか?我らの準備は。」

 「江戸期の伝統スタイルですね、武家が好んだ方式でしょう、よくご存知で。」

 「我が家は所縁がありましてな死期が近づくと先が知りたくなるんですよ。」

 「なるほど、それなりの理由があるのですね。では、後はどうしましょうか?」


 どうやら、この男は死後の世界が気になるらしい。死んだらどうなるのか?誰も分からないからこそ、そこに恐怖が生まれる。恐怖が生まれるから信仰や怪談などの類が流行るのだろう。まぁ、その先の世界は確実に存在するだろう、だがそこに絶望しかなかったとしたらこの方は大丈夫なのだろうか?などど考えていたら山岸達が近づいてきた。


 「では、鮫島さん。後は開始時間まで待つだけなのでどうしますか?」

 「2,3時間あるようですね。3人で食事でもしながら時間潰しませんか?」

 「なるほど、飯を奢れと?よろしいでしょう。ではまいりますか。」


 こうして俺達は一時会場を後にする訳ではあるがこの後人生が変ってしまう大事件に巻き込まれるとはまだ思いもしていなかった・・・。

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