揺るがない運命
その時まで、俺は彼女と仲良く遊んでいた。
無邪気に、ただ、何も知らなかった。
それが、どんないいことなのか、今なら分かる。
俺の横にいる彼女も、同じ気持ちだろう。
1000年間、封印されていた秘密を、俺たちが握っていて、さらに、そのことを知るためには、次世代まで待つ必要がある。
そう言われた時の俺たちの気持ちは、誰にも分からないだろう。
3001年、人類は、宇宙全域のみならず、宇宙の外という全く未知の空間へと出ようとしていた。
この空間には、何かしらあると信じられており、そのことは理論上実証されていた。
その裏付けをするために、行こうとしているのだが、これまで行った数多くの冒険者は誰一人として帰ってきておらず、向こう側が本当にあるのかどうかさえ分かっていない。
そんなニュースを見ていた、普通の高校生だった俺は、そんなこともあるのかという程度に見ていた。
しかし、時間を確認して、遅刻ギリギリの時間になっているのに気付くと、あわてて靴を履いて、家を出た。
途中で、幼馴染の彼女が俺の横を自転車ですり抜けていったが、それを気にすることなく、俺は歩き続けた。
いつも普通にわたっている川が、今日はやけに水が少ないなとか思いながら、かかっている橋を過ぎると、すぐに高校がある。
だが、その高校の前で、俺は彼女が倒れているのを見つけた。
「おい!」
走って寄ると、自転車がそばで変形している。
だが、本人にはけがはないようだ。
「大丈夫か」
周りを見回したが、誰もいない。
ひき逃げだと確信して、携帯を取り出すと、なぜか圏外。
「くそったれが!」
携帯をポケットに戻すと、スーツを着た4人組が、俺たちを取り囲んでいた。
「あなたが来るのを待っていました。こちらへ来てください」
「…誰だ」
「我々は2001年組といいます。あなた方が、この年齢になるまで待っておりました」
「どういうことだ」
俺は、拳を握りながらその話を聞いていた。
「我々は、神に命じられ、遺伝子レベルで操作をし、超人、いいえ、神人ともいえる存在を作ることを目的としております。50代目当主が就任になられ、それと同時に、神の計画が最終段階へ至ったことを宣言なされました」
「ちょっとまった、わけがわからん」
「まずは彼女を起こしたらどうですか」
気づくと、地面にペタンを座って、頭を押さえている。
「おい、大丈夫か」
「え、あん。大丈夫。なんか、わからないけど、空気の壁みたいなものが襲ってきて…」
「それは、また別系統の人です。あなた方の子供の世代が、その力を自然にもつことになります」
スーツが一番きれいな人が、俺たちにさらに一歩近づいていってきた。
「…この人たち誰」
「2001年組とか言ってる連中さ」
俺は、彼女を立ち上がらせながら教えた。
「さあ、お二方。どうかこちらへ」
有無を言わさず、俺たちはスーツたちに羽交い絞めにされる。
「おい」
「暴れても無駄です。すべては、神の御計画に沿って行われているだけ…戦争も、宇宙探査も、経済活動も」
「その神様とやらは、どんな人なんだ」
俺は、一通り暴れてみたが、全然解けなかったのであきらめて聞いた。
「あなた方の孫の世代になると、その方が地上に降りてこられます。正確に言えば、そのための憑代が完成し、魂レベルで神と同一となります」
「俺たちは、そんな神の計画とやらに使われるための駒ということなんだな」
引きずられながら、黒いワンボックスカーに乗せられる。
「そうです、これは、きわめて名誉なことなのですよ。神が直々にあなた方へお与えになられたものなのですから」
「それで、俺たちを拉致ってどうするつもりなんだ。両親が黙っちゃいないぞ」
俺は、彼女の手の縄で縛られながら、言った。
「その点はご安心を。あなた方のご両親には、あなた方は死んだと伝えられます。こちらの技術により、精密にあなた方の人形を作り、もちろん本物そっくりにですよ、それを遺体として送ります。あなた方は、我々の施設の中で何不自由なく暮らしていただきます。といっても、外に出ることはできませんが」
「じゃあ、私たちはずっと部屋の中で暮らすことになるの?」
かのzyゴア不安そうに聞く。
「ネットは使い放題ですし、衣食住すべては保証します。さらに、それだけじゃありません。子供も産んでいただきます」
「俺たちがか」
「ええ、もちろんです」
ほかに誰もいないだろう。
俺はそう思いながら、なぜか眠くなり、そして、意識がなくなった。
起きると、確かに普通のマンションのような家の中に、彼女と横になっていた。
「…私たち、どうなるんだろうね」
「神の計画とやらがどんなのかしらんが、ここから出るすべを見つけてやるだけさ」
そういって、俺は立ち上がった。
「子供を産ませるとか言ってたけど、どうなんだろうな」
「私は、あなたの子供なら、産んでもいいかも」
彼女がそう言ってくるのを聞いて、ドキッとする。
「そうなのか」
「ええ、そうよ。じゃないと、こんな話しないでしょ」
それもそうだ。
俺は納得した。
この狭い部屋の中で、俺たちはこれから暮らしていけるのか。
そんな不安だけが満ち溢れていた。