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ただ、白く。  作者: 早狗間
本編
2/4

ただ、白く。 後編

前編から、お読み下さい。

僕は何も躊躇うことなく、扉を開けた。中は見たことのある気がするが、はっきりと思い出すことが出来ない。

「全然、思い出せないけど」

何度も死んでしまいたいと思ったのに、と。そして、死ぬことが出来たと思ったのに、と。彼女も僕と同じことを思うのだろうか。

「“チカゲシキ”、こいつか」

僕は、彼女の元へ足を進めた。

目の前には、全身管だらけで首輪を身に着けている、“チカゲシキ”。彼女の腕には、包帯が巻かれていた。彼女は、腕を傷つけて死んだのだろうか。ふと、そんなことを考えた。

僕もこんな風にここに来たんだなと、ジッと”チカゲシキ”を見ていた。

「まず、こいつを醒まさせないとな」

静かな部屋に、僕の声だけが響いた。

僕はスイッチを押した。彼女を醒ますスイッチだ。

案の定、“チカゲシキ”は目を開けた。

「ここはどこ?」

目を開けるなり早々と、彼女の口が動いた。

「あなたはだれ?」

”ここはどこか”なんて、そんなの僕が知りたいくらいだ。

「ここは“黒都市(ブラックシティ)”。人間界で自殺した奴の魂が、ここに転送される」

僕一人、淡々と喋り続ける。

「言うなれば、自ら命を絶った奴に与えられる、罰のようなものだ。あぁそれと、僕は天津白(アマツハク)。上に頼まれて、お前を醒ましに来た」

今彼女にそんなこと言ったって、解らないだろう。

この世界にいる僕等ですら、そんなこと解らないのだから。

「今からお前も、ここの住人だ」

彼女、“チカゲシキ”はただ黙っていた。そんなとき、彼女の目から涙が零れていることに気がついた。

「わたし、死んだんじゃないの?」

彼女は、真っ直ぐ僕を見る。信じられないという、顔をしている。

当然だ。死ぬために自殺したのに、存在しているからだ。

彼女は涙を流しながら、ただ震えていた。

「死んではいる。だが、存在はしている」

矛盾しすぎているだろう。これがどういうことなのか、時々考えてしまう。自分でも全く解らないのだけれど。

「少しは、解ったか?」

まず、僕自身がはっきり解らないのに、そんなことを訊ねた自分に少し、腹が立った。

「…こんなの全然、わかんないよ」

と彼女は言う。“僕も全然解らないよ”、とは言えなかった。

「ねぇ、」

彼女は僕に訊ねる。真っ直ぐに。

「教えてよ。この世界が何なのか」

彼女の目から、さっきとは比べものにならない量の涙が、溢れ出ていた。

「ちゃんと証明して。この世界のこと、私がここに来た理由、あなたが言っていること。そして、あなたのこと」

僕はただ、目を見開いた。彼女がそう言い放ったとき、僕は彼女に釘付けになった。驚くしか、なかった。

こんな、たかが10代の女の子が教えて欲しいということを、ただ真っ直ぐに主張していた。

でも、僕自身も解らないことばかりで、彼女に全然教えてあげられないかもしれない。自分のことすら、ろくに解らない僕に、この世界の全てが解るはずないのに。

“僕には、何も解らないから、聞かないでくれ。”と、そう言ってしまいたかったけれど、僕は答えなくてはならないのだ。彼女の為に。

彼女は涙を堪えているようだった。

「僕には、この世界のことも、君がここに来た理由も、よく解らないけれど、

自分のことを話すよ」

僕がそう言うと、彼女はゆっくりと目を開いた。

僕は静かに話し始めた。

「僕は17のときに、自殺した」

それから永遠と喋り続けた。話したくなかった、過去を。


そして全てを話し終わった後、突然彼女は口を開いた。

「あなたは、後悔してるの?」

ジッと見つめられ、無表情で僕に訊く。

「自分から、死にたいと思ったんだ。後悔なんてしてるはずが、……」

言葉が、出なかった。

彼女は真っ直ぐと、僕を見つめる。何も言わずに。

僕は、否定することが出来なかった。本当は、後悔しているのではないかと、考えたからだ。

「どうしたの?」

彼女が、僕に近づいてくる。僕の唯一見える左目には、彼女が大きく映る。

自分の目から、涙が零れていることに気がついた。

「…嘘だ!今は、死ななきゃ良かったって、思ってる。嘘だ、嘘だ‼︎…僕はこの世界が解らないだけで…」

解らないから、解りたいと思ったんだ。

「嫌なんでしょ?本当はずっと死ななきゃ良かったって思ってた、自分のことを。あなたは、自分の気持ちを認めたくないんでしょ?」

僕は、小さく頷いた。彼女に全部、当てられてしまったような、気がしたからだ。

「戻りたい、って思ってる自分を責めないで。あなたは、何も間違ってない。間違ってるのは、私だよ。ここに来て良かったって思ってる、私だよ」

「……」

「ね?あなたは正しい。大丈夫だから」

そう言って彼女は、精一杯の笑顔で笑った。

僕には、彼女が間違っているとは、思えなかった。

「君がそう思うのなら、間違ってなんかない。僕は今、君と出会って大切なことに気づいた。僕は君と出会えて良かったって思ってるから」

口から溢れてくる言葉を、抑えることが出来なかった。

彼女の方を見ると、今にも涙が零れ落ちそうだった。

「これから、よろしくな」

そう言って僕は、精一杯の笑顔を見せた。

「ほら、笑って!」

「うん!」

彼女の目から、涙が零れ落ちることは無かった。精一杯の笑顔で、お互いに笑っていた。

「私は、千景色(チカゲシキ)。これからよろしくお願いします」



それからというもの、僕の生活にシキの存在が加わり、楽しい日々を過ごしている。

ここから逃げ出す方法は見つかりそうに無いけれど、この世界も案外悪くないって、シキと出会ってそう思えた。

「アマツー!」

シキが笑顔で、僕の名前を呼ぶ。

「はーい!」

僕も笑顔で、そう返す。

真っ黒の世界の中でもただひとつ、幸せな日常。

こんな黒の中でも眩しく輝く白に、僕はなりたいと思うんだ。

君が僕を、見つけられるように。


完結にたどり着くまで3回全消しになり、諦めようと思いましたが、頑張って良かったと思います。

最後まで、読んで下さった皆さん

本当に、ありがとうございました。

少しでも、面白いと思ってもらえたら嬉しいです。

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