プロローグ・時来たりて
私、アデル・ハイゼン・ユーベルトはこの国の王妃です。
ユーベルト国は北に位置する軍事大国として名をはせております。
この国で侯爵の位を戴いているわがハイゼン家の娘の私が陛下に嫁いではや7年。
この結婚生活の間に王太子の息子と娘を二人を産みました。
夫は冷徹王と呼ばれておりますが、金の髪に氷のような冷たい怜悧な美丈夫としても有名な方です。
そんな彼の血を引いた子供たちはとてもかわいいことに変わりなく、この7年間穏やかな生活でありました。
しかし、私には嫁いだ当初から大切な役割があること知っておりました。
その来るべき日に並々ならぬ決心を抱きながら、私はここで暮らしてきたのです。
それは冷徹王と呼ばれ近隣諸国を震いあがらせる陛下には、いつか愛する存在に出合い恋に落ちるということ……
私と陛下はいわゆる政略結婚でした。
そんな陛下が真に愛するべき相手に出合ったのならば、その相手が身分が低く、二人が結ばれるにはそれはもう障害があるとしたら、私はお手伝いしなければなりません。
その障害の一つであるのが、この私にございます。その際この二人を邪魔し、二人の恋をより一層熱く成就させる存在いえ、役割こそがこの私であるということなのです!
「王妃様!陛下が側室を、側室を上げられました!!」
私は顔を青くして部屋に駆け込んできた侍女の声を聞きながら、悪役王妃としての生活の幕開けを悟りました。
ソファに座りながら両隣で昼寝をしている子供たちの頭をなでていた私は「お母様、がんばるわ」と小さくつぶやいたのです。