表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

何の変哲もないショートショート集

素直じゃなくても

作者: ぐらんこ。

本作は、ギャグ小説『謝罪戦隊ごめんジャー』との関連作品です。

読んでも読まなくても本作に影響はあまりないかもしれませんが、

読んでみておいたほうがよいかも。


ごめんジャーの作品URL↓

http://ncode.syosetu.com/n7179bq/

 オレンジ色の太陽が眩しい。海岸沿いに停めた車のFMラジオからは、クラシックなJ-POP。

その曲は今のわたし達を暗示しているようでいて、微妙な食い違い。

わたしには車から飛び出す勇気なんてちっとも湧かない。何より二人とも謝るのがすっごく苦手。

時間も場所もBGMも、なんかもう全部場違いな感じがする。

「ここでいい。ありがとう。じゃあ」

 わたしは、ちいさくつぶやく。

「なあ、ほんとにこれでいいのか? 俺達、こんなことで……」

「やっぱり何にもわかってないよ。リョウ君、自分しか見てないもん。あたしのことなんかちっとも考えてくれてない」

「そうか……。そうかもな」

「そうよ……」

 それぞれの夢のため。そんなカッコいい別れじゃなかった。

 愛の力は偉大。わたしはそれを信じてた。小さな頃から。ほんのついさっきまで。人には言えない恋なんかじゃない、普通の――ごくごくありふれた恋愛なんだから。青い涙なんて流さなくてもきっとずっと幸せが続く。

 そんな白昼夢にも似た想い。それが角砂糖のように儚く溶けて崩れ去った。

 彼のいない日々、わたしは夢のための努力を続けた。やっと掴んだ夢への第一歩。ひとつだけみつけたチャンス。

京都の撮影所と自宅を往復する毎日。一度は、もう叶ったも同然と確信。でもその先の道が繋がらなかった。

 どうしようもなく悲しくって誰かに話を聞いてもらいたい。


でもそんな相手もいない。


 何の予定も無い休日の朝なのにいつもの習慣で、早起き。お決まりの散歩道を辿る気も起きずに、部屋でうずくまる。

 その時、不意に携帯がメロディを奏でた。彼からだ。


『もしもし……』

「リョウ君? 久しぶり」

『おう』

「どうしたの? 突然? あっ、もしかしてTV見てくれてたとか?」

『TV? ああ、最後のほうしか見てないけど、ヒーロー番組の最後にさ、みんな素直に謝れって赤い奴が言ってたんだ。

 それを聞いて何となくオマエのこと思い出した。で、なんか無性にオマエと話がしたくなって』


「そっか……本編見てないんだ。あたしね、その番組に出てたのよ。イエロー役。リョウ君だけじゃなくってあたしにもあったんだよ、夢! 女優になるって」

『すげーじゃん! 俺なんて音楽で食ってくのすっかり諦めて、地道な生活に路線変更したってのに』

「そうなの? 夢叶えるまで戦い続けるって言ってたのにね。でもあたしも、やっぱりそう簡単にはいかないみたい。

 ピンクのコなんか人気が出てすぐ次の仕事が色々決まったらしいのに、あたしのほうは全然。やっぱり我儘で不器用で……。

 謝るのが苦手な役なんてやるんじゃなかったな。

 あたしのキャラと全然違うのに。嫌われ役を演じただけなのに、あたしが 嫌われちゃったみたい。

 いろんな人に。不公平だよね。ピンクなんて、どう考えてもファンが増えるような役どころで。

 イエローなんて、リョウ君とどっこいどっこいの最低人間だよ」

『ひどい言われようだな。オマエにもピッタリだと思うけどな、その役どころ』

「…………」

 言い返したいけど言い返せない。

 しばらく沈黙が流れる。


『なあ、俺達もう一度やり直せないかな?』

「…………」

「オマエのプリン黙って食って悪かったと思ってる……」

「…………」

『…………』

「その言葉、あの時に聞きたかったな……」

 想いとはうらはらに、それだけ言ってわたしは電話を切った。

「俺のアイス勝手に食っただろう!」

「悪い?」

「開き直るな! とりあえず謝れ!!」

「申し訳ありません。と言えば許してくれますか?」

「ムカつく~~! ほんとに性格悪いのな、オマエ。性悪専門女優で十分やってけたんじゃないか?」

「ムカつかれついでに……、これな~んだ?」


 そういって差し出した右手。

その薬指には彼が3ヶ月分の給料をはたいて買ってくれたピンクダイヤのリングが輝いていた。

こないださりげなくついた『薬指のサイズは12号』ってバレバレの嘘はやっぱり見事に看破されていてちょっとくやしい。


「オ、オマッェ!? それどこで!?」

「リョウ君の引き出し片付けてたら見つけちゃった。あんなところに置いとくなんて、リョウ君の落ち度よ。

 謝罪責任、非はそちら☆ ピッタリだよ」

「普通、見つけても……そっと、見なかったことにしておくだろ?」

「サプライズ? なにか企んでたんだよね? でも我慢しきれずにはめちゃった! 許してちょんまげ」


――物事には謝って済む問題と済まない問題がある。この性格だけでも、そこだけでも何とかしてくれたら――

多分そんな思いを抱いてたんだと思う。でも彼は何も言わなかった。

「何よ。言いたいことがあるならハッキリ言えば~~」

「いや、特に何もない」

「うそよ、真剣に謝って欲しいんでしょ? アイス? 指輪? どっち? 両方? チーズピザ味のポテチも? 謝るわよ。

 もっと? じゃあ今までの分全部ひっくるめて。ふつつかな、あたしでごめ……んっ!……」


 続きは言わせて貰えなかった。言わせたくなかったんじゃないと思う。聞きたくなかったってわけじゃないとも思う。

ドキドキが止まらない。でも、不思議と安心できる。



飾らないありのままの自分でいられる喜び。

彼に、抱きしめられながら、2人で夢を見ているような……そんな心地よい幸せを満喫しながら、

彼にバレないようにそっと…………ピース!


 ~fin~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ