鹿は生きるのに今日も精一杯
朝、寝床から首を上げて周囲を見渡す。少し肌寒い季節になってきたが、最近は仲間も襲われずに平和な時間が続いている。添い遂げると決めた彼女はまだ隣で寝息を立て、息子と寝ていた。自分はというと腹が減り、その空腹で目が覚めた。近場の木の実は食べきっておりそろそろ移動するしかない。今は食べられる木の皮で我慢することにする。自分の首より高いところを優先して食べるともし息子が食べる時に食べやすいと思っている。木の皮をかじること1時間、嫁と息子が起きてきた。お互いの匂いを嗅いで健康を確認する。2匹ともいたって健康である。
しかしながら既に木の実はなくここにいては健康状態が悪化するのは明白だ。徐々に気温が下がる中木の実は少なくなっていくため、急いで探すために移動しよう。目くばせで合図をして移動を開始した。
一行は湖のほとりに到達した。雪が降ったほとりはうっすらと積もっており、表面は凍っている。ふと風上から人間の匂いがする。直後嫁の体が吹き飛び、直後にパァンという破裂音が聞こえる。本能的に走り出し息子がついてきているか後ろを確認する。しかし、すでにこと切れた母親をまるで寝てしまったと思っているかのように鼻でつついている。
あぁ、もうだめだ。
次の破裂音は息子の頭部を吹き飛ばした。自分は全力で林の中へ駆け込み、できるだけ木が密集しているところを縫いながら走る。
どれぐらいは知っただろうか、気が付くと木の実がたくさん実っている場所に来ていた。しかし振り返っても当然嫁も息子もいない。狩られてしまった。明らかな自分のルート選択ミスにより、大切な家族を失ってしまった。しかし仕方がない。これが自然界であり、弱者は気を抜けば強者に淘汰されてしまうのだ。
そしてなぜここにはここまでの大量の木の実が残っているか、木陰から生き残った雄鹿を狙うギラリとした目が、獲物を狙うゆっくりとした気配を消した足取りが背後に迫っていた。
最近は獲物が少ない。寒く、雪が降り始めたため獲物は貯えをしてどこかに隠れることがほとんどである。が、最近良い狩場を見つけた。木の実が生い茂り葉よりも実のほうが多いのではと錯覚するほどの獲物からすればこの寒さを群れが乗り越えれるほどの量、だと思う。何匹かはまんまと引っ掛かり食事にありついた。数日間にかけて食べていたので飢えずに済んでいた。さて食べるものがなくなって数日、どうなったかというと、飢え始めていた。しかしながら、この絶好の狩場を捨てるような愚かさはない。
数時間後遠くで破裂音が聞こえる。獲物を刈り取る音だと知っている。そして二回目。明らかに外したか、群れかのどちらかだ。湖のほうから聞こえたのでそろそろこちらに逃げ込むところか。
と、がさがさっと葉がすれる音と共に獲物がやってきた。1匹だ、どうやら他は先ほどの破裂音が持って行ってしまったようだ。
久方ぶりの食事だ、逃すわけにはいかない。気配を悟られぬように背後へと回る。獲物がいることに狩の好奇心が躍る。準備が済んで相手の気が緩んだ時、一気呵成に飛掛かった。
ハンターは湖の対岸より鹿のつがいを狙う。まずは一番後ろの雌鹿で、その次に小鹿だ。照準器からしっかりと息を殺して狙う。直後風が背後から吹いた。
「くっ」
先頭の雄鹿がこちらのほうを見る。素早く雌に照準を戻し発砲した。弾丸は少しそれ、鹿の首より少し胴体側に着弾し、先頭の雄が走り出すが、小鹿は母親をつついている。ゆっくりと狙いを定めには詰めを放った。弾丸は小鹿の頭部を突き抜けた。
「こんなもんか」
呟きながら仕留めた獲物に近づく。急所を外してしまった雌鹿はヒューヒューと苦しそうな息を上げている。
「ごめんな」
短刀を取り出し、一思いに首に突き立てた。




