5
翌日は予定通り王宮での夜会だ。
父親と参加した夜会用のホールは煌びやかだった。
シャンデリアを見上げれば水晶だろうか、輝きを放つ石が大量に使われ優美さを演出している。
端には料理が大量に並んだテーブル。
レイスリーネと同じ年の子弟子女が、初々しい顔でドレスや夜会服に身を包んでパートナーと入場してくる。
女の子は結構堂々としているけれど、男の子の方は緊張した顔の方が多い気がする。
かくいうレイスリーネはまったく緊張のきの字もなく、エスコート役である父親と堂々とその場にいた。
淡いオレンジのドレスは華やかすぎず華美ではない。
綺麗さよりも可愛さを選んだので、そのままふわふわと流したパールピンクの髪とあいまって妖精のような可憐さだった。
ちなみにこの恰好のプロデュースは母親だ。
「ねえお父様、ピンク髪に淡いオレンジのドレスって、ふわふわしすぎじゃないかしら」
「お前は黙って大人しくしていれば、妖精にだって例えられる外見だから、それでいいんだ」
父親なのに酷い言い草だ。
「別に婚約者探しは、春からの学園でもいいってお母様も言っていたじゃない」
「今日は社交デビューの夜会だからな、その学園での同時入学者ばかりなんだぞ。相手が騙されているあいだに婚約まで持っていくのが理想だ。母さんは楽観視がすぎる」
口煩い話が始まってしまったと内心ため息を吐く。
とりあえずこれ以上の話をうけなくていいようにシュンとした顔で父親を見上げると、騙されんが? という半眼を向けられてしまった。
話が違うなと思う。
この外見なら騙せるんじゃなかったのか。
「うちが王国の盾と言われる辺境伯家でも、お前に魅力がなければ結婚相手は見つからないし、政略で婚約が上手くいっても逃げられる。わかっているだろう?」
「失礼な……そうだけどさ」
今のはちょっと傷ついた。
「いつまでも決まらないと、ろくでもない相手しか残らないぞ。時期当主であるお前の婿に変な者を迎えるわけにはいかん」
確かにそれはわかっている。
この国では女も爵位を継げるので、次の辺境伯はレイスリーネだ。
いっそ独身で親戚の子供を養子にするのもありだけれど、それは最後の手段だ。
現状、レイスリーネが婚約者を獲得するのが一番である。
(でも外見に騙された人間がうちでやっていけるかっていうと、逃げ出すと思うのよね)
過去の苦々しい経験を思い出していると、父親もそれを察したのかぽんと背中を労わるように叩かれた。
「ほら、もう少しで王太子殿下がお姿を現される」
「少し甘い物を食べてきてもいい?」
「ああ、ただし大人しくするように」
「はあい」
見た目的には楚々とした雰囲気で歩くレイスリーネは、注目の的だった。
本人はおかまいなしに、デザートのテーブルへと真っ直ぐに進んでいる。
肉なんかも食べたいけれど、さすがにまだそれらに手をつけている人間はいない。
デザートや飲み物なら周りもチラホラ口にしているのを確認してから、レイスリーネはザッとテーブルの上に視線を走らせた。
ケーキなんかを食べたいけれど、とりあえずつまめるものかなと思い、使用人にマカロンを三つ皿に取ってもらった。
テーブルから離れて、とりあえずひとつ。
上品に食べられるように、ご令嬢に優しい一口サイズだ。
ちょっと物足りない。
「うーん、さすが王宮の料理。もの凄く美味しい」
うんうんと頷いていると、ホールの真ん中へ人が集まっているのに気づいた。
まだ王太子が現われたわけではないらしい。
何だろうと近づいてみる。
「あんたには、もううんざりよ!」
よく響き渡る金切り声だった。
口からというより頭のてっぺんから出ていそうだなと、思わず感心する。
人の隙間から中心を見ると、四人の人間が見えた。
そのうちの一人に、あっと目を丸くする。
図書館で会った少年だ。
今日は前髪を真ん中で分けて顔を出している。
綺麗なのにやつれきった顔とレイスリーネが気に入った月色の瞳がよく見えた。
そのことに、ちょっとご機嫌になってしまう。
「同い年だったんだ」
年が同じようだとは思っていたけれど今年社交デビューとは思わなかった。
あいかわらず疲れ切った顔だ。
けれど服の仕立てからして身分は高そう。
というか、絶対高い。
侯爵、むしろ公爵の可能性がある。
図書館でのやりとりを思い出して、あちゃあと眉をほんのり寄せた。
(馴れ馴れしくしちゃったな)
最初など敬語も使っていない。
失敗した。
(けど特に怒られなかったしな)
思い返してみても気にした様子はなかった。
ならいいかとレイスリーネはあっさりと結論を出す。
(にしても、やっぱり疲れきってる)
少年の向かいでは一人の少女が居丈高にたたずんでいる。
ここにいるということは、彼女も同い年だろう。
金髪を高そうな真珠と青い石の大振りな髪飾りで結い上げている。
緑の目をした可愛らしい顔立ちだけれど、いかんせん顔が意地悪そうというのがレイスリーネの感想だ。
少女が口紅の塗られている口をもう一度開く。
赤すぎる口紅は似合わないんじゃないかなと、レイスリーネはどうでもいいことを考えた。
「ハイドラ・バレンチェイド!王女である私の婚約者なのに、なんてみずぼらしいの!」
さくさくと二個目のマカロンを食べながら、レイスリーネは少女を観察した。
この国で王女と言えば一人だけだ。
傷を癒す光魔法が使えるうえに、魔力も多いという有名人。
(ベアトリーチェ王女……ということは)
ベアトリーチェから名前の判明したハイドラへと、レイスリーネは目線を動かした。
(ならあの人、婚約者ってことはバレンチェイド公爵家の嫡男だ)
結構な大物だった。
けれど、「え?」「あれ?」とレイスリーネは首を捻った。
なんで王女の婚約者があんなボロボロなんだ。
不思議に首を傾げるレイスリーネを他所に、ベアトリーチェ主演の劇のような催しは続いている。
よく見れば演者はヒステリックなベアトリーチェ、顔色最悪のハイドラの他に二人いた。
誰だろうと思って、よく見ようとしたらそれより先に甲高い声が響いた。




