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破滅の少年と銀竜姫の誓い~赦しの先で選ぶ愛~  作者: フォンダンショコラ


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4/7

無名の罪状、その重さ

※本作はリメイク作品です。ここから内容が変わり始めます。

以前の投降

竜姫の葬送騎士 ―その少年、滅びの力を以て最愛を守る―

https://ncode.syosetu.com/n0151la/

 竜車に乗せられるなり、コウは奥の部屋に連行されるように連れてこられた。


「ここで、おとなしくせい」


 そういってフゥがコウを押し込んだのは、ちょっとした客間のような作りの部屋だった。

 窓があるし、クッションつきの長椅子や、簡易的なベッドのようなものもある。そして全体的に清潔だ。

 こんなところ自分が使って良いのだろうか。


「む、汚れなどは気にせんでよいぞ」


 コウの躊躇を察したのか、フゥがそう言い残してドアを締める。ガチャリと外で鍵を駆けるような音がした。

 監禁されたと思ったが、今更どうでもよかった。ただ、やはり自分の汚れが気になったので、ベッドや椅子に腰掛ける気にはなれず、床に座ることにした。

 座った床は不思議と冷たくなかった。触ってみるとほんのり温かい。材質なのか、魔法がかかっているのかコウにはわからなかったが、その暖かさに居心地の悪さを覚える。

 どうにか自分の居場所を探していると、ぐらりと部屋全体が揺れた。何事かと窓に張り付いたコウは思わず声を漏らした。


「わぁ!」


 飛んでいた。竜だから空くらい飛ぶだろうとおもったが、それでも初めて見る光景に感動した。

 眼下に砦が見える。その周りを森が囲っている。目を向ければ遠い山々がぼんやりと見えるほど視界がどんどん広がっていく。そして砦が黒い点にしか見えなくなった時、視界が白いもので隠された。


「な、なんだ!?」


 驚きよろめく。それは雲だったが、このときのコウは知るよしもない。

 白い靄を抜けると、さらなる驚きの光景が広がった。

 青だ。白い靄の上に青が広がっている。まるで吸い込まれそうな青。一面の白の上に覆いかぶさった青はこの世のものとは思えない光景だった。

 もし天国というものがあったらこういうところなのかもしれない。


「空を見るのが初めてでしたら、驚きますわね」


 たおやかな女性の声がした。

 コウが振り向くと、レムがちょうど部屋に入ってきたところだった。

 外をみてはしゃいでいた自分が途端に恥ずかしくなり、コウは「あ、いや…」と口の中でまごつきながら、窓から慌てて離れる。


「安心してください。少しお話させてもらいにきましたの」


 レムはにこりと微笑みながらコウからみても優美な動きで部屋の中に入ってくる。

 迷わず向かってくる彼女に気圧されるようにコウは部屋の隅に追い詰められていく。


「そんなに警戒しなくてもとって食べたりしませんわ。ほら、これ以上近づきませんから気を楽に」


 そう言ってレムは近くの長椅子に腰掛けた。


「ほら、あなたも座って?」


 そう言われてもコウは困ってしまう。自分が汚れているのが気になってしまい、少し迷ってやはり、床に腰を下ろした。

 レムが不意に「はぁ」とため息をつき、コウの体は反射的にこわばってしまう。自分が何かしてしまったに違いない。


「ご、ごめんなさい」


 咄嗟に謝ってしまうコウだが、その言葉にレムのほうがハッと衝撃を受けたような顔をした。


「あ、違いますの。あなたが悪いわけではありませんわ。今のは……えぇ、そうですわね。私のほうが不躾でしたわ。ごめんなさい」


 逆に謝られてしまい、コウはさらに困惑する。

 そんなコウの様子にレムはこちらを安心させるようと、にこりと優しく笑って見せる。


「本当に私はあなたとお話したいだけですわ。よければいくつか質問させてもらってもよろしいかしら」


 彼女の言葉に嘘偽りはなさそうだった。

 コウはコクリと頷く

 自分に興味や関心をもってくれる人は本当に何年ぶりなのだろうか。うまく話せるといいのだけど。いつも高圧的に、一方的に話しかけられてきたコウとしては、レムのように丁寧に話しかけてくれる相手は本当に久しぶりだった。


「ありがとうございます。そうですね。まずはあなたは捕まる前はどこにいたのか教えてくださる?」


 レムの質問はコウに関する事を聞きだしたいようだった。彼女の質問に、ぽつりぽつりとコウは答えた。


◇ ◇ ◇


 彼を初めて見たとき、【姫さま】ことィリーリア=E=ローウェルは、なんて汚くみすぼらしい人間なんだと思った。

 年の頃は自分より幼く見えた。

 人間族は竜人族と比べて短命だから実際の年齢はわからないけど、事前に渡された資料によれば少なくとも自分と同じだったはずだ。だが、それを差し引いても彼はひどく痩せこけているせいで実年齢より幼く見えたのだ。

 黒い髪の毛は伸びっぱなしでぼさぼさ。手足は枯れ木のほうがましなのではないかと思うほど、細く脆そうだ。一瞬からまった視線の先にある瞳は黒く、淀んでいて虚ろだ。体を清めたのはいつなのだろうか、薄暗い牢の臭気はこの少年が大元だといわれても信じそうなくらいの臭いが印象に残っている。それこそ身にまとっているボロのほうが上等に思えたほどだ。

 だが、彼の瞳を見た瞬間、感じてしまったのだ。彼と繋がったことを。

 それがエンゲージだとすぐに分かった。彼と繋がった瞬間、ィリーリアはそれを見たのだ。今より少しだけ大人になった自分の隣にいる優しく笑う、彼と似た青年の姿を。

 唇を噛み締める。

 その事を考えるだけで心が暖かくなってしまう自分が許せない。両親を奪った力を彼は宿している。そしてそのきっかけを作った帝国の人間なのだ。彼は。温かい気持ちと冷たい気持ちがぐちゃぐちゃになって整理が追いつかない。

 ただ彼は自分の運命に深く関わる。その確信だけは強く残っていた。


「まるで大罪人か、魔物を封印するような扱いでしたわ」


 彼を軟禁している部屋から戻ってきたレムが疲れたような声音でいった。

 ィリーリアは思索にふけっていた思考を竜車の中に戻す。

 一行はいま、竜の姿にもどったラナの背中に括られた籠の中にいる。

 籠の中は質素ながらも皇室専用の快適な竜車になっている。背負っている当のラナは火を象徴とする火竜で、その中でも30mを超える巨体の持ち主のためか、空にいるのとは思えないほど、室内は安定している。それこそ、窓の外で流れる雲海と、はためく竜の翼がなければ止まっているように思えるほどの快適さだった。

 籠はィリーリアたちが今いるメインとなる部屋の他に、後方には貨物室と使用人部屋へ続く扉があり、前方にはいわゆる操舵室という名の展望室がある。

 室内にはィリーリアとその隣に座るアーティ、対面にレムとフゥが座っている。滅剣の継承者はレムが使用人の部屋から出られないよう魔法で封印を施し軟禁している。

 ごほんと咳払いをつき、気を取り直したアーティが口をひらいた。


「そうですね。エンゲージという想定外のことがあり見落としてしまっていましたが、滅剣の継承者として畏れられている、というより逃さないように拘束し、死なないように監視されていましたね」


 アーティが彼女の言葉を肯定するのに呼応して、フゥが口ひげを撫でながら、口を開く。


「あれは監獄ではなく封印じゃな。そもそも出すことを想定していないものじゃ。窓もない部屋に強固な内壁。その割に、外壁は脆いつくりじゃった」


 フゥの言葉に頷きながら、レムが情報を補足する。


「何か事が起こった際、建物そのものを崩して、中を潰すように作られていましたわ」

「それにじゃ、兵どもの態度をみれば一目瞭然じゃの。あれは同胞というよりは敵に向ける態度じゃ」


 フゥの言葉を頭の中で反芻しながら、ィリーリアは彼を取り囲んでいた状況を思い出していた。確かにあそこは砦というより監獄といったほうがしっくりくる。

 だがなぜ?という疑問符が浮かぶ。

 戦争犯罪人というのはィリーリア達の見解であり、帝国側からしたら戦争功労人から力を受け継いだ継承者のはずだ。


「ねぇ、アーティ。滅剣の継承者は帝国の切り札なのでしょう?」


 ィリーリアは思い切って疑問をぶつけてみることにした。


「えぇ、リリィ。そのとおりです」


 柔和な表情を浮かべたアーティは優しく答えた。全員の視線が自分に集まることを感じながら、ィリーリアは続ける。


「滅剣の継承者は英雄ではなかったの?」


「いいえ、違いませんよ。彼をみるまで、私達もそう思っておりましたから」


 そこで言葉を切り、思案するように顎に手を当てる。


「いえ、ですが、そうですね。敵として憎んでいましたが、冷静になった今、違和感しかないですね」


 アーティの言葉にフゥとレムも追従するように頷いてみせた。

 切り札であれば切り札なりの扱いというものがあるものと思っていた。だが現実は違った。それが帝国の文化というものなのだろうか。


「そうじゃな、引き渡すにしても、それ相応の扱いが必要じゃろう、ふぅむ……」

 

 顎髭を撫でながらフゥは独白するような言葉に、アーティが頷いて見せる。


「フゥ殿の言う通りです。帝国の彼に対する扱いは常識から考えてありえません。なにかあると考えたほうが自然でしょう」

「そうじゃな」


 ィリーリアも彼の扱いには何か噛み合わない違和感のようなものを感じた。

 アーティはィリーリアの悩む様子を微笑ましそうに見ていたが、ふいにレムに視線を向けた。

 先程、渦中の彼と会話をしてきたであろうレムに話を振る。抜け目のない彼女なら彼から何かを聞き出しているに違いなかった。


「レム、彼と話して何か情報が掴めましたか?たとえば、人間性であったりとか背景であったりとか」


 アーティに問われたレムは頷き、内容を思い出しているのか、頬に手を当てる。

 アーティの言う通りレムは滅剣の継承者の人格をある程度把握しておくため、会話がてら簡単なテストをしていた。その時の印象を思い出しつつ、言葉を選ぶように話し始めた。


「話した限りでは悪人ではない印象を受けましたわ」

「それは意外ね」

 レムの率直な感想にアーティは素直に驚きの表情を浮かべた。その反応を見ながらレムは続けて口を開く。

「もっとよく調べる必要はあるのですけれど、危険な思想や過激な思考は持ち合わせていないように見受けられますわ。それどころか善良といえますわね」

 

 レムのその評価に、その場にいる全員が驚いた。

 もちろんィリーリアも驚いた。なにせ、あのように厳重に封印されていたのだから、滅剣の継承者という以外でも何かしら問題を抱えている人物なのではないかと思っていたのだ。

 アーティたちの反応をみながら、レムは更に続ける。


「そうですわね。ただしこれはあくまで簡易的なもの、と前置きが必要ですが、それを差し引いても献身的で奉仕の心を持ち合わせているような人物像といえますわ」

「レム、あなたのいうことが本当だとしたら、彼は規範となるくらい善良な市民ということになりますね」


 真剣な顔つきのアーティが悩ましそうに言った。

 彼の評価がそのままの通りだとすれば、それはつまり為政者にとって扱いやすいということでもある。


「断定するのは早計ですが、すくなくとも現状はそう取っていただいて問題ありませんわ」


 モノクルをくいっと持ち上げながら、レムは「それと」と前置きしながら付け加える。


「彼はどうやら孤児院に売られたみたいですわね」

「孤児院に売られたじゃと?」


 これに反応したのは、いままで興味がなさそうに聞いていたフゥだった。レムはフゥの反応を予期していたように、顔を向け小さく頷いて肯定する。


「裏付けを取る必要はありますが、少なくとも彼の古いおぼろげな【記憶】を見た限りでは、ご両親に売られたようですわね」

「売る、ですか」


 ィリーリアはレムの言葉を吟味する。孤児院は何らかの理由で親を失ったり、子供を保護する施設だ。それを売る。という表現はおかしいのではなかろうか。

 ィリーリアの疑問をよそに、アーティはレムが明確に「記憶を見た」といったことが気になったようだった。


「レム、あなた、記憶を読みとったのですか?」


 責める口調ではない。ただの確認のようなアーティの問いかけにレムが再び小さく頷き肯定の意を示すと、アーティはジロリとレムを責めるような目線を向ける。


「レム……」

「いえ、その、彼自身は記憶を引き出せない状態のようでしたので、少し気になりまして」


 言い訳がましく慌てるレムに、アーティは諦めたように「続けて」とだけ言った。


「とはいえ、手持ちの道具では断片的な記憶を垣間見ることが限界でしたので、確信が持てるまでは余計な情報になるかと黙っていましたの」

「そういうことですか」


 それ以上の追求はしないのか、アーティはその一言で終わらせた。

 レムという人物は、魔法のスペシャリストで研究者でもある。竜人族の中でも彼女以上に魔法の造詣が深いものはいない程だ。学者気質が強い彼女としては不確かな情報を伝えたくないというのは本心に違いないというのはこの場にいる全員が理解できることだった。


「それに、違和感はもう一つありますわ。彼、なぜかずっと自分は罪人であるということを言い聞かせるみたいに言うんですの」

「まて、罪人と自身でいうていおるのか?」


 目を閉じて考え事をしていたフゥがカッと目を見開いた。


「えぇ。彼が罪人であるなら、あの扱いは納得がいくのですが…」

「なんじゃ?なにか気になることでもあるのか?」

「はい…彼、自分がどのような罪を犯したのか、知らないんですの」


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