バーサーカー
「おおぉぉぉぉ!!!」
ルオは敵陣に向かって猛進する。
1回目の攻撃から2回目までに、およそ5分の間があった。つまり、今自分に残された時間は5分。3回目の攻撃がくるその前に決着をつける。
10秒あまりでおよそ半分の距離をすすんだ。このままの速さで進めば、30秒で敵陣に到着する。
「いっくぞおおぉぉぉ!!!」
そして、予定通りに彼は敵陣の前についた。
水色フードたちは慌てている様子を見せているが、その顔は依然として伺えない。
「うおぉぉ!」
剣を引き抜き、右に大きく薙ぐ。
右側にいた敵が二分され、地面に落ちた。
「まだ!」
さらにその右にいた敵を斬る。二分するまではいかなかったが、恐らく即死しただろう。そして、三体目に手をかけようとしたその時。
後ろに殺気が。
見れば、水色フードが火球を作り出していた。大きさはバスケットボールよりも一回り小さいくらいだが、これを喰らったら死はまぬがれない。
横に跳んで躱す……つもりだったが、なぜだかルオの体は動かなかった。
右足に不審な感触がして、視線をそこに移すと、自分の足に水色コートの手が絡みついている。
しまった!
二体目に斬り捨てた敵は、まだわずかに生き残っていたのだ。
慌てて右足を振ってその手を払う。しかし、跳躍しようと膝を軽く折り曲げたその時には、敵は発射準備を整え、右手を前に突き出していた。
間に合わな……
ギリ、と歯軋りをした。
「くそっ!これまでか……」
死を覚悟し、目を強く瞑る。しかし、直後に聞こえたのは先ほどの轟音ではなく、バン!という銃声。
「……!?」
何事かと目を開けると、たった今まで右手をこちらへ向け、火球を放とうとしていた水色コートの姿がない。
代わりに、コートの首のあたりを鮮血に染めた首無しの敵兵が、地面に横たわっていた。
何が起こったのか。ルオはそれをすぐに理解した。
「思い出したよ」
彼は鋭い眼に似合わぬ微笑を浮かべ、視線を動かした。
その先には、ルオの後についてきた第三大隊長がいた。その手にはマグナムが握られていて、彼がルオを助けるため、敵の頭部を撃ち抜いたことが察せられる。
数秒の沈黙の後、ルオは言った。
「ハウ・トゥー。第三大隊長のハウ・トゥーだな?」
すると、第三大隊長もといハウは、彼と同じように微笑み、
「ハウ・シンです」
と言った。
「おおお!!!」
ルオは左手で拳銃を抜き、連続でトリガーを引く。セミオートのハンドガンがぷす、ぷすと頼りない音を立てて銃弾を飛ばす。威力が低く、一発二発では死には至らないが、牽制には充分だった。
銃撃によって怯んだ敵兵に猛然と駆け、右手の刀を振り回す。
「らあぁぁぁ!!!」
一人、また一人と水色フードの数を減らしていく。
一方ハウは、マグナムを一発ずつ的確に命中させ、わずかだが確実に兵を減らしていた。
このまま……このままいけば…!
合わせて100体は葬っただろうか。変わらず突撃を続けるルオの視界に赤いものが見えた。
「なんだ……?」
一人だけ、水色コートの中に赤色が混ざっている。あれが首領だろうか。
「どっちにしても……叩っ斬る!」
前にいた水色コートたちを薙ぎ倒し、赤色に向かって突撃する。
「おおおおぉぉぉ!!!」
その直後、キィンという金属音と共に、剣を弾かれた感触がした。
「……?」
見れば、敵の首領は刃渡り1mほどの太刀を持っていた。
「くそっ!」
左手の拳銃を前に突き出し、二連続で射撃する。慌てて引き金を引いたため照準が左右にずれたが、この距離ならばほぼ確実に当たる。
そう思っていたルオの目の前で、衝撃的な出来事が起きた。
敵の持っていた太刀がまるで波のように揺らめき、2つの弾丸を一瞬で撃ち落とした。
「なっ………!」
驚愕の声をもらすルオに、赤コートが話しかけた。
【人間にしては…威勢がいいな】
「!?」
頭に直接響くような声に、彼は再び驚愕した。
「へぇ……魔界のバケモンも人語を話すんだな………」
【当然だ。上位階級に上がるには……ハライズ言語のほか…人間の言語を…100種類以上……暗記しなければ…ならない……】
「バケモンに階級なんてあんのか。ビックリだな」
挑発しろ。このままでは勝ち目はない。できるだけ揺さぶれ。
【挑発の…つもりなら……意味は…ない】
「へへ……やっぱり意味ねえよな………」
数歩、後ろに下がる。
どうする…?どうすればこの状況を打開できる……?考えろ…考えろ………。
ゆっくり、ゆっくりと赤コートが近づいてくる。
「くっ……!」
拳銃を構え、トリガーを引く。しかし、銃口からは何も出なかった。
「弾切れ………!?」
【運がなかったな……ルオ・ディラン…】
「ちっ……!」
赤いコートの腕が持ち上がり、太刀を振り下ろす体勢になった。
【何も恥じることはない……お前は人間…我々は……ウィザードだ。魔術も使えない下等生物が…よくやったと褒めてやろう……】
考えろ……考えろ…!銃は使えない。剣でぶつかっても、リーチがまるで違う。二流までなら、懐に潜り込んで一気にカタをつけられるが……あいつは近距離でも戦える超一流!
パワーも恐らく…いや確実に向こうが強い。
剣もダメ。銃もダメ。どうすれば………
その時、ルオはあることを思い出した。それとほぼ同時、敵の太刀が振り下ろされた。
「ふっ!」
彼は左手を持ち上げ、握られた拳銃で攻撃を防ぐ。
【…………】
「おおぉぉぉぉ!!!!」
そして、右手に握られた剣を全力で振り上げ、赤コートの太刀を弾いた。
二つの刃はキィン、という甲高い金属音を響かせながら、火花と共に空中を舞った。
【っ!】
「おおぉぉぉぉぉ!!!!」
大きく咆哮し、右腰に手をかけた。
そこには、刃渡りの短いナイフ。リーチは短いが、突き刺すには十分すぎる長さだ。
逆手に持って、振り上げる。
「終わりだ!」
全力を以て振り下ろした。
ガキィン!
渾身の一撃が何かに弾かれた。
「………え?」
防がれた。
敵の手の中には、ルオのものに似た短刀が握られていた。
【お前が…武器を隠しているように……こちらも…武器を隠していたんだよ………】
「くそっ!」
慌てて距離をとろうとするが、もう遅い。
【チェック…メイト】
敵の短刀がちらと閃き、その一瞬後、ルオの腹部を貫いた。
「っ……!」
「隊長!」
ハウが呼びかけたが、その声は彼には届かなかった。
「く…そおぉぉぉぉぉ!!!」
ハウはマグナムを構え、連続でトリガーを引いたが、銃弾は全てナイフで弾かれた。
やがて弾がきれると、彼はその場に立ち尽くした。
「くっ……」
ゆっくりと赤コートが近づく。
【終わり、だ】
「ふふーん、ようやるねえ、ルオくんも」
リザは戦闘を遠くから眺めていた。
「おい、リザ!」
フィオ、ヒラ、アズが遅れてやってきた。
「遅いよ、フィオ」
「お前が速いんだ!」
フィオはここまで走ってきたためか、息切れしていた。
「で、戦況は?」
呼吸を整えながらリザに尋ねた。
「100体くらい仕留めた。が……ルオがやられた」
「へえ。ウィザードを殺すなんて、やるなあ」
ヒラが感心したように言った。
「で、どうする?」
「助けにいくさ」
リザは剣を徐に抜いた。
「ちょ、カメラ向けろ」
「カメラないけどな」
「うっせ」
フィオのツッコミに短く返し、
すぅーと息を吸って、思いっきり叫ぶ。
「出陣!」
「5人で?」
「うっせ!」
まさかモブの戦闘でこんなに続くとは思いませんでした。
ようやく主人公の出番でございます。