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 王都にあるタウンハウスに戻ると、父親が待ち構えていてレイスリーネは思わず口角が下がったのを自覚する。


「レイスリーネ!一人で歩き回るのはやめろと言っただろう」

「やだお父様、いつものことじゃない」


 見た目とは裏腹にカラカラとあっけらかんに笑うと、長身で体躯のたくましい父親であるタッシェがこめかみに手をやって、あからさまにため息を吐いた。


「ここは王都だ。それに仮にも社交デビューを控えた辺境伯家の娘だぞ」


 そうなのだ。

 十五歳。

 義務になっている王立学園の入学直前、その秋に貴族の子弟は社交デビューをする。

 これに関しては特別な理由がない限り、普段領地にいる貴族も適応される。

 そんなわけでレイスリーネも辺境領から、わざわざ王都に来ているのだ。


「早めに来て正解だった。色々、見てて面白かったもの」


レイスリーネが辺境領から出たのは初めてだ。

基本的に辺境領には魔物を抑えるという使命を課せられているため、当主はあまり領地をあけられない。

なので観光目的で父親を置いて一人で王都に来ようとしたら、待ったがかかり飛び出される前にと父親がなんとか調整をつけて一緒にタウンハウスに滞在しているのだった。


「大きい図書館も行ってきたけど、やっぱり王都は凄いわね」

「楽しんでいるようで何よりだ……」


 はあ、とタッシェは疲れたように答えたのだった。

 その日の夜、何となく寝るタイミングを逃したレイスリーネは伸びをしながらバルコニーへと出た。

 白い夜着に淡いパールピンクの髪がふわふわと流れて、なんとも神秘的な姿だ。

 すぐに夢をぶち壊すように、大きなあくびが零れたけれど。

 誰も見ていなければ、いいのである。


「そういえば、図書館で会った人、飴食べたかな」


 どう見ても疲れていたので、甘い物でも食べて力を抜ければいいけれど。

 もう一度伸びをして上を見上げると、薄暗がりのなかまんまるの月が浮かんでいた。

 レイスリーネは月が好きだ。

 どこが好きかと言われたら、色合いとしかいいようがないけれど、とりあえず好きだ。

 そのなかでも、満月は綺麗だし形のせいか可愛らしくも思う。


「いいお月様」


 やっぱり月はいい。

 気分が一気によくなったレイスリーネは、このテンションのまま寝ればいい夢が見られそうだと、いそいそと部屋へと戻った。


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