13話♂白濁色…
今回は下ネタ濃いめです!未成年は気をつけてね!
いつもの朝。正確にはいつものメンバーに美晞が加わり、より濃くなった俺たちはいつものように学校に到着すると、上履きを履くべく下駄箱へと向かう。
「また…いっぱい入ってるな」
瑛が頭を押さえながら言う。
「ああ、…そうだな」
俺も同じようにして言った。
俺たちが下駄箱で見た光景とは、ロッカーに大量に入れられた手紙である。瑛の場合、それはラブレターであるのだが、俺の場合はそんな喜ばしい物ではない。それは…
「なにそれ?………果たし状!?」
美晞が俺の下駄箱から一枚の手紙を手に取り、表を見て言った。そう、果たし状なのだ。なぜ果たし状なんてまがまがしい物が入っているのかというと、そんなのは簡単な理由である。
その1!俺が男子のアイドル真琴、蓉子といつも一緒にいるから。
その2!女子からの憧れの的である瑛と一緒にいるから。
そしてその3!美晞の出現により俺と行動する女子が増えたことによる怨み。
以上、この3つが令に挙げられる。いい加減にして欲しいものだ。もちろん果たし合いにも行かないし手紙も読まない。しかし差出人の名前を見るのは別だ。差出人名は見ておかないとなんか落ち着かない……というか『もしかしたらラブレターあるかも!?』という期待を僅かながらに持ち合わせているからなわけだ。
一枚一枚見ていく……やはり女の子のラブレターはなかったようだ。
「なぁ一宏、これはなんだ?」
瑛が下駄箱の中からなにか瓶のような物を取り出した。
「ん?どうした?」
俺はその瓶を見つめる。中には何やら白いものが満タンに入っているのだが…まさか!?
「これは牛乳か?」
瑛がなんともいえない顔をしながら瓶を揺さぶる。やめろ!違うぞそれは!明らかに固体だろ!?
「捨ててきなさい」
俺は瑛の肩を掴みながら真剣な表情で言った。
「いやしかし、せっかくの貰い物を『いいから!』……うむむ、わかった」
残念そうに瓶をゴミ箱に捨てる。さて、際どい下ネタはここらへんにしよう。
「んで、さっきの瓶は誰からだったんだ?」
「うむ、確か2年2組の秋庭萌之助とかいうやつからだな」
ああ、名前からしてかなりアレな感じがムンムンしているな。
「どうするんだ?会ってみるのか?」
「いや……どうする?」
いや、質問に質問で返されても……
「興味が無いなら無視しちゃえよ」
「それもそうだな」
しかしこの時にもしもなんらかの手を打っていれば、この先に起こる事態を防げたのかもしれなかった。
5日後。
「これで5回目だな」
あれから毎日のように不思議な瓶と手紙が下駄箱に入っていた。その中にはもちろんせい…げふん…不思議な液体が入っているのだった。
「………これはもう、会ってみるしかないんじゃないか?」
「うむ、仕方あるまい」
俺の問掛けに瑛は溜め息がちにそう返事をした。意を決して、瑛は封筒を開けると手紙を読み始めた。
「なになに、『ハァハァ、瑛タソお元気ですか?僕は前から貴方のことをLOVEしてました。放課後校舎裏まできてくらさい。愛しの瑛タソへ、愛を込めて……』だそうだ」
ツッコミ所満載だぁぁぁぁぁぁ!!!!????
「………本気で会うつもりか?」
「うむ……正直気は進まないがこのように真っ直ぐな手紙を読んでしまったら行かないわけにもいくまい」
こいつ絶対アホだろ?あの手紙の一番最初をちゃんと見たか?明らかにあれは変だろ!手紙なのに『ハァハァ』から始まってたぞ!?オマケに『タソ』かよ……最早男につける呼び名じゃねぇぞ!?完全なる同性愛者じゃねぇか!?瑛はまあ、一応女だけど、中身は完全にそこら辺の男よりも漢だと俺は思う。
「まあ、頑張れや」
俺は瑛にそれだけを言うと、そそくさと教室へと向かった。
そして放課後。とうとうその時がやってきた。俺は瑛に見ているように言われたので、草むらの後ろに隠れる。なぜか俺の横には美晞と真琴と蓉子と亜希が俺と一緒に様子をうかがっている。
お!手紙の差出人が来たぞ!?
「なにあいつ、マジキモイ」
そうだな真琴。確かにキモイが俺の背中に身を寄せて胸をくっつけるのはやめてくれぇぇぇ!?おっきしちゃう!!マイブラザーがおっきしちゃうから!!
「はっ……始めましてです!」
手紙の差出人である、ぜい肉ぶとりの汗だく男が言う。
「挨拶はどうでも良い。わたしはお前とは付き合うつもりはない。それにわたしは男だ。性別的にも問題があるし、なによりお前に興味すら沸かない。よって、早くわたしの目の前から消えろ」
瑛はジロリとにらみつけた。怯むデブ男は震えながら言う。
「あんまりでぷ!僕は…こんなにも!こんなにも貴方を愛しているのに!」
「悪いがしつこいやつならば容赦はしない。それに……わたしにはちゃんと心に決めた人がいるのだ。だから他の人物のことなどわたしには考えられない」
「ヒソヒソ…瑛くん……まさか私のことを!?そんな…でも私も好きだし…ゴニョゴニョ…」
亜希がモジモジし始める。ああ、そういえば亜希は瑛のことが好きなんだったっけか?
「え!?亜希さんって瑛さんが好きだったんですか!?」
おいおい蓉子、今更かよ!?もっと早く気づくだろ普通。
「え!?蓉子それマジで!?」
真琴さんそれマジッスか!?お前確かあいつと1年のころからの付き合いだったよな!?俺なんか先月学校に来て数分で気付いたぞ!?
「亜希ちゃん良かったね♪」
美晞が亜希の頭をなでなでしながら言う。
「うん♪」
亜希はほっぺたを赤く染めながら嬉しそうに頷く。お!?デブがなんか喋るぞ……!?
「そうなんでぷか……。それじゃあ僕は、瑛タソを一生懸命応援するデプ!頑張って下さいデプ!」
「ああ、ありがとう。そう言って貰えると助かるよ」
「頑張って下さいデプ。それでは、さよなら」
「ああ」
デブ男はそういうと、瑛に背を向けて走り出した。その後ろ姿は、心なしか泣いているような気がした……。
「お話、終わったぞ」
瑛は俺の元に来ると、それだけ言って帰る準備をする。
「ああ、そうだな。それよりお前、好きなやついるんだって?」
俺はニヤつきながら瑛に言う。途端、瑛の顔が真っ赤に染まった。
「う…うるさい!別に誰でも良いだろ!?」
「はいはい、そうですか」
俺はなおもニヤつきながら言った。
「えへへ♪」
そんな俺と瑛の会話を聞いていた亜希が、かなりご機嫌な顔をして瑛の前に立つ。
「大丈夫だよ♪私がちゃんと受け止めてあげるから♪」
亜希は瑛にそう言うと、顔を真っ赤にして走って行ってしまった。
「?」
それを不思議そうな眼差しで見つめていた瑛。あれ?こいつ亜希が好きなんじゃなかったの?……ま、いっか。
「私たちも帰ろう」
「帰ろ〜う」
「……帰る」
そう言って一宏の手を引く真琴、蓉子、美晞。
「………それもそうだな」
さて、帰るか。
「好きな人……か」
そんな一宏の姿をどこか切なそうな眼差しで瑛が見ていたのは、一宏は知らないのであった。
《後日談》
我が校にはその後『KAO』、『恋する瑛くんを応援する会』という意味不明な同好会ができたのであった。