生まれてきた理由
知ってるかい?
人は誰かに愛される為に生まれてきたんだって。
どこかの偉い教授がそう言ってた。
じゃあ僕はなんの為に生まれてきたのだろう。
だって一度も愛された事がないから。
親ですら僕を愛した事はない。
愛される為に生まれてくるっていうなら、僕はなんの為に生まれてきたんだろう。
ジョウロで水をまきながら呟くと
青い綺麗な蝶が目の前を舞っていた。
蝶は僕に語りかけてきた。
「可哀想な子。自分が何の為に生まれたか分からないのね」
僕は蝶に言った。
「分からないさ。誰にも、僕ですらも生まれてきた理由なんて分からない。」
蝶は僕の肩に止まった。
「そうね。でも生まれる必要の無いものは何もないの。あなただってそうよ」
「じゃあ何で僕は愛されないの?」
「愛してるわ。私や木や花たちもあなたの事が好きよ。ただ気づいていないだけ」
僕はため息をついた。
「君たちに愛されているのは嬉しいよ。でも僕は人から愛されたいんだ」
「ねぇ、これだけは覚えておいて、愛されるだけが全てじゃないの」
蝶はそう言うと僕の肩から落ちて地面に寂しく落ちた。
蝶の命は長くはもたない。
なのに蝶は何でこんなに幸せそうなのだろう。
僕は蝶の身体を埋めてあげた。
花がカサカサと花びらを揺らした。
「何でその蝶は幸せなのか分かる?」
僕は首を振った。
「教えて」
「だめよ。自分で分からなければ意味がないの」
花はそう言うと花びらを一枚落とした。
「でもこれだけは聞いて。私たちはあなたがいなければ生きられないの」
「どうして?君も死んでしまうのかい?嫌だよ、死なないでよ」
花びらが一枚ずつ落ちると花は枯れてしまった。
「どうしてみんな死んでしまったか分かるかい?」
後ろにあった大きな木が言った。
「みんな君の事を愛しているから死と引き換えに君に話しかけたんだ」
「みんな何で僕にそこまでするんだい?こんな僕に・・・」
「いいかい、坊や。みんなは坊やを愛していたから幸せだったんだ」
木の葉っぱがいくつか落ちてくる。
「坊や、これだけは知っておくんだ。愛されるのは愛するものがいるからだよ」
葉っぱがバサバサと落ちて木は枯れてしまった。
僕は泣いた。
やっと自分が生まれてきた理由が分かった。
僕は誰かを愛する為に生まれてきたんだ。
みんなも愛する人がいたから愛されていたんだ、っと。