べたべたいたしましょう
バイブルにもあるように私の役割を果たすためには、陛下に嫌われないといけません!
そのためには、この夕食の時間はチャンスではないでしょうか。
バイブルによると、男性というものは好きでもない女にべたべたされることを嫌うとあります。
現在、私と陛下の仲はさほど悪くはないと自負しております。
なので、今日は陛下に嫌われるために行動いたしましょう。
「陛下、お願いがあるのです」
陛下は食事をする手をいったん止めて私に目を向けられました。
「なんだ?申せ」
「はい、あの…触れてもよろしいですか」
突如、ゴホッゴホッと陛下は咳き込まれました。
「まぁ陛下!大丈夫ですか?」
私は椅子から立ち上がり、陛下のもとに向かい背をさすった。
「はぁはぁ、アデル…どうしたんだ」
陛下はまだ苦しげでお顔を赤くされている。
「すみません。けど陛下お食事中ですが、お膝を失礼します」
私は行儀が悪いことを承知で陛下の膝に座った。
そのまま陛下の首に腕をまわして体を密着させた。
どうです。陛下、嫌な気持ちになられましたか!
しかし、陛下は固まったまま動かれない。
食事も途中のままで、止まってしまっている。
陛下としても、この後もまだ仕事が残っているのに遅れてしまいます。
現王妃として陛下のお仕事を遅らせるわけにはいきませんし、どうしたものでしょうか?
その時私は良い考えが浮かんだのです。
止まっている陛下の手からフォークをとるとそのまま食事をとって陛下の口元に運んだ。
「陛下お口をあけてください。はいアーン」
極めつけに私がバイブルより学んだ悪女スマイル付です。
固まったまま私を見ていた陛下はそのまま勢いよく顔をそむけられた。
はっ!これは見るに堪えないということでしょうか?
と、考えていた間に陛下は顔を元に戻され、素早くフォークを口に入れ、食べられた。
そのまま私の膝の下に腕を入れられ、抱き上げると立ち上がられた。
「陛下どうされましたの?」
私の問いに答えることなく陛下はそのまま部屋を出ようとされる。
陛下の顔を見上げると、陛下はいつものしかめ面とほほが赤くなっていた。
「ご機嫌悪いのですか?」
陛下も私を上から見られる。
どうされたのでしょう?そんなお顔をされて…
「アデル…」
「お楽しみのところ陛下、申し訳ありません。お仕事が残っていますよ」
その声に上から「チッ」と舌打ちが聞こえた。
あら、陛下が舌打ちをされるなんて、よほど調子が悪いのでしょうか?
声をかけてきたのは陛下の側近の方でした。
「どこに行かれるのでしょうか?陛下ここにはヴァルド様もおられるのですよ」
「……」
「お仕事が、残っています!」
「……」
陛下の腕に力が一瞬入ってから力が抜けた。
「陛下…?」
「わかった。戻る」
陛下はそこで私を下すと側近の方を連れていら立ちながら出て行かれた。側近は一度こちらを振り返って一礼すると出て行った。
「どうされたのかしら?」
私が去っていく陛下の背を見ながらつぶやいた。
そんな両親の一部始終を見ていたヴァルドは一つため息をついた。
「母様はもっと視野を広げるべきですね」
すさまじい速さで仕事を片付ける陛下と側近
陛下「貴様、覚えていろよ」
側近「急に出て行ったり、王妃様と食事をとりたいとか、いい加減仕事をしてください」
ヴァルドは六歳です。