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放課後、レイスリーネはハイドラと練習場へと向かっていた。
昼休みにあった騒動のおかげで、ハイドラとのぎくしゃくとした空気は無くなったのだ。
それが嬉しい。
これなら魔力を流す練習も上手く出来るだろう。
「まだ成功する回数の方が少ないからなあ」
「魔力を剣にこめることですか?」
「うん。これじゃあまだ実践には使えないなって」
成功率が上がらないのだ。
肩を落としてしまう。
「そうですね。今はまだまだ実践で使うには危険です」
「うーん今度の長期休暇までに使いこなして実践で試すのが目標かなあ」
「森に行くときは必ず私も同行しますからね」
ハイドラの言葉に思わずそちらを見ると、にこりと無言で笑みを向けられた。
これは有無を言わせぬ顔だ。
辺境でも見た。
(長期休暇、一緒に来てくれるつもりなんだ)
仮の婚約者にそこまでとは思うけれど、それ以上に嬉しいという感情しかない。
ハイドラに教えて貰っているのだから、改めて奮起する。
「私、頑張るよ」
「あなたなら絶対に出来るようになりますよ」
前向きな激励に嬉しくなりながらも、神々しい顔で笑うハイドラにレイスリーネは思わず煩悩退散と呟いた。
それにしても廊下を歩いていたら、集中するような視線が痛い。
食堂の一件は勢いよく学園中に駆け巡っている。
ハイドラといることも、ふさわしくないと声高には叫ばれることはないけれど女生徒たちの目が雄弁に語っていた。
なんならハイドラやフラップがいないときには嫌がらせなんかも始まったりしている。
大人しくしている義理はないので報復なんてしないけれど、回避はしっかりさせてもらっているので今のところ害はない。
ベアトリーチェがうるさかったくらいだが、それもいつも通りあしらった。
練習場へと向かっている今も、さざ波のように嗤ったりする声が訊こえている。
「急ぎましょう」
「ひゃっ」
ハイドラが言うなりレイスリーネの手をとって足を速めた。
必然的に手を繋いだかたちになって、思わず小さな悲鳴が上がる。
「あ、すみません」
「だ、大丈夫、嫌じゃない、あ、その」
ハイドラが離そうとする前に、レイスリーネはわずかにいつもより大きな声を出していた。
完全に無意識だったので、途端に目尻に朱が走る。
ハイドラも意外なことを言われたといわんばかりに、驚いた顔をしていた。
「……嫌ではないですか?」
ハイドラの問いかけに、思わず顔をそむけながらもこくんと小さく頷いた。
顔が見れなくて、ハイドラがどんな顔をしているのか不安になってくる。
「このまま手を取っていてもかまいませんか?」
もう一度頷く。
口のなかがカラカラで声が出ないから、頷くしか出来なくて少しはがゆい。
そっと手をひかれて歩き出したけれど、横を歩く勇気はなくてハイドラの一歩後ろを歩いた。
触れる手のひらが温かい。
練習のときも手を重ねるけれど、手を繋ぐのとはまったく違うことに気づいた。
どのみちその意外な大きさに包まれる感触は変わらない。
(手のひら同士ってなんか、いつもより恥ずかしい)
手の甲で感じるより柔らかいからだろうか。
ハイドラの銀髪から見える耳がほんのり赤い気がして、レイスリーネも恥ずかしさがつのっていく。
何だか頭が茹りそうだと思いながら、そんなに短くない距離を二人は手を繋いで歩いた。




