契約結婚のはずなのに、氷の魔術師の旦那様が嫉妬してきますの? ~ガーデニングしていただけなのに!~
魔法が貴族の力を決めるこの国で、私は“氷の魔術師”として名高いセイランと契約結婚することになった。
「ご結婚おめでとうございます! セイラン様、サフィラ様!」
祝福の声が響く中、私は胸の奥が少しだけ傷んでしまう。
だって、私はセイラン様のことがずっと好きだったのに、この結婚は“契約”なのだ。
本当に、嫌になってしまう。
「お疲れ様でございますわ、セイラン」
丁寧に声をかけると、彼はいつもの冷たい声音で返してくる。
「何度も言うが、これは契約結婚だ。愛する気もないし、白い結婚だ」
私の胸がきゅっと締め付けられてしまう。
私が好意を隠して契約結婚を持ちかけたら、「ちょうどいい」という風にあっさりと了承されたの。
互いにいい年にもなって婚約者がいないのが影響したのかもしれないわね。
複雑な気持ちなのは私だけなのかしら。
多分そうね。いや、絶対に。
セイランは契約にあたって【契約の掟】なんていう書類を作ってきたの。
◆◆◆
【契約の掟】
一、互いに干渉しないこと。
二、寝室は別。後継ぎは養子を迎えるため不要。
三、公の場では仲睦まじい夫婦として振る舞うこと。
四、家の出入りは自由。研究で遅くなる場合も含む。
五、最低一度は食事を共にし、情報共有すること。
六、契約期間は一年。双方の合意で延長可能。
七、恋愛感情は持ち込まない。
八、互いの自由を尊重すること。
◆◆◆
……まったく、私の気持ちをなんだと思っているのかしら。
信じられないわ!
でも、セイランは私が好きだなんて知らないのだから仕方ないのよね。
だから、私は決めたわ。屋敷では自由に生きる。
ガーデニングが趣味の私は、さっそく庭の一角を自分専用の花壇にしてもらった。
ここの使用人はなんて優しいのかしら!
花を植えていた。
「奥様! おやめくださいっ! 土いじりなど……花を植えるのは私どもの仕事でございます!」
使用人たちが慌てて止めようとする。
「いいじゃない? セイラン様から『自由でいい』と言われているのよ?」
私がいつものように正論を言うと、皆が困り果てる。
そんな中、執事のレリアンが苗を持って現れた。
「奥様、新しいトリスタの苗ですよ〜」
「まぁ! ありがとう、レリアン!」
歳が近いこともあり、レリアンは私のガーデニングの良き理解者だ。
そして、何といってもレリアンなしではこの趣味は成立しないの!
だって、苗を手に入れてくれるのはレリアンなのだもの。
ちなみに、私の親友はもう一人。
専属侍女のミレーヌだ。
ミレーヌとは幼いころから一緒に育った血のつながらない兄弟のようなもの。
「さっそく植えるわよ!」
腕まくりして土を掘る。
やっぱり、楽しい!
至福の時間だわ....
「……騒がしいと思って来てみれば、何をしているんだ? サフィラ」
背後から低い声。セイランだ。
何度も聞いてきた好きな人の声だ絶対に聞き間違えるはずがない。
その場の空気が一瞬で凍りつく。
でも、妻の私まで怯んではいけない。
私がひるんでしまったら、使用人まで...
「セイラン様は【契約の掟】『その八』をお忘れですか? 私は趣味のガーデニングをしているだけですわ!」
堂々と言い返すと、彼は眉をひそめた。
私は何一つ間違ったことを言っていない。
「忘れてはいない。ただ……侯爵家の妻が土いじりなど、品格が下がる!」
なんですって?
「自由でよい」と言ったのはそちらでしょうに。
矛盾しているしおかしいわ!
それに、品格ですって?なぜ趣味に品格が必要なの?
見るに見かねたレリアンが助け舟を出す。
「旦那様、奥様は趣味を嗜んでいらっしゃるだけですし、私とミレーヌもおりますのでご心配なく!」
……最高よ、レリアンッ!心の中でサムズアップしたいわぁ。
しかしセイランはレリアンを睨む。
なんでにらむのかしら?疑問ですわ。
「レリアン……幼馴染以前に主人と従者だ。場をわきまえろ。それに、随分と馴れ馴れしいようだな?」
え? 苗を手配してくれているだけなのに?
私の趣味のお手伝いをしてもらっているだけよ?おかしいわ!
「レリアンは、サフィラと仲が良いようだな?サフィラも執事と馴れ馴れしくするな…では、私は仕事があるので失礼する」
なんですの?!
嵐のように現れて去っていくだなんて!
趣味の邪魔でしかないわっ!
「今日も…くすっ、ふふふ」
なんで、あんなことを言われたのにレラアンは平気なの?それに、なぜ笑っているのよ。
もう、我慢できないわ!
正直に尋ねてみましょう。
「なぜ笑っていられるのかしら?」
「それはですね、ふふ...旦那様から直接を聞きになるのがいいかと…」
なんで、そんな目をするのよ。
それに、どうしてぼやかすの?
正直に言ってほしいわ。
「わかったわ!執務室に行くわよ、ミレーヌ!レリアンは苗の片付けをお願い!」
ついつい、気持ちが先走ってしまった。
でも、性格上あんな気になることを言われてしまったら知らなくてはいられないのよ!
「かしこまりました!」
「行きましょう!奥様」
やっぱり、ミレーヌとレリアンはいい感じなのかしら?さっきから見つめあっては笑っているし。
歳的にもミレーヌは16でレリアンは19だからいいのではないかしら?
お似合いだわ!2人がその気なら私応援するわ。
「奥様?執務室までご案内しますよ?」
私としたことが…ついつい憧れの恋の匂いがして妄想しておりましたわ…やってしまいましたの。
ミレーヌについていかなくては!
「えぇ、向かうわ」
よし!セイランになんで言えばいいのかしら?
うーん、う〜ん…考えておかなくてはあの美貌の前では言いたいことが飛んでしまいますわ!
◇◇◇◇◇◇◇
ーコンッ、コンッ
「旦那様、奥様がおみえです。入ってもよろしいでしょうか?」
「サフィラが?ちょっと待て…」
ちょっと待てって何をしているのよ?
「入っていいぞ?」
え?自ら扉を開けた?
ミレーヌに開けてもらうって言う手もあるのに?
「行ってらっしゃいませ…奥様」
ミレーヌが小声で私の背中を押す。
私は振り返らず小さく頷く。
わぁ、久々に来たわね。
にしても、書類積みあがりすぎじゃない?
何個塔が出来てるのよ...これ。
「旦那様は、私のことがお嫌いなのですか?」
しまった!ストレートに聞き過ぎたわ!
「は…???いや、そんなことは…」
え?なんで耳まで真っ赤になって口を手で隠すわけ?
「私は、旦那様のことが好きで結婚してと言うのもおかしく、互いに適正年齢になっても婚約はまだでしたので、契約結婚を持ちかけたのです」
え、言った瞬間からめっちゃ恥ずかしい!!
言わなきゃよかったわ。
「嘘だろ…」
なんで、そんな目を見開くのの!!
「お、俺はずっとサフィラのことがす、好きだった。だが、サフィラが幸せならそれでいいかと思っていたんだ…だから、サフィラが契約結婚を持ちかけた時はチャンスが降ってきたと思って飛びついたんだ…でも、馴れ馴れしいと申し訳なく…」
なに、よ。それ!聞いてないわ!
セ、セイランが私のことを好きだなんて!
夢かしら?いや、幻覚、幻聴??
頬っぺたをつねってみましょうか?
いや、また品格がどうのこうのと怒られてしまうわ!
「じ、じぁあさっきの態度は何よ!」
私ったらつい言ってしまったわ!
思ったことをなんでも言ってしまうのが難点ね…
「レリアンとサフィラが仲良くしてるの見て、その、つい怒りが込み上げて…理性を失った」
え、つまり嫉妬したってこと?!
嘘でしょ?この人不器用すぎない?
でも、そう言うところは可愛いかも…
「ならっ、白い結婚は?!」
どうして、好きなら白い結婚なの?
「サフィラを安心させたかったし、確実に結婚したかったから」
え~!!!!!何それ!!!!
うそでしょ......信じていいのこれは??
いや、いったん冷静に心の中で深呼吸!
「そうなの?じぁ、じぁあ私たち両思い?すれ違っていただけなんですの!?」
また、思ったことを言ってしまった。
でも、それは私が一番気になること!
「そう言うことだな…」
セイランは口を押さえて、横を向いた。
え、なにそれ!照れ隠し?
私は、思わずセイランの胸に向かって飛びついてしまった。
飛びついた理由は私にもわからない。
反射的なようなものだ!
セイランは、おどおど戸惑ってはいたが、ゆっくりと私の背中に手をまわしてくれた。
私は恥ずかしいのか嬉しいのか。
でも、穴があったら入りたいのは真実なのかもしれない。
「あぁ、セイラン私こんなに幸せな時間は経験したことがありませんの…」
私は、セイランの腕の中で嬉しすぎて泣いてしまった。
今、顔を上げることは絶対にできない!
こんな情けない顔いや恥ずかしい顔を見られたくない。
現在の私は感情がダイレクトに表に出てしまい抑えが効かない。
「俺もだ…愛している!サフィラ」
「私もです!」
あぁ、嬉しい。
幸せってこう言うことを言うのね。
相思相愛の意味がやっと分かったような気がしたわ。
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