悩む少年
少々読みにくい気がする……
BLじゃ……ないこともないw
「お前って、結構女々しいこと言うよな。」
進路について考える僕の頭に、ずっとその言葉が残った。進路について真面目に考えるのの何がいけないのだろう。
そもそも、他人の発言一つでこんなに悩むこと自体が女子っぽいのか。
不規則にうろこ雲がならぶ空を見上げ、対人関係の難しさに嘆いていた。空にスズメらしき小さな鳥が電線目指して飛んでいっている。あんな小さな鳥でさえ、悩むことすらせずにまっすぐ行くべき場所に行けるのに、僕は……。
文理選択という、僕にとっては重大な選択。どんなに悩んでいるかお前に分かるのか。お前みたいに専門バカじゃないんだよ。なんで僕が悩んでいるのを茶化すのか。……信じられない。こっちは真剣に相談したのに。
そりゃあ、お前みたいに明確な目標はないよ?だけど、それが分からないから、知りたいから、悩んでるんじゃないか。
鳥は、自由に羽ばたけていいよな。その点、僕は……。
あぁ、駄目だ。今、ここで考えてもマイナス思考の考えしか浮かんでこないのは目に見えていた。やるせない気持ちが僕の心を占めていく。
塾へと向かう途中見上げた空は、もう徐々に薄暗くなりつつあった。暗くなるのが早いって冬が近いってことだよな、と何故かいつもこの時期に空を見ると感慨深くなってしまう。僕はこの時期の空が一番好きだった。どの季節と比べても、一番空が綺麗に暗闇に染まっていく。絶妙な色合いに染め上げられた空に紛れて、まんまるな月が覗く。
今日は十五夜か。ふと見ると、路地の先に屋台が並んでいた。観月の宴。様式は違えど昔の人たちも豊作を祈って、風情を楽しみながら、宴を開いていたのだろう。夫婦で、カップルで、家族で。
僕にも一緒に祝う相手がいたのならば何か違ったのかな。この僕に纏わり付く陰気な気持ちを取り除いて欲しいよ。
薄暗い路地を抜け大通りに出ると、すぐ真横に煌煌と輝く塾の看板が備え付けられている。暗い路地に慣れ親しんだ瞳はそこで光の攻撃を受け、少しの間操作不能の状態に陥る。そんな理由から、この路地から出るときいつも僕は目を伏せながら来てしまうのだけど、同じ塾に通う奴に聞くとそいつは逆に目印として来ているらしい。当然、僕は操作不可の状態を作ってしまうことによっておこる、何者かから襲われることを想定してそれを回避しようと目を伏せているのだ。だけどそうそう、平凡な特に取り柄もなくバックグラウンドもない僕が誰かに襲われるなんて状況、起こりやしないだろう。仮想の敵を求めても、実際あるのはただの大き目のバケツだったりする。もしかしたら人間じゃない何かが、なんてファンタスティックなことを求める年齢でもないけれど。
それでも、なにかに対して恐れを、危機感を抱いてしまう。
やっぱり僕って、おかしいのかな。
あぁ、いけない。こんなこといちいち考えてしまうから女っぽいって言われるのかも。大体よくよく考えれば、人と人とが違うのは当たり前だし、集団心理なのか日本人の特性なのか知らないけどみんなに合わせることないんだよね。
なんかの本に書いてあったよ、間違ってることを間違いだと、正解を正解だといえないことは駄目だって。
あれ、なんか違うよね。うん、なんか違う気がする。はぁ、いったいだれに弁解してるんだろ、僕。こんなこと気にする必要ないのに。やっぱりそこが……って何回思ってるんだろ。なんか、自分で自分に暗示かけてる気がする。僕は女っぽい、女子っぽい、女々しいんだぁー!!!って。
自暴自棄かよ。
「入らないの? 邪魔なんだけど」
ボウっと塾のドアの前で考え事をしてたらいつの間にか、後ろに女の子が立っていた。頬が少し赤い。十数分ぐらい僕が退くのを待っていたかのように、きつい口調で言われてしまう。きっぱりした調子で、僕だったらいくら邪魔で退かなくてもそんなには言えないよと、改めて思い少し悲しくなった。
颯爽と彼女が教室へと続く階段を上る姿はちょっぴりたくましくて、ほほえましい光景であった。見えなくなった後も自分のことでもないのに誇らしげな気分に浸っていたら、ふと何かが動いた気がして、階段の隅に目を落とす。その正体は丸められた紙くずだった。その紙くずには、拾って広げてみると名前こそ消してるが僕がとったこともない点数が記載されていて、これの持ち主は名前まで消していったいどんな気持ちでこれを捨てていったのか。
そんなことを考えていると、彼女が上る階段の隅に捨てられていた小さな風一つで転がり落ちそうなその紙くずを思い出し、何故か自分と重ねてしまった。
これ以上考えてたら余計落ち込みそう。吹っ切るように僕は伸ばしていたしわくちゃなテスト用紙を再び丸め、乱暴に後ろへ放り投げた。放り捨てた後、公道にごみを捨てた罪悪感と自分の分身を裏切ったかのような痛切かつ愉快な高揚感が生まれた。
妙に軽くなったような気分を背負いながら、彼女のそれのように僕は階段を上っていった。
しかし塾で待っていたのは、襲い掛かる睡魔といけ好かない塾講師だった。ろくに公式も思い出せず、解説を見てはあぁそうだったと納得してそれを写すという作業。
次第にそれにも嫌気がさしてきて、どうせなら時間を有効活用しようじゃないかと色々考えてたら、嫌いな講師に怒られるわ回りには白い目で見られるわ、ついにはさぁ帰ろうというときにその講師に呼び止められ淡々と将来について諭された後悩んでた理由はなんだとか、要らぬとこまで突っ込まれるし。
たかが塾、だろ?一介の講師が生徒の悩み事まで踏み込んでくるなよってんだ。僕も、そいつに言われてたんじゃなかったら素直に相談してたかもしれない。なんてこの先生は気配りがうまいんだろう、とむしろ感動してたかも。
それでも、やっぱりアイツには言われたくなかったんだ。その気持ちの裏に何があるかなんて考えたこともなかったけど、それを今日知ることとなるとは夢にも思っていなかった。
いらだった気分のまま帰宅の途につく。とがっていた気持ちは、リーマンに揉まれながら面倒くさい地下鉄の乗り換えに従事ていたらすぐに憂鬱な気持ちへと変わっていった。リーマンの加齢臭とか汗、酒の臭いがいつもより鼻に付く。最後の乗換えを行ったときには、すでにヘトヘトになっていた。
最後の電車は、少し乗客者数が少なく席もまばらに空いていた。ところどころ開いてる席からすでに座ってる人が匂いのきつくなさそうなものから選んだ。座ったのは2号車の中央入り口付近で、自然食品を愛してそうな中年女性が隣の席だった。
勘は確かに当たってたようで、隣の女性からは抽象的だが暖かそうな家庭の香りがした。ぼんやりと外の暗闇を眺めていると、段々その香りに包まれていくような感覚がして、電車内の電灯さえまぶしく感じるようになっていた。まるで子宮の中に戻ったような感覚。そして、僕はそのまま眠りについてしまった。
ハッと飛び起きたのは、もう降りる駅を通り越した後だった。しかもこの電車、僕が降りる予定の駅から先のことだったので詳しくは把握していなかったのだけど、実はこの電車ある駅まで行くと分離して別方向に分かれるのだ。僕が起きた時にはすでに分離したあとだった。計6号だった電車は、前半分1・2・3号車は南へ、後ろ半分4・5・6号車は西へそれぞれ向かっていくのだった。僕が乗っているのは南方向に行くものだった。
西はともかく、僕は南のほうになんて来たことがない。帰るために乗換えをしようと思ったが、終電は出発後だった。バスなんかで帰れるはずもないし、どうしようかと考えたが慌てふためいている脳には何も浮かんでこない。
と、とりあえず親に連絡しよう。
あるものないものつめん込んだカバンのなかから携帯電話を探す。なかなか見つからない。こんなとき、あぁちゃんと整頓しといたらよかったと心底思うのだ。しかしやってないものはしょうがない。一つ一つ、周りの目もはばからず乱雑に地面に並べていく。
……え?ついにすべての中身が並べられた。携帯電話はない。何でだ、何でないんだ。ふっと、朝親に持ってきなさいと云われてうなずいたものの考え事してて、結局カバンに入れてなかったことを思い出した。最悪、僕ってホント。いまさら後悔してもおもしけど、後悔ぐらいさせてくれ。
メいっぱい後悔した後、僕はイイことを思いついてしまった。何も自分の低スペックの脳に頼る必要はないんだ。たっしっかっ……お、あったよ。あった。乱雑に詰め込まれたカバンから取り出したのはある一枚のプリント。それは、塾講師の携帯番号と自宅の電話番号が書いてある講師間の連絡網だ。
何故僕がこんなものを持ってるかって?それはね……。なぁんと!……すいません、盗みました。
それはお月様も真っ青な真昼間のことだった。その日は学校が遠足で、予定よりバスが早く到着したため通常の時間割よりかなり早く終わっていた。みなが早く終了したことに騒ぎ喜び、それを胸に抱えたまま遊びに出るものも多くいた。
がしかし、僕は遊びに出なかった。否、出れなかった。友達たちが示すあわすかのように、お前にはちょっと難しい遊びをしに行くんだといって僕を連れて行かなかったのだ。自慢じゃないが、いつもなら引っ張りだこである。
そのときは仲間に隠し事をされたショックで少しやさぐれていた。出来心だった。仕方なく行った塾はどの教室も小学生の授業をやっていてどこで自習をすればいいか分からなかった。そこでまたイラつき、講師室に訪ねにいったら誰もいないという有様。
机の上にあった連絡網を盗むぐらい子供のいたずらだろ?
さっそく、テルテル。まず塾にかけたが、出た後なんていうか分からず沈黙してしまっていたずら電話みたいになってしまった。
主に僕を担当しているのはあのいけ好かない講師。しかたない、かけるか。
アイツはワンコールあまりで電話に出た。出る速度が予想外すぎて考える時間がなく、またも少し沈黙してしまう。すると、電話越しでも分かるほどの険悪な声が聞こえてきた。
確かにアイツはいたずら電話とかかかってきたらキレそうなタイプだよな。 しょっちゅうかかってそうだけど、主に女絡みで。このまま黙ってると、即座に切られそうだと感じ何か云わなくてはと思うがなかなか文章で出てこない。
あ、とかうぅとか意味不明の切れ端しか出てこなかった。そこでアイツはピンときたのかこないのか、低いいかにも驚いてます風の声で僕の名前を囁いた。それはちょっぴり甘く聞こえ、相手は男なのに恥ずかしさのあまり好いとう女にかけんば!と心のなかで叫んでしまった。
短時間の間に紆余曲折を経て、僕は今アイツの家にいる。目の間には、バランスよさそうな数々の和風おかずに湯気立つご飯。
旅館かよ……。そう、これはアイツの手料理なのだ。間違いない、作ってる現場を見ていたのだから。
そして今の時間が何時かといえば、午前7時。電話した後、アイツは何故か僕を迎えに来た。なんと、時間にすると10分後ぐらいに。そのまま直行したのは僕の家でなくてアイツん家。
なぜ?そして、されるがままに風呂に入らされ布団に寝かされた。起きて手際よくおかずたちが作られるのを眺めて、今に至ると。
そんな流されてしまった僕は、おいしい朝飯にほだされ学校に行くまでの間あんなにも嫌っていたアイツに、友人関係だとか進路のこととかを気づくと相談していた。何を言ってもうなずいてときには否定してくれるアイツに、僕は絶対の信頼感が芽生えていた。
何故かそれをきっかけに放任主義の両親はアイツに全権を委任したのか、ことあるごとに先生には何でも相談するのよーなどと言って数少ない会える時間を潰している。
なんだ、これは。両親公認のカップルかよ!!
お目汚し失礼しましたー
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