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ゴクアクヒドウ  作者: 凛々
アラナスの野戦
7/10

魔族とか言ってるけど、あいつら全員人型だからね?動物型じゃないからね?

「くそっ……くそ!」

ハウは銃を構えながら後ずさる。それを赤いコートがゆっくりと追う。

【終わりだ】


直後、水色コート部隊の最左翼で、爆発が起こった。

「!?」

見ると、左翼にいた兵がみるみるうちにその数を減らしていく。

【なんだ……何が起こってる!?】

ハウは目を凝らし、左翼の方を見た。

そこには4つの人影があり、疾風の如く動いて敵を薙ぎ倒していた。

【ヤツらは………】

そう呟いた直後、赤コートの首に刃が当てられた。

「よっ」

リザだ。

【お前は……!】

「変声機使ってまで、自分の声を隠したいかい、リンス?」

【黙れ!】

「可愛い声なのになぁ」

【うるさい!】

リンスと呼ばれた赤コートがナイフを振り上げ、リザに突き刺そうとした。しかし、それよりも速くリザの腕が敵の赤いフードを剥ぎ取った。


変声機のようなものが地面に転がり、フードの下が露わになる。

そこには、あどけない少女の顔が。

「〜〜〜〜!」

リンスは色白の顔を紅く染め、ナイフを振り回した。

「見るな見るな見るなーー!!!」

「ウシシシシ」

リザは片頬に不敵な笑みを浮かべ、ナイフを華麗によけた。そして、リンスの腕を掴むと、

「ここは撤退してくれないかな〜?僕もオ・ン・ナ・ノ・コは斬りたくないんだよね〜〜」

「このっ………!」

リンスは激昂し、ナイフを構え直したが、そこで止まった。しばしの沈黙の後、フードをかぶり直し、

「………撤退だ!」

と言って踵を返した。

「じゃ〜ね〜」

リザがひらひらと手を振る。

やがて水色コートの集団も去っていき、あたりに沈黙が訪れた。

「ふうっ!終わった!」

一息ついて、リザはその場に座り込んだ。

「あの……」

未だ状況を理解できていないハウが、リザに尋ねた。

「あなた方は………」

「あ、オレ?俺はリザ。シリァール界の王だ」

「シリァールって…あの魔界の………」

「そうだけど?」

リザは悪びれずに答えた。

「じゃあ…なぜ我々を……?」

「俺たちとハライズは仲が悪い。だから追い払った。結果、あんたを助けることになっちまったわけだが」

「はあ……って、あ!」

ハウは思い出したように叫んだ。

「ルオさん!」

地面に横たわる黒髪の剣士に歩み寄る。ハウが軽く揺さぶると、ルオは気がつき、ゆっくりと起き上がった。

「ん………痛っ!」

「無理なさらず…!」

ハウが彼の体を支える。

「状況説明はいるかい?」

リザが尋ねた。

「いや、必要ない……。要するに、俺はあの『オンナノコ』に刺されて、そこをお前に助けられたわけだ」

「そのとーり」

「あの能力は何だ?あいつらは何者だ?魔界の精鋭どもか?」

「お前だけじゃなく、他の奴にも知ってもらいたい。城に案内してくれ。そこで説明しよう」

「………わかった」



「ここが我らが根城、ラダス城だ」

「ほえー、でけー」

ルオは城の門へと歩いていき、門の両端にいる兵に話しかけた。

「第二師団長のルオだ。あれらは客人だ」

「どうぞ、お通り下さい」

「こっちだ。そこらへんはまだ罠の撤去が終わってないから近づくなよ」

「へーへー」

ルオの忠告にリザは適当に返し、門へと歩く。しかし。

足を踏み出した瞬間、地面が一気に沈んだ。

落とし穴だ。

「うごああぁぉぉぉぉぉぉおあ!!!」

何とも形容しがたい叫びをあげて、リザは落とし穴にまんまとかかった。


「だから気をつけろと言ったじゃないか」

「さーせん」

門を勢いよく開けて、一行は城に入った。

「うおおおお!広えぇぇぇ!!!」

「はしゃぐな。みっともない」

「だって広いだろ!魔王城より広いぞ!」

「だからはしゃぐなって」

「ラダス城は、世界でも有数の巨城だ。今日はここで泊まっていくといい。ゆっくりしていってくれ」

ルオが言った。

「ひゃっほーーい!」

リザは飛び跳ねて喜ぶ。

「はしゃぐな」


「時に、その魔王城とやらはどれほどの大きさなのですか?」

ルオがフィオに尋ねた。

「25畳の3LDKだ」

「ファッ!?」

「以前に、ハライズと戦争したことがあってな…その時に魔王城は全壊したんだ。でも、その後は再建せず、普通の民家に住んでいる」

「そうですか……」

「人は城 人は石垣 人は堀……ってな。巨大な入れもんなんていらないのさ」

リザがドヤ顔で言った。

「恰好いいセリフなのになんでお前が言うと映えないんだろうな」

「うっせ」


「この先が王の間だ」

「じゃあ、ヒラとアズはここで待っててくれ」

「はい」

「はい」

「俺はいくのか」

フィオが不満げに呟いた。

「だってお前、外交得意じゃん」

「まあ、お前よりかはな」

「今後の方針は全部お前に任せる。俺はお前を信用してるからな」

「作戦立てるのが苦手だからだろ」

「うっせ」


「第二師団長、ルオです」

ルオが扉に呼びかけると、

「入れ」

と向こうから声が聞こえ、ドアがギィィ、と音を立てて開いた。

中に入ると、そこには円形のテーブルがあり、中央に王であろう男が、その左右に数人の男が座っている。恐らく、左右の男は幹部たちだろう。

「ルオ・ディラン。今回の戦について、説明してくれないか」

王がしわがれた声で言った。

「はっ。……まずは、この者たちの紹介から。彼らは、魔界、シリァールからきた者たちです。あなた方から見て左側が、魔王のリザ・シリァール。右がその側近、フィオ・ランです」

「魔王だと!?なぜそのような者をこの城に入れたのだ!?魔界の民は神聖なるラダス城を穢す存在だ!今すぐ追い出せ!」

「よさんか、ヴィン」

立ち上がった左側の男を、王が手で制した。ルオは構わず続ける。

「我々は、ハライズ軍と思われる1000人の軍団を発見し、射程に入り次第、ロングボウを打つよう指示しました。しかし、敵軍は有効射程の外側で停止し、巨大な火球を精製し、こちらへ飛ばしてきました。この際に、およそ2万ほどの死者が出たと思われます」

「ふむ……続けよ」

「二回目の攻撃で、およそ1万の死者が出ました。残った兵も士気を失い、逃走。私は、第三大隊長のハウ・シンと協力し、二人で敵将を討つことにしました。そして、敵軍の指揮官と交戦中に彼らが現れ、敵を追い払いました」

「ほう……では、彼らがこの野戦を勝利に導いた、ということかな?」

「勝利には程遠いですが……彼らが我々を助けたことは事実です。この者たちはハライズ軍がいかなるものかを知っています。どうか、彼らの話を少しでも聞いて頂きたく存じます」

「うむ……では、リザとやらよ。魔界軍について、また、今回の襲撃について、詳しく教えてくれないか」

「へへえ」

リザは一歩前に出て、説明を始めた。

「ハライズの軍は……」

「どけ」

フィオがリザを押し退けた。

「何だよフィオ!」

「お前に説明させると、ロクなことにならない」

「何だよフィオ!」

「俺が説明する。下がってろ」

「何だよフィオ!」

「うるせえ」

フィオは一礼すると、説明を始めた。

「では、説明します。ハライズ軍の多くは、魔法を専門に扱うウィザードです。彼らは遠距離攻撃にはめっぽう強いですが、近接攻撃に弱いという特徴をもちます。またウィザードにも階級があり、コートの色で区別されています。下から順に空色、青色、赤色、緑、紫、黒となっています。今回現れたのは水色のコートを着た、通称"スカイウィザード"です」

ここまで聞いて、ルオは疑問を抱いた。


水色コートが、最下級?アラナス帝国兵五万をたった二回の攻撃で壊滅させたあの魔法使いたちが、最も階級の低い、いわば……


「雑兵……だったとでもいうのか…?」

ルオの震えた声にフィオは無言で頷き、暫くの間を空けてから、言い放った。

「そう、奴らはいわば捨て駒!1000やそこらが消えたくらいで、敵にはかすり傷ほどの損害しか与えられていない!」

「っ……!ばかなっ!あれに我らは全く対応できなかったんだぞ!?あれが捨て駒だと!?冗談もほどほどにしろ!」

ルオがひどく取り乱した様子で叫ぶ。

「残念ながら、冗談じゃない。これが魔族と、人間の決定的な差だ……」

「でも……これでは人間に勝ち目がないじゃないか!!」

「そう、そしてここからが本題だ」

フィオがビシッ!という効果音を立ててルオを指差した。一息ついて、続ける。

「同盟を組もう」

「同盟………?」

「シリァールがアラナスと手を組むということだ」

「なりませぬ!なりませぬぞ!」

批判の声を上げたのは、先程のヴィンと呼ばれた男だった。

「神聖なるこの城に魔族の者を入れただけでなく、同盟を組む!?ありえない!現に、貴様らと同じ魔族が!この大陸を侵略しているではないか!信じられぬ!同盟などと言って、我らの内に入り込んで内部から敵を抹殺しようと考えているに決まっているだろう!!!こやつらはハライズの手の者だ!騙されてはなりませぬぞ!」

「我々はハライズとは敵対関係に……」

「それが信じられぬといっているのだ!!!それが真実だというのならば、証拠を見せてみよ!」

「くっ……!」

すると、不意にリザが前に出た。

「わかった。証拠を示せばいいんだな?」

「おい、やめろ!」

フィオが止めるのも気にせず、彼は右手の甲を出した。そして、手にはめていたゴム製の手袋を外す。

「これで……いいんだな?」

手の甲には、火傷の後のようなものが刻まれていた。

「ふん!それが何の証拠になるんだ!」

「魔族の王家が受け継ぐ、家紋の刺青だ。まあ、今は消えているがな」

「だから、それが何の証明になるか聞いている!」

「うーむ……どこから説明すればいいかな?」

彼はフィオに尋ねた。しかしフィオは、何も言わずに歯軋りするだけ。悔しそうな顔で黙り込む彼の肩をポン、と軽く叩き、リザは言った。

「これは、シリァール界とハライズ界ができる、ずっと前の話だ」

どっこいしょ、と床に座り、

「あんまり暗い話は好きじゃないんだけどなぁ……」

と呟いて、魔王は語り出した。

ここまできてまだおにゃの子が一人も登場していないという悲劇に気づきました。もうちょっと辛抱すれば出てくると思います。

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