特訓
トーナメントまで、あと二週間。
学院の空気はどことなく浮き足立っている。授業の合間の会話も、みんな口を揃えて“誰が優勝するか”だ。
そんな中、僕はといえば――朝から人のいない訓練場にこもっていた。
「……やっぱ、全然ダメだな」
チートに頼らず、自分の力だけで戦うって決めたのはいいけど、
いざやってみると驚くほど動きが鈍い。
今まで無意識に“補助”されてたんだろう。
筋肉の動き一つ取っても、チートの恩恵を受けてたのがわかる。
「最初からやり直しか……」
木剣を構えて素振りを続けていると、背後から涼しげな声がした。
「……真面目にやってるんだね」
振り向くと、ルミアが立っていた。
白銀の髪が陽の光を反射して、淡く光って見える。
朝の冷気の中に立つその姿は、まるで一枚の絵みたいだった。
「いや、まあ。特訓、ってほどじゃないけど」
「十分特訓だと思うけど」
「見てた?」
「さっきからずっと。フォームが崩れてる」
淡々と指摘され、ちょっとだけ心が折れそうになる。
ルミアは言葉が優しいタイプじゃない。でもその分、言葉に重みがある。
「もう一回、見せて」
言われるがままに構え直し、素振りをする。
ルミアは黙って見ていたが、途中で僕の腕を掴んだ。
「ここ。力を入れすぎ。肩が固い」
「え、そんなとこ?」
「力は、剣に伝えるものであって、力で振るうものじゃない」
……すげぇ。言ってることは単純なんだけど、説得力が段違いだ。
さすが英雄の一人。
「ルミアは、トーナメント出るの?」
「もちろん」
「やっぱり優勝候補?」
「知らない。でも、負けるつもりはない」
ルミアは静かに言い切る。その目には迷いがない。
ああ、こういう人を“英雄”って言うんだろうな。
「……ユウタは?」
「え?」
「出るんでしょ?」
「まあ、出ようとは思ってるけど……」
「なら、手を抜くな。全力で来て」
言い終えると、ルミアは訓練用の木剣を拾い上げた。
そして構える。
「模擬戦、しよ」
「……まじで?」
「手加減はする」
「その“手加減”が信用できないんだよなぁ」
そう言いながらも、僕は笑って剣を構えた。
ルミアの口元にも、わずかに笑みが浮かんでいる。
木剣がぶつかる。
音が乾いた空気を裂き、腕に衝撃が走る。
一撃でわかる――重い。速い。正確。
ルミアの剣は無駄が一切なく、一本一本が研ぎ澄まされていた。
「どうしたの? 本気で来ないと終わらないよ」
「いやいや! 今ので十分本気です!」
冗談半分で返すけど、内心は必死だった。
彼女の動きを読み、反撃に転じる。
何度か木剣が擦れ、互いに距離を取る。
「……悪くない。前より、動きが自然になってる」
「そりゃ毎日やってるからな」
「でも、まだ甘い」
次の瞬間、ルミアが一歩踏み込んできた。
気づいた時には、木剣の切っ先が僕の首元に止まっていた。
「っ……速っ……!」
「この程度で驚いてたら、あの人には勝てない」
ルミアの言葉に、胸の鼓動が一瞬止まる。
「あの人?」
「魔法科の英雄――ライネル・エスフォード」
やっぱり出るのか、あの人も。
「五年前の祭典の再戦、ってわけだ」
「……そう。あの人は、もう一度“本気で戦いたい”って言ってた」
「ルミアも?」
「もちろん。だけど――」
ルミアは少し目を伏せ、そしてこちらをまっすぐ見た。
「もし、私が負けたら……その次は、ユウタの番だから」
訓練場に、風の音だけが残った。
そして僕は、自然と剣を握り直していた。




