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墓参りのサンタクロース

作者: サブ麻酔

ただただクリスマスものが書きたかった駄作者の作品です。

 12月24日。

 街はイルミネーションと大勢のカップルで溢れ、軽快なポップスがあちこちから流れてくる。その一方で、道の隅を一人で、鞄で顔を隠すようにこそこそと歩いていくサラリーマンや学生も少なくはない。都会のクリスマスイブの典型的な光景だ。

 賑わう噴水広場から少し離れた場所に、一人の少年の姿があった。恋人や家族は近くにおらず、一人でぽつんと立っている。いや、立っているというよりは「浮いている」と言った方が正しい。

少年は地面についていない足を震わせ、小さく呟く。

「お前ら……、そんなに楽しいか?」

 少年の声は誰にも聞こえていないようだ。道行く人は皆、少年の立つ場所ーー小さくて苔だらけの墓など目に入らないかのように通りすぎていく。

 少年は強く舌打ちを繰り返すと、誰にも届かない声を怒りの限りに張り上げた。


「お前らーっ、俺の命日の何がそんなに幸せなんだよーっ!」



 今から4年前の今日。少年は自転車で塾に向かう途中、車に跳ね飛ばされて死んでしまった。事故現場は噴水広場と廃れた墓地の中間地点あたり。現場に近い墓地に眠っているわけだが、毎年この季節ーー特に今日の日になると、嫌でも幸せそうに生きているカップルが目に入る。不愉快でないわけがなかった。

 俺も生きていたら、今頃は可愛い彼女作ってデートしていたのに、なんて大見栄は切らない。だがしかし、同じ境遇の男友達を集めて、チキンだのケーキだのを頬張るくらいの幸せは毎年手に入っていたのではないかと思う。

 

 死んでから4年経ち、命日に墓参りに来てくれる人は少しずつ減っていき、今年は両親だけになってしまった。友達や先生はおろか、兄弟すらも来ない。

 弟は俺と違ってよくモテたからな。どうせ今頃は、仲良く女と歩いてるんだろーー。俺、拗ねちゃうぞ。

 膝を抱えて座り込んでみた。やっぱり尻が地面につくことはない。

 もう全部終わってしまったんだ。俺には生きている人間に届く声も、人の隣を歩ける足も、何にもない。こうやって、見たくもないデートスポットの賑わいようを毎年眺めてイブを過ごすしかないのかなーー。





「……こんばんは」


 突如、少年の前に見知らぬ女性が現れた。顔は後ろを走る車のヘッドライトによる逆光でよく見えないが、手に小さな花束らしきものを抱えているのが確認できた。

 彼女は乾いたタオルで少年の墓を拭くと、墓前にそっと手の花を置いた。

「寂しいですよね。イブにここのお墓で一人なんて……。そう思って来てみたんですけれど。迷惑だったらごめんなさい」

 花束と思ったそれはクリスマスリースだった。最初は参る墓を間違えて来たのかと思ったが、彼女の言動を聞く限り、そうではないように聞こえる。

 彼女は小さく後ろを振り返ると、ポケットから何かを引っ張り出した。

「ここ、場所が悪いですよね。デートスポットのすぐ近く、なんて。こうしたら見えませんかね?」

 暖かい布の感触と共に、視界にあった街と女性の姿が消えた。女性が少年の墓にサンタ帽を目深に被せたのだ。

 なんて変わった人なんだろう。こんなに霊の気持ちをよくわかってくれて、なおかつイブに見知らぬ故人の墓参りだなんて。

 女性は少し顔を赤らめて、小さくお辞儀をした。

「……おせっかいしてごめんなさい。メリークリスマス、です」


 本当におせっかいだ、と少年は口の中で言った。

 サンタ帽なんて被せるなよ。せっかく優しい女の人に出逢えたのに、また来てくれたらと思ったのに、どんな顔の人だったかわからなかったじゃないか。

 

 少年は、ゆっくりと姿勢を直立に直した。

「……悪くはなかったかな。このプレゼント」

 誰にも聞こえない透明な呟きが、ジングルベルのメロディーに乗って消えていく。

 賑わう広場の近くで、リースと帽子を付けた小さな墓は、いつまでも静かにたたずんでいた。

 

読んでいただきありがとうございました。

メリークリスマス!

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