プロローグ 星と黒猫は夕べに踊る
異世界のサーカス団って、何か面白そうですよね。
そんな感じで書きました。サーカス見た事ないけど。
評価やブクマ登録、感想などなど、お待ちしております。
『お次は~……!! じゃじゃん! 出ました、本雑技団一の人気種目、≪連接剣舞≫です!』
自身の声量を拡大する反響性能を持つ拡音鋼のハンドマイクで、高らかにクロード・ヴェルモアの名前は━━否。クロードとセシリア・クレイアスによって結成された≪連接剣舞≫の名前が、今呼ばれた。
クロードは演技用に伸縮性の高い白のタキシードを着込んだ。襟元や袖などに入れられた金色の刺繍は、単調な白色を際立たせるアクセントとして一役買っている。
相対して、セシリアの服装は漆黒のドレスだ。足首まで掛かるロングドレス、その右足部分にはスリットが入っており、輝く純白の肌がちらりと見え隠れする。
お互い、演技するには難しい格好だが、表情に不満は無い。
と言うか、初っ端からこの姿で演技した為、本来あるべき格好というのが想像出来ないだけではあるが。
「行くぞ」
「うん」
クロードは豪奢な装飾に彩られた長剣を。
セシリアは煌びやかな宝石に身を包んだ二対の短剣を。
お互いはお互いを意識し合わない様、静かにステージへと上がった。
巻き起こる歓声、湧き上がる熱烈な応援。
もう、何年もこの職種を続け、幾度と無くステージの上で演技を披露してきた。
それでも、やはりこういった応援はしみじみと心を打つ。
『我が雑技団が誇る剣の達人による究極の剣舞!! とくとご覧あれ!』
司会を務める団長のウェイバー・ジャスティンが静かにステージ上から立ち去る。
相応の広さを持つこの舞台、そこにはクロードとセシリアだけ。二人きりの状態だ。
やや古風な音色が、会場に響く。
その瞬間、クロードとセシリアは動き出した。
ステージの両端まで、スピンを利用しながら進む。その後、互いに課せられた演目を着々とクリアし、その過程で、ステージを横断しながら剣を上方に鋭く放り、お互いの獲物を交換する。右端に俺、左端にセシリアでスタートした剣舞は、幾度と無く立場を交差させながら、剣舞を深めていく。
そして最後。
元の獲物へと戻ったクロードとセシリアは、静かに音色が鳴り止むのを待った。
これから始まるのは、剣舞━━とはやや言い難い。
本雑疑団━━≪星と黒猫は夕べに踊る≫、通称≪星猫≫雑技団オリジナルの、特殊なものだ。
たった一分、音楽がリズミカルで流動的な激しいテンポを刻む。
その間、演舞と称して、クロードとセシリアはお互いにお互いを殺す気で剣を交える。
勿論、その間演目内容を忘れない。交差、ポージング、ステップ。剣術のそれと似て非なる型のそれを一寸の乱れ無く踊り舞う。放たれる剣戟は擦れ擦れで衣服や肌の上を舐めていく。時折、お互いの服装が良い具合にはだけると、歓声はより一層高まり、熱狂的な叫びが広がる。
約一分間の≪剣殺タイム≫(クロード達の間での愛称)を終えて、ステージ中央に舞いながらクロードとセシリアは戻っていく。
最後は二人寄り添う形でポーズを決めて、演題は終了。
喚起に震える会場を見上げ、達成感からお互いに思わず微笑みかける。
その表情からは、幾多数多の死線を駆け巡った当時の面影は、あまり感じられない。
━━━未だ、幾百の種族が混在する水緑の大地、≪エルフェギア≫
かつて、強靭な肉体と生命力を持つ≪魔人族≫を従えた≪七魔王≫により、世界は破滅と混乱を迎える。空は陰り、海は嘆き、地は唸る。よもや、≪エルフェギア≫の消滅さえ謳われたこの凄惨な戦争は、≪エルフェギア総大戦≫と呼ばれた。
しかし、それも過去の話。
当時、各種族を代表する六つの種族━━≪人間族≫、≪亜獣族≫、≪龍人族≫、≪妖精族≫、≪天使族≫、≪巨人族≫は、その種族で最強と名高い一名を選出、計六名で≪魔人族≫に対抗する≪勇者≫の一団を形成する事に成功したのである。
そんな彼らが口を揃えてこう言うのだ。
『≪七魔王≫に勝利したのは、クロード・ヴェルモアのお陰』だと。
本来選ばれなかったクロードは、≪空白の七番目≫と呼ばれ、挙句その正体は当時の≪勇者≫一行にしか分からずじまいとなった。臨時政府(六種族連盟とも言う)も今回の件に対しての尽力に礼の一つも言えないのは心苦しいとコメントを残している。
そうやって、時代は変遷していく。
五年が過ぎた今も尚、最強と謳われた六名と一人の≪勇者≫は名を変え、姿を変えて生きている。
≪星と黒猫は夕べに踊る≫
それは、かつて≪勇者≫だった者達のセカンドライフにして、都合の良い隠れ蓑。
こうして、各々は雑技団に所属しながら、自己の人生の第二幕を切り開いていく。
無論、全種族最強であった、クロード・ヴェルモアも同じく、だ。
━━しかし、彼らはまだ知らない。
五年の歳月を経て、最早死に絶えたはずの≪七魔王≫
彼らが世代を改め、≪新世代≫を名乗り、世界を二度目の混沌と恐怖に陥れようとしている事に━━。