ユキムラの話 後編
後編です!
だいぶ遅くなりました。
ああ、もう一度だけでいいから、君を俺の中に映して。
こんな願い、叶わないのはわかってる。
でも、俺はただ、願うことしかできないから。
眠らなくても生きられる世界。黒都市は、そんなところだ。だから夢なんて、見られない。彼女の姿も、見られない。
彼女のいない世界で存在するということが、こんなに辛いことだなんて、知らなかった。どうせなら俺も連れて行ってくれ、なんて今更言うこともできないのだ。ただ願うことさえも、許されないのかもしれない。
「ユキムラ」
急なお呼び出し。背後からの声。声の主は、アマツ。
「なんだ、アマツ」
俺と正反対の、真っ白な髪の色。いつ見ても綺麗だと感じる。
「お前、最近元気ない。どうしたんだ」
俺の気持ちが周りに現れていたようで、全てを見透かされてしまったような気分になる。
「…そんなのアマツに関係ないだろ」
俺がどんな気持ちで、彼女のことを思っているのか知られたくはなかった。誰にも、だ。アマツにでさえも、知られたくはないこと。
「関係あるよ。お前の元気がないと、僕も元気がなくなる」
でも、アマツはそんな俺に、こんな優しい言葉をかけてくれて。俺なんかには、勿体無いよ。
「なんでだよ…なんで、アマツは、そんなに…」
優しいんだよ。
目が熱くなる。アマツをまっすぐに、見れないまま。俺の目は、涙で濡れていた。
泣いたのなんて久しぶりだ。アマツに気づかれてしまいたくはないから、顔を伏せ、腕で隠した。
「ユキムラ、何か辛いことがあるのなら、話してみろ。独りで抱え込むな」
でも、やっぱりアマツにはわかってしまったみたいで、少し恥ずかしくなった。
「ありがとう。でもいいよ。自分ではっきりさせないと、俺が変わらないままだから」
俺がそう言うと、アマツは、
「ああ、そうだな。応援してるよ」
と言って、俺の前から去っていった。やっぱりアマツは、俺のことを見透かしていたようだった。
もう、過去に囚われるのはやめよう。彼女はもう、いないのだから。
一度、瞼を閉じて思い浮かべる。彼女がはっきりと、思い出される。あの頃のままの彼女。当然だ。俺の記憶の中の彼女。
(変わらない、なんにも変わらない。)
自分自身の記憶の中で、俺の名前を呼ぶ彼女。それは暖かくて、もう思い出すことのできない、温もり。
『雪村くん!』
もう名前を呼ばないで。
『雪村くん!』
頼むから、もう。
『雪村くん!』
彼女のことを思い出したくは、ないから。
彼女は俺の中でいつまでも、生き続けるだろう。俺が、忘れてしまわない限り。
もう彼女は死んでしまったのだ。彼女だけではなく、自分自身でさえも。
俺たちはもう、生きてはいないのだ。全て、忘れてしまおう。何もかも消し去って、これからまたこの場所で、存在していこう。
逃げる方法など、どこにもない、この世界で。
結局、俺の願いなど叶うはずもない。でも、もうどうでもいいから、どうなってもいいと、そう思うから。この世界に来て良かったと、そう思えるようになりたい。
あの頃の、彼女を好きだった自分を、無駄にしたくはないから。
今はもう、アマツとシキが笑っていても、昔のことは思い出さないよ。変わりに、俺の中には、幸せな2人が映るから。
自分のことはもう必要ない。俺は、十分だから。
だから、俺は願う。今度こそは、叶えてもらえるような。
どうか、神様。
2人がずっと幸せで、いられますように。
なんか書いたの久々すぎて、キャラ崩壊してますが、許してください。
気が向いたら、シキ視点でも書こうと思います。
こんなところまで、読んでくださってありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。