桃太郎
俺は保育士だ。まだ新人だが、
次回の読み聞かせの時間を任された。
その時間に読むための絵本を俺は今、
市内の図書館で探している。
なにかいい本はないだろうか。
絵本コーナーの本を一つ一つ手に取り、
一通り読んでみる。この繰り返し。
きっといい絵本と出会えるはず。
子供達に喜んでほしい。その一心で
絵本をさがした。
「これは」
俺が手に取ったのは桃太郎だった。
誰もが知っているであろう日本昔話。
俺も昔、これを保育園で読み聞かせして
もらったことがある。
なんだか懐かしいな。
皆、桃太郎は知っているはずだが、
最近あまり読まれることが少ないようにも
思う。それに、日本昔話というもの自体が
最近の子供に親しみがないのかもしれない。
とりあえず、久しぶりに一通り
読んでみることにした。
昔々。あるところにロリコンのお爺さんが
いました
「ちょっと待て‼︎」
ロリコンて‼︎
ふざけてんのか‼︎
これほんと桃太郎なのか⁉︎
表紙を確認すると桃太郎と書いてある。
間違いなく桃太郎だ。
ロリコン?
何かの間違いか?
考えても仕方がないので読み進めることに
した。
お爺さんの年齢は72歳。こんないい歳
こいてロリコンなのです。
ちなみにお爺さんの好きな
ロリコンは小学生です。
「そんな詳細な説明はいらねぇよ‼︎」
お爺さんの性癖なんて誰も知りたくねぇ‼︎
誰得だよ‼︎
つーか好きなロリコンってなんだよ‼︎
ロリコンをひとつのジャンルとして
扱うのおかしくない⁉︎
ある日お爺さんは山に将来の自分のお婆さん。つまり、俺のヨメを探しに山に芝刈りに行きました。
「嫁を探しに行くこともおかしいが、
お爺さん未婚なの? お婆さんいねぇのかよ」
いや、待て。
芝刈りに行ってヨメ見つかるものなの?
なら俺も芝刈り行こうかな。
俺、彼女いない歴。20年。
絶賛ヨメ募集中‼︎
山に芝刈りに行ったお爺さん。
するとそこに可愛らしい女の子がいました。
「女の子って表現の時点でもう確実に
小さい子供だよね? この先の展開大丈夫?」
その可愛らしい女の子は、
身長は130センチほどでしょうか。
黒髪の綺麗な小さな女の子。
おそらく、小学生くらいの女の子です。
どうやら山で迷ってしまっているようです。
「おいおい。大丈夫か? 近くに不審者いるぞ? 女の子に危険が及ばないことを切に願うしかないな」
そんな女の子を見て、お爺さんは、
こう言いました。
『ウヒョ。食べごろ、食べごろ』
「死ねやクソジジイ‼︎」
お前まさか手出す気なの⁉︎
いい加減にしようか⁉︎
お爺さんは自分の欲望に忠実な男。
とくに、性欲の塊でした。
72歳なのにまだまだとっても元気いっぱい‼︎
「相手の年齢考えようか⁉︎」
お爺さんは迷わず女の子の方へ走り出しました。お爺さんにとって走ることは苦ではありません。お爺さんは100メートルを12秒台で走ることができるのです。
「速い‼︎」
12秒で女の子との距離を縮めたお爺さん。
さすがのお爺さんですが、
やはり歳なのでしょう。
息切れがものすごいです。
「ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ。デュフフフフ〜。ねぇねぇ君。ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ。いくつ?」
「絶対息切れだけじゃないよな‼︎
どんだけ興奮してんだよ‼︎」
『おじいちゃん大丈夫?』
女の子はお爺さんを心配しています。
『大丈夫だよ。これただの興奮だから』
「堂々と言うことじゃねぇ‼︎」
『もう1度聞くけどお嬢ちゃんおいくつ?』
『私は9歳だよ?』
『へぇぇ。完全どストライクだねぇ』
「どストライクじゃねぇよ‼︎
ほんとこのじーさん救いようねぇな‼︎
もういいから桃太郎だせよ‼︎」
忘れていたがこの物語は
桃太郎なんだ。いや、信じられないけど。
俺の知ってる桃太郎と全然ちがうよ。
同じところお爺さんが登場している
だけだよ? そこしかないよ。
オンリーお爺さんだよ。
『おじいちゃんは何歳なのー?』
『いくつに見えるかな?』
『うーんとね。歳相応‼︎』
「9歳の切り返しじゃねぇ‼︎」
『歳相応か。いや〜嬉しいな』
なんも褒めてねぇよ。ただの相応だよ。
『いやぁ。君可愛いねぇ。
おじいちゃんと結婚ない?』
いきなり求婚しやがった‼︎
『えー。どうしよっかなー』
普通悩まないだろ‼︎
なんかこの子ズレてない?
『おじいちゃん財産あるー?』
『え? 財産? あるよー。
この裏山はおじいちゃんの山なんだよー』
『へぇ‼︎ そうなんだ‼︎ (どうでも)
いいね‼︎』
今の絶対悪意あったよな。
まったく褒めてなかったよね。
『すごいだろう‼︎ この時期はねぇ。
美味しい山菜もとれるんだぞ〜。
あときのこうまいぞ〜。
お爺さんきのこ大好きだからね』
『おじいさんは里よりも山派なんだね‼︎
数少ない山派だ‼︎』
『そうだねぇ。山はチョコかぎっしりなんだよ。おじいちゃん、チョコすきだからね。
里と比べると山はチョコが多いんだ。
あとはチョコとビスケットの部分が完全に
分かれているから1度に2度楽しめる
美味しさというのも魅力だねぇ。
君は山派、里派どっち派?』
『マカダミアナッツチョコ派‼︎』
「まさかの第三勢力‼︎」
しかもマカダミアナッツって。
この子大人だな‼︎
同じ明治ならアポロとかあるだろ‼︎
なんか偏見かもしれないけど‼︎
この時。女の子は
心の中でこう考えていました。
山は少数だが、それを貫く心意気は
評価に値する。
この老害。年齢はおそらく70歳代。
男性の平均寿命は約80歳。しかし、
この老害はおそらくさらに長く生きるだろう。先ほどの走りは只者ではなかった。
日頃から走り込んでいる証拠だ。
あれだけの走りがまだできるということは日々、健康にも十分配慮した生活を
送っていると推測される。
20年はまだ生きる可能性が高い。
無駄に長生きする見ず知らずの老害を
私が介護するなんて論外。ありえない。
さっさと死んで財産根こそぎ奪えるのなら
問題はなかった。しかし、
財産がこの裏山だけ?
問題外だ。なんの価値もない。
ただでかいだけだ。山なんて
売れるのか?
9歳に管理できるわけない。
つまり、この老害と結婚するメリットは、
なし。
と9歳ながらしっかりと現実に目を向け
自分の将来についてこの結婚に意味があるのか
ないのか、真剣に考えていました。
「こんな9歳いるわけなーい‼︎」
お爺さんを只者ではないと言ってるお前が
只者じゃないよ‼︎ 何者だよ‼︎
しかもお爺さんを老害と言い放つ始末だし‼︎
つーか、財産目当てでこの子将来結婚するの⁉︎
だめだよ⁉︎ それ‼︎ 結婚詐欺だよ⁉︎
『おじいちゃん。私まだ9歳だから結婚は法律上不可能なの。それくらい知ってるでしょ?』
『え? あぁ。うんそうだね。でもね、
愛に年齢は関係ないんだよ』
『頭大丈夫?』
突然空気が変わりました。そして9歳の
女の子とは思えない、鋭く冷たい目つきで
お爺さんを睨みつけ女の子はこう言いました。
『あなたと私の間に愛なんて
生まれるわけないでしょう?
なにをどう思ったらその発想が生まれるの?
あなたと結婚して私にどのようなメリットが
あるのでしょうか?
そんなものは皆無ですよね。
そもそも9歳の私に結婚を申し込むなんて
その時点でいかれてますよね。
あれでしょうか。ロリコンというやつですか? 気持ち悪いですね。
本来ご老人には優しい心を持って
接することを心がえてきました。
そうすることで私にも大小はありますが、
利益がありましたので。
しかし、あなたと話しているだけで、
不快です。鳥肌が立っています。
あなた、あれでしょう。童貞でしょう。
その歳でまだ童貞だなんて。
可哀想ですね。哀しいですね。
しかし、あなたにはお似合いですよ。
ロリコンですものね。非合法の相手を
好きなるあなたの性癖が全て原因です。
1度自身の今後について考え直したほうが
よろしいのでは?
1つアドバイス するとすれば、
そうですね・・・・・・。死ね』
「容赦ねぇ‼︎」
そもそも9歳の発言じゃねぇ‼︎
そう女の子に本心をぶつけられたお爺さん。
あまりのショックで
ワケがわからなくなっていました。
『え? あっ。え? なっ、え?』
『何語を話しているのですか? なに、
言語回路バグってるのです? そもそも
まともな思考力もないあなたと
会話が成立していたことが
奇跡でしょうか』
『ガガガガガガがががガガガガガガ』
『壊れてしまったようですね。いや、
もとから壊れていましたか。
もう用はないのでさよなら』
『ちょっとまって、え? なに?
え? え?え? ウグッウ‼︎』
どうしたのでしょう。
お爺さんが突然胸を押さえ苦しんでいます。
一体何があったのでしょう。
いやショックだったんだろ。
胸に刺さったんだろ。
今までの自分がいかにダメだったか。
それを気づかせてくれたのが9歳ってのが
驚きだが。
結果的によかったんじゃないか?
この子との出会いがお爺さんを変えて
くれるのならそれでいいじゃないか。
いいから桃太郎だせよ。
お爺さんのくだりなげぇよ。
主人公がお爺さんだと勘違いしちゃうよ?
お爺さんは苦しみ、苦しみ、苦しみ、
今までの自分は何だったのか。
なんでこんなことになってしまったのか。
悩んで悩んで悩みました。
『ワシは、ワシは・・・・・・。
70年以上童貞だった。まさか、
それがロリコンのせいだった
なんて・・・・・・』
「そこかよ‼︎」
悩んでたのそこかよ‼︎
『ワシは、ワシはぁぁあああ‼︎』
あまりのショックでお爺さんは死にました。
「死んじゃったの⁉︎」
急展開すぎるわ‼︎
お爺さん死んじゃったら
この物語どうなんだよ‼︎
いや、待って。
物語もなにも。
桃太郎でてねぇよ‼︎
『おや。20年と待たず死にましたか。
まぁいいでしょう。彼が死んだところで
誰かが困るわけでもないですし。そうですね。
強いて言えば山派が1人消えたことが彼の死がもたらした損害でしょうか。
うっわ、ショッボ笑』
女の子逞しすぎて
なんだか将来が楽しみだよ。
ページをめくるとなんかいつのまにか
最後のページだった。そこには、
桃太郎というタイトルだからといって
桃太郎がでてくるなどと安易に思って
しまったあなた。
ザマァ〜。
俺は図書館の本ということも忘れて
思い切り引き裂いてしまった。
その後、案の定、女性職員さんにお説教。
女性といってもそれなりの年齢だろう。
そんな女性にガチギレされている俺。
この時俺は思った。
ここが鬼ヶ島だったんだんだ。
なぜなら、
ここに鬼がいるから。
そう。
鬼ババァが。