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ゴクアクヒドウ  作者: 凛々
アラナスの野戦
5/10

飛び道具なんて使うんじゃねえ!

くる。もうすぐだ。

奴らは何も知らずに長弓の射程(有効射程はおよそ200m)内に近づいている。

「射程まであと10mです」

見張りが静かな声で言った。

「あと5m……3m…」

ドクン、ドクンと心臓が脈打つ。ルオはこれまで数々の戦に参加し、いくつもの死線をくぐり抜けてきた。しかし、戦が始まる前のこの緊張が無くなることはなかった。

落ち着け。

ひたすら自分に呼びかける。目を瞑り、呼吸を整える。やがて心拍数は下がっていき、緊張がほぐれていく。


世界が澄んで見える。どこまで近づけばロングボウが当たるか。どこまでいけば斬り込めるか。全てが鮮明に見えた。

射程内まであと1m……0.5m………あと…

しかし、射程内に入る直前に、水色フードの軍団は動きを止めた。

「!?」

止まった?射程に入る、ちょうどその直前で。まるで、こちらがロングボウを使うのをわかっていたかのように……ロングボウの射程を完璧に把握していたかのように………。

「くっ……!」

「隊長、どうしますか?」

歯ぎしりをするルオに、見張りの兵が尋ねる。

「た……待機………!」

上ずった声で応答したルオは、悔しさに顔を歪ませていた。

まさか、こちらがロングボウを使うのをわかっていたなんて。射程の直前まで迫ったのは、弓をわざと打たせて初撃を外させるため。

もし撃たなかったとしても、兵の苛立ちを誘い、士気を削ぐには十分だ。

見よ。闘志溢れるアラナス陸兵は、苛立ちを抑えきれず、ただの雑兵と化している。


だが、向こうにもこれといった策はないはずだ。ここから先に近づけばこちらの弓が一斉に敵陣に降り注ぐ。射程の外から攻撃しようにも、長弓以上の射程を持つ武器はこの世には存在しない。

ならば、こちらが近づいて戦うしかない。少し前へ出れば、そこはロングボウの有効射程だ。矢の雨を放ち、敵陣を引っ掻き回した後で、大量の軽歩兵を投入し、一気にこの場を収める。

そうだ。それが最善の策だ。最初からそうすれば良かったじゃないか。

「総員……」

言いかけた直後、

「隊長!!!」

見張りの声が響き渡った。

「あれを!」

兵が指差したのは、敵の陣。そこでは、衝撃的な出来事が起こっていた。


水色フードの手から、小さな火の玉が精製されたかと思うと、みるみるうちにそれは大きくなり、やがてバランスボール大の大きさになった。

「なっ……なんだあれは…!?」

驚いている間にも火球はその数を増やしていき、やがて100以上もの火炎が敵陣に並んだ。


危険だ。


ルオは直感的にそう思った。あれがこちらに飛んでくる、そう考えたのはその一瞬後。頭で考えるよりも先に、長年の戦闘経験によって培われた第六感が、あれは危険だ、と体を震わせる。

気づけば、無意識に口が叫んでいた。

「隠れろ!何かの影に!盾でも、岩でも何でもいい!隠れるんだ!できないならその場で伏せろ!早く!今すぐだ!」

「イ……イエッサー!」

「返事なんていらない!早く!」

そう言って近くにあった岩の後ろに隠れた、直後のことだった。

耳を劈くような轟音が続けて巻き起こり、それに兵の叫び声が同調した。

ルオは一瞬耳を塞いだが、すぐにやめた。

兵の命が失われているんだ。守るべきものが、今ここで命を落としている。どうして耳を塞げようか。


やがて、轟音が止むと、兵の絶叫が聞こえた。

「何だよあれ!聞いてねえぞ!」

「やってられねえ!俺は逃げる!」

「うわあぁぁぁ!!」

まずい。このままでは……負け…る………?

50倍の兵を以ってしても、魔王軍には勝てないというのか?

いや、そんなことはないはずだ。今、自分にできることを考えろ。考えろ、考えろ……

右手で左腰に触れる。固く、冷たい感触。剣の柄だ。右腰には、脇差にしては少し短いナイフ。

今持ってるのはこの二つ……

いや、目の前に何かある。これは……

「拳銃……?」

L字型の拳銃が、日光を反射して黒く輝いている。これは使える……かもしれない。慌てて手に取り、眺める。セミオート(半自動の意)の自動拳銃だ。軍で正式に認められている護身用の銃。ルオは飛び道具を嫌っていて装備していないので、恐らく先程の攻撃で死んだ兵が持っていたのだろう。

飛び道具はあまり使いたくはないが、この期に及んでそんなことは言ってられない。


すまない、使わせてもらう。


銃の持ち主に呼びかけた。最も、持ち主はすでに死んでいるのだろうが、それは彼にとっては関係のないことだった。

銃を手に取り、スライドを引く。そして、叫んだ。

「まだ生きている者はいるか!」

「こちら第3大隊!生存者は80名ほど!」

「こちら第一連隊!生存者は不明です!」

各地で応答が。それらに向かって、あらん限りの声量で叫んだ。

「俺は今から特攻する!死にたいやつはついてこい!」

「そんな無茶な!」

返事をしたのは第三大隊の隊長だ。

「危険です!」

「ここで死ぬのを待つよりかは、戦って潔く死んでやる!」

「お待ちください!指揮官が前に出ることなど……!」

「死にたくないのならここで待ってろ!だが、いずれ奴らはこちらへ近づいてくる!そしたら皆オダブツだ!そんなみっともない死に方、俺はしたくない!戦場に生き、戦場で朽ちる!それが誇り高きアラナスの兵だ!!!」

「隊長……」

「次の攻撃が止んだら、突撃を開始する!」

「………俺も、俺もいきます!」

「お前には、ここで死ぬ覚悟はあるか!?己の誇りのために命を捨てる覚悟はあるか!?」

「いいえ!ありません!」

「ならば去れ!」

「嫌です!」

「何だと?」

「確かに、俺は命を捨てる覚悟はありません!でも、でも……!」

しばらくの間を空けて、第三大隊長は叫んだ。

「上官を見捨てて生き延びるなんてマネは、死んでもしたくないであります!」

「……わかった。ついてこい!」

「サー!」

ルオは人の名前を覚えるのはあまり得意ではない。5万の兵のうち、名前と顔が一致しているものは10ほど。そんな彼ではあるが、戦になると彼は豹変する。落ち着いた眼光は途端に鋭くなり、全身から闘志が溢れ出る。黒い陣羽織をはためかせ、戦場を駆けるその姿は、皆にとっての憧れだった。そのため、彼の部下からの信頼はとても厚い。彼の一言が兵の士気を上下させるほどに。ルオが今回、魔王討伐隊の指揮官に任命されたのも、その信頼あってのことだろう。

ルオは、この第三大隊長の名前を知らない。しかし、現在この二人は、断ち切ることのできない信頼関係で結ばれている。


名前など必要ない。互いに信じるだけで、俺たちは仲間なのだから。


会話が終わった直後、二回目の轟音。歯を食い縛って踏ん張る。

攻撃が終わるとルオは剣を握って、岩の影から飛び出した。

「突撃!」

え?展開が遅いって?

気のせいですよ、気のせい。


心情描写に力いれてますから(震え声

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