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ゴクアクヒドウ  作者: 凛々
アラナスの野戦
6/10

バーサーカー

「おおぉぉぉぉ!!!」

ルオは敵陣に向かって猛進する。


1回目の攻撃から2回目までに、およそ5分の間があった。つまり、今自分に残された時間は5分。3回目の攻撃がくるその前に決着をつける。

10秒あまりでおよそ半分の距離をすすんだ。このままの速さで進めば、30秒で敵陣に到着する。

「いっくぞおおぉぉぉ!!!」


そして、予定通りに彼は敵陣の前についた。

水色フードたちは慌てている様子を見せているが、その顔は依然として伺えない。

「うおぉぉ!」

剣を引き抜き、右に大きく薙ぐ。

右側にいた敵が二分され、地面に落ちた。

「まだ!」

さらにその右にいた敵を斬る。二分するまではいかなかったが、恐らく即死しただろう。そして、三体目に手をかけようとしたその時。

後ろに殺気が。


見れば、水色フードが火球を作り出していた。大きさはバスケットボールよりも一回り小さいくらいだが、これを喰らったら死はまぬがれない。

横に跳んで躱す……つもりだったが、なぜだかルオの体は動かなかった。

右足に不審な感触がして、視線をそこに移すと、自分の足に水色コートの手が絡みついている。


しまった!


二体目に斬り捨てた敵は、まだわずかに生き残っていたのだ。

慌てて右足を振ってその手を払う。しかし、跳躍しようと膝を軽く折り曲げたその時には、敵は発射準備を整え、右手を前に突き出していた。


間に合わな……


ギリ、と歯軋りをした。

「くそっ!これまでか……」

死を覚悟し、目を強く瞑る。しかし、直後に聞こえたのは先ほどの轟音ではなく、バン!という銃声。

「……!?」

何事かと目を開けると、たった今まで右手をこちらへ向け、火球を放とうとしていた水色コートの姿がない。

代わりに、コートの首のあたりを鮮血に染めた首無しの敵兵が、地面に横たわっていた。

何が起こったのか。ルオはそれをすぐに理解した。

「思い出したよ」

彼は鋭い眼に似合わぬ微笑を浮かべ、視線を動かした。

その先には、ルオの後についてきた第三大隊長がいた。その手にはマグナムが握られていて、彼がルオを助けるため、敵の頭部を撃ち抜いたことが察せられる。

数秒の沈黙の後、ルオは言った。

「ハウ・トゥー。第三大隊長のハウ・トゥーだな?」

すると、第三大隊長もといハウは、彼と同じように微笑み、

「ハウ・シンです」

と言った。



「おおお!!!」

ルオは左手で拳銃を抜き、連続でトリガーを引く。セミオートのハンドガンがぷす、ぷすと頼りない音を立てて銃弾を飛ばす。威力が低く、一発二発では死には至らないが、牽制には充分だった。

銃撃によって怯んだ敵兵に猛然と駆け、右手の刀を振り回す。

「らあぁぁぁ!!!」

一人、また一人と水色フードの数を減らしていく。

一方ハウは、マグナムを一発ずつ的確に命中させ、わずかだが確実に兵を減らしていた。


このまま……このままいけば…!

合わせて100体は葬っただろうか。変わらず突撃を続けるルオの視界に赤いものが見えた。

「なんだ……?」

一人だけ、水色コートの中に赤色が混ざっている。あれが首領だろうか。

「どっちにしても……叩っ斬る!」

前にいた水色コートたちを薙ぎ倒し、赤色に向かって突撃する。

「おおおおぉぉぉ!!!」

その直後、キィンという金属音と共に、剣を弾かれた感触がした。

「……?」

見れば、敵の首領は刃渡り1mほどの太刀を持っていた。

「くそっ!」

左手の拳銃を前に突き出し、二連続で射撃する。慌てて引き金を引いたため照準が左右にずれたが、この距離ならばほぼ確実に当たる。

そう思っていたルオの目の前で、衝撃的な出来事が起きた。

敵の持っていた太刀がまるで波のように揺らめき、2つの弾丸を一瞬で撃ち落とした。

「なっ………!」

驚愕の声をもらすルオに、赤コートが話しかけた。

【人間にしては…威勢がいいな】

「!?」

頭に直接響くような声に、彼は再び驚愕した。

「へぇ……魔界のバケモンも人語を話すんだな………」

【当然だ。上位階級に上がるには……ハライズ言語のほか…人間の言語を…100種類以上……暗記しなければ…ならない……】

「バケモンに階級なんてあんのか。ビックリだな」

挑発しろ。このままでは勝ち目はない。できるだけ揺さぶれ。

【挑発の…つもりなら……意味は…ない】

「へへ……やっぱり意味ねえよな………」

数歩、後ろに下がる。


どうする…?どうすればこの状況を打開できる……?考えろ…考えろ………。


ゆっくり、ゆっくりと赤コートが近づいてくる。

「くっ……!」

拳銃を構え、トリガーを引く。しかし、銃口からは何も出なかった。

「弾切れ………!?」

【運がなかったな……ルオ・ディラン…】

「ちっ……!」

赤いコートの腕が持ち上がり、太刀を振り下ろす体勢になった。

【何も恥じることはない……お前は人間…我々は……ウィザードだ。魔術も使えない下等生物が…よくやったと褒めてやろう……】


考えろ……考えろ…!銃は使えない。剣でぶつかっても、リーチがまるで違う。二流までなら、懐に潜り込んで一気にカタをつけられるが……あいつは近距離でも戦える超一流!

パワーも恐らく…いや確実に向こうが強い。

剣もダメ。銃もダメ。どうすれば………


その時、ルオはあることを思い出した。それとほぼ同時、敵の太刀が振り下ろされた。

「ふっ!」

彼は左手を持ち上げ、握られた拳銃で攻撃を防ぐ。

【…………】

「おおぉぉぉぉ!!!!」

そして、右手に握られた剣を全力で振り上げ、赤コートの太刀を弾いた。

二つの刃はキィン、という甲高い金属音を響かせながら、火花と共に空中を舞った。

【っ!】

「おおぉぉぉぉぉ!!!!」

大きく咆哮し、右腰に手をかけた。

そこには、刃渡りの短いナイフ。リーチは短いが、突き刺すには十分すぎる長さだ。

逆手に持って、振り上げる。

「終わりだ!」

全力を以て振り下ろした。


ガキィン!


渾身の一撃が何かに弾かれた。

「………え?」

防がれた。

敵の手の中には、ルオのものに似た短刀が握られていた。

【お前が…武器を隠しているように……こちらも…武器を隠していたんだよ………】

「くそっ!」

慌てて距離をとろうとするが、もう遅い。

【チェック…メイト】

敵の短刀がちらと閃き、その一瞬後、ルオの腹部を貫いた。

「っ……!」


「隊長!」

ハウが呼びかけたが、その声は彼には届かなかった。

「く…そおぉぉぉぉぉ!!!」

ハウはマグナムを構え、連続でトリガーを引いたが、銃弾は全てナイフで弾かれた。

やがて弾がきれると、彼はその場に立ち尽くした。

「くっ……」

ゆっくりと赤コートが近づく。

【終わり、だ】




「ふふーん、ようやるねえ、ルオくんも」

リザは戦闘を遠くから眺めていた。

「おい、リザ!」

フィオ、ヒラ、アズが遅れてやってきた。

「遅いよ、フィオ」

「お前が速いんだ!」

フィオはここまで走ってきたためか、息切れしていた。

「で、戦況は?」

呼吸を整えながらリザに尋ねた。

「100体くらい仕留めた。が……ルオがやられた」

「へえ。ウィザードを殺すなんて、やるなあ」

ヒラが感心したように言った。

「で、どうする?」

「助けにいくさ」

リザは剣を徐に抜いた。

「ちょ、カメラ向けろ」

「カメラないけどな」

「うっせ」

フィオのツッコミに短く返し、

すぅーと息を吸って、思いっきり叫ぶ。

「出陣!」

「5人で?」

「うっせ!」


まさかモブの戦闘でこんなに続くとは思いませんでした。

ようやく主人公の出番でございます。

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