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威力無限のヒーリング





前世の記憶があったところで、何の役にたつと言うのか。

この世界は全く異なる世界、名は知らない。

惑星や、世界といった定義すらあるかどうか。


国の名はアークライト。アークライト公国。


私が住むのは、国でも多少は栄える街の食堂。

街の名前はワイリェン。


うちの食堂はちょっとした味自慢。昼も夜も客は絶えない。

小さいときからこの食堂の味に舌は慣らされ、身内贔屓かもしれなくても、美味しいと思う。

けど、実はうちの店、以前はそれほどお客さんでいっぱいじゃなかった。


こうしてお客さんで昼も夜もいっぱいになったのは、最近の話。

ちょっとした噂になってからだ。


冒険者とか、力仕事とか、危ない仕事をしているような人たちの間で。



「──ムーン!お客さんだよ!」


「はーい!あ、こんにちは、ランツァさん!また派手にやったねー」


「む、ムーンちゃん…いつもわるいな」


「いいえぇ。お小遣い稼ぎになって私も助かります。うわあ、お腹に三本傷」


「お、おぉ。ジャイアントベアにやられてな」


「あらまー。血もいっぱい出てますね…」


「ああ、だから…ムーンちゃん、頼むから早く…!」


「あ、スミマセン」


見れば、顔が青くなってる。

まずいまずい。早く回復してあげないと。


腹部に負った傷に手を掲げる。


パァア、と淡い光が掌から注がれて、数分の後に傷は綺麗に塞がった。


ふう、と額の汗を拭う。


そして、調理場にいた父に向かって一声。


「とうさーん!血が減ってるから肉系出したげてー!」


「あいよ!任せろムーン!」


「ランツァさん、起きれる?」


「おお、ありがとな!ムーンちゃんにゃいつも助けられてるぜ!」


「えへへ。じゃあ、血が減ってるからたらふく食べてってね!売り上げに貢献して!」


「ははっ、敵わねぇなあ。一応、病み上がりじゃねぇか、俺?」


苦笑しながら起き上がったランツァは慣れたもので、言いながらも席についてるし。

そんな光景はこの食堂じゃ日常茶飯事。


そう、私はこの癒しの力で傷を負った客を助ける代わりに、すぐ動けるような容態なら食事もしていくように仕向けた。


冒険者なんてやってる人たちなら、すぐ腹が減る方に欲求が傾く。

睡眠が勝って体力を回復させる人もいるが、大体が食事をして体力を回復させる。


だから、私の力が広まるに連れて、お客さんも増え、常連となってくれる人たちも増えて。


今の繁盛した状態になったというわけだ。


始めに駆け込んできた治癒客は、そこまでひどい傷じゃなかったけれど、見かねて癒したのが始まり。

まさかここまでの状態になるとは。


そして。


この力には、私に対する副作用もあるのだ。


とても困った、副作用が。



「はい、ムーン。これはあんたに」


どん、とカウンターの端の席に置かれた皿を見て、飛びかかるように席につく。


「いっただきまっす!」


「たく、ゆっくり噛んで食べんだよ」


恰幅のいい女…私の母が、呆れたような目を寄越す。

しかしその眼差しは優しい。


「難儀な力だねぇ。使ったらお腹がすくだなんて。あんた、ずっとそのまんまかもね」


嫌みを言っているようで、しかし悪意のない言葉。

母にとっては別に体型なんてどうということでもないらしい。


父も母も、私のこの肉付きのいい身体に文句はなくて。


コロコロでかわいい、と誉めたりするわけではないけど、美味しいと自分たちのご飯を食べて育った姿に嫌な気はしないらしい。


痩せたきゃ痩せればいいけど。

あんたの身体に何がいけないとこがあるんだい、と。

少し悩んだ時に言われた言葉に、私はこの身体を力を、愛すると決めた。


まあ、この力の副作用で痩せることは難しいとわかったし。

しかも、力を使うことで大分体力を使うので、プラマイゼロで増えることもなくなったからいいかなと。


この力で助けられる命に、背を向けることもどうせできないのだから。



開き直った私は、前を向いて胸を張って歩くのだ。






威力無限のヒーリング



癒しの力をあたえよう


きみはやさしい癒しをもつ子。

きみ自身をあいしてあげて。




やさしいやさしいムーランティ

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