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愛の劇場〜貴族編〜

婚約者で本日夫となった男は、私のメイドと浮気中、そんな私は監禁中

作者: towa


 静まり返る薄暗い寝室。


 涙を流して伝える質素なワンピースの女性はクリスティナ。公爵令嬢である。


 驚いた顔を見せる男は男爵令息のフランク。


「い、今何と言った?」


「は……はい、私はあなたに愛されたいと思ってました」


「なぜ、今日……言うのだ?」

 驚いたフランクはクリスティナに言う。


 何故なら今日は2人の結婚式であったから。


 ゆっくりとクリスティナは話を始める。


「言うタイミングがありませんでした。旦那様には……他に愛する人がいますね。メアリーよね」


「彼女は」

 


「今夜ですら私の元を去り、彼女の所に行くのでしょう?今朝、彼女が私に言いましたの。これから貴方と結婚する私にね。私は永遠に愛されない可哀想な妻、今夜ですら貴方は愛してもらえない女だとね。私には愛されないお飾りの妻のまま、この家の為にいろと。貴方はこの後、彼女の元に行き、愛を伝え愛し合うのでしょう?今までの様に。そして貴方は今日ここに『私を愛する事はない、愛しているのはメアリーだ』と言うつもりだったのでしょう?」


 初夜の今日、妻となったクリスティナとは身体を繋ぐ事はないが伝えたい事があったフランク。


「……メアリーが君に?彼女がそんな事を言う訳がない。君はずっとメアリーを虐げていただろう?」


「何故?」

 彼女は疑問をぶつける。

 

「君は……メイドだったメアリーの母が……君の父上と愛し合い生まれたから憎んでると。メアリーの母親を追い出し、メアリーをメイドとして側に置き虐げていたのだろう?」



「ふふっ、メアリーがそう貴方に話したのね。違うわ。私の父は薬を盛られてメアリーの母と一夜のみ過ごしたの身体を重ねた形跡はなかった。しかし母はメアリーの母を解雇したわ。薬を屋敷の主人に盛り寝所に押しかけたのですから。その8年後よ……その女が父の子だと言い、置いていったのよ。本当に父の子かはわからないから使用人として屋敷で保護したのよ」


「聞いた話と違うではないか」

 

「しかし、貴方は、私付きのメイドとして来たメアリーと浮気をしたのよ。メアリーは貴方に何を言ったのかはどうでもいいわ。どうして婚約者であった私に聞かなかったの?」


「メアリーが私が君に問いただしクビになったら困ると言うから」


「貴方が雇えばいいじゃない。そのような身の上話をする程に仲が良くなっていたのでしょう?おまけに離れに住まわせて通い詰める男……使用人達の希望の星なのですって彼女は。そのせいで私はどうなったと?」


「その……君は……男を連れ込んでいて」

 メアリーだけではなく使用人からも男と過ごしていると聞かされていたフランク。



「使用人達に馬鹿にされ、ここに来てからは自分の事は自分でしていたわ。貴方は何も気付いてなかったようだけどね。仕事が終わると離れのメアリーの所に帰るのですから。私が純潔であるかお疑いなら調べてもらってもいいのですが……もう遅いですわ」


 メアリーとクリスティナの話が食い違い過ぎて混乱するフランク。


「いつもメイド達が君の所に男がいると言い、離れに案内されて……」

「この家の為だから我慢してくれと言われましたか?」


 確かに言われた。彼女の家からの援助のおかげで助かっているから彼女の行動には何も言わなかった。


「……メアリーは、泣きながら君に……男がいるから……私に傷ついて欲しくないと……私を見た目だけで選んだからと言っていた」


「貴方の信用する執事からは?」


「何も……」

 使用人の全てはメアリーの味方だった。その位メアリーは慕われていた。


「仮に貴方を見た目で選んだのなら私の側に置くわ。それなのに話すら出来なかったわ。何故でしょうか?私は婚約者なのにね。私が貴方を拒んでいたのではありません。この家の使用人達は貴方達の味方のようでね。手紙すら渡っていないのでしょうね」


 

「手紙?もらっていない」

 クリスティナが手紙を?私は何も知らない。



「話がしたいと何度も……毎週書いてましたわ。届いてはいないとわかってましたがね」


「それなら直接届けに、職場にでも」

 全て自分は悪くないと言わんばかりの言い方のクリスティナに少し苛立ちを覚えた。しかし、クリスティナの見せた現実に自分自身の愚かさを知った。


「はぁ……何を言ってるの?ここの部屋を見せてあげる」


 全ての明かりをつける。


「クリスティナ……何なんだ?この部屋……何もない……君はずっと?」


 クリスティナの自室にはベッドと机のみだった。



「えぇ、この部屋で全てが終わるのよ。食事だけは運ばれてきたわ。この扉の下がね。開くのよ……私が許される部屋の外はこの小さなドアから腕を出し届く範囲までよ。だから、クローゼットには洋服はない。外出なんて出来ないわよ。それ以前に……靴がないのよ。今日の結婚式が久しぶりの外出だったのよ。なかなか貴方とは2人きりにさせてもらえなかったし、貴方は私と話をする事を拒絶していたのでしょう?」


 あのドアの下の小窓から食事?囚人ではないか…。


「ドレスの衣装合わせは?」


「色々なサイズの既製品を用意してたのよ。私の両親の顔を見た?」


「とても……驚いた顔をしていたが……そう言うことか」

 

「家族と2人になれた唯一の場所が……バージンロードで父と歩いた時よ。その時に全て話したのこの屋敷での生活をね。だから貴方の元に行くのに時間がかかったわ」


 2人は室内に立ったまま会話を続ける。

 鍵がかかる部屋、ソファすらない、靴も持っていない彼女はいつから?毎月決まった額の買い物の報告書が私の元に来ていた。


「それなら、今までの買い物は?」


「メアリーが全て持っているでしょう?彼女は私が捨てたから勿体ないから貰ったと言っていたのかしらね」


 いつも真新しい家具や洋服が追加され、美しく着飾るメアリーに対し、久しぶりに見た彼女は髪の艶もなく長さも不揃いだった。


「すまない……何も気付いてやれなくて」

 頭を下げた。私は…彼女に夜会で一目惚れをして願って手に入れた女性に私は何をした?



 何もしていない。


「貴方は私の家からの援助を貰っていたのよ。私を蔑ろにし、私に自分達の愛し合う姿を側で見せ、自分達は私の家からの援助で幸せに暮らしていくの?そのうちメアリーに子供を産んでもらい、私の子として届けるの?私をバカにしすぎよ」


「君は他に男がいると彼女が……私が追い出されたのかと。すまない、私は……彼女の所へ」




 フラフラとフランクは寝室から出て行く。

 クリスティナを残して。



 ズルズルと床に座り込むフランク。


――俺は一体何を……どこで間違えた?


 クリスティナに初めて出会ったのはとある夜会だった。

 とても綺麗な彼女に参加する男達は彼女を見つめる。

 そんな彼女と目が合う、彼女は優しく微笑んだ。頬を染めて。

 

 その後は何度か夜会で会い会話を楽しむ。彼女は美しい。そして公爵家の娘、私は男爵であり勤め人、身分の釣り合わない私達。それでも会うと会話を楽しんだ。父から気になる女性はいないのかと言われた。1人の女性が頭に浮かぶも名を伝える事はできなかった。

 しかし、父は知っていた。夜会での私達の噂を…身分違いの恋をする2人と。


 再び夜会で会う彼女、気さくで穏やかな彼女。夜空の広がるバルコニーで私は言う。


「月が綺麗ですね」


 彼女は微笑み。


「今なら手が届きそうですね」

 

 その数週間後、父は私に見合いの話を持ってきた。


 その相手は想い焦がれたクリスティナだった。

 彼女と婚約をし、幸せな日々が続く、一年後に結果式を迎える事になった。そして、彼女は私の屋敷に来る事になった。両親は気を利かせたのか母方の領地へと引っ越しをした。そして彼女を屋敷に迎えた。彼女の家からの援助は正直ありがたかった。


 しかし、突然に幸せはガラガラと崩れ落ちた。


 クリスティナと共に来たメイドのメアリーから聞かされたのは虐めや男遊びであった。私は最初は信じていなかったのだが、メイドが涙ながらに訴えてくる。彼女と話そうとするものクビになると困ると言う彼女。ついに彼女はクリスティナに傷つけられたと頬を赤くし私の前に涙を流し立っている。メアリーからは自分の生い立ちを聞いていた。メアリーの母とクリスティナの父は愛しあっていたがクリスティナの母に知られ別れる事になった事、母は女で一つで自分を育ててくれたと……母は病になりクリスティナの家を頼るも言われた事はメアリーが使用人して働けば母の治療費を援助すると言う条件であり。その日からクリスティナには虐げられていたと聞いていた。


「クリスティナ様は私が憎いのです。だから私を……フランク様、助けてください……」


 そう懇願する彼女は、自ら服を脱ぎ私に肌を晒した、身体中に残る痣や傷が彼女の環境を表していると思い、私は彼女を抱いた。そこからは、クリスティナの目を盗み身体を重ねた。そして、保護と言う名目で離れに彼女を住まわし私は通いメアリーを抱く。メアリーからもクリスティナは元々いた恋人を連れ込んでいる。身分違いの為、私は隠れ蓑として利用しているとの話を信じた。他の使用人も執事すら何も言ってこなかった為、真実であると信じた。


 クリスティナが屋敷に来て半年、本邸には帰らない日々、しかし彼女の家からの援助もありがたい。メアリーは言った。向こうではクリスティナ様は恋人と過ごして、別邸で私達は過ごしましょうと。この頃にはクリスティナと話すどころか会う事もなかった。私もメアリーを愛してしまっていたから。母のために使用人となり虐めを受けるが頑張るメアリーを守りたいと思っていた。結婚式を迎えた本日の初夜で知った事実は、実際にはクリスティナがメアリーだけではなく使用人にまで蔑ろにされていた事を知らされた。何より初夜を迎えるはずの寝室の異質さに驚き、後悔しメアリーへの愛情が薄れていくことを感じた。


***


 廊下を歩くと家令に会う。

「旦那様?メアリー様の所へ行くのですね」


「お前も付いて来るのだ。屋敷の中にいるもの全て連れてこい」


「だ、旦那様?もしや……離れで皆に報告するのですか」



「…………そうだ」

「急ぎ呼び離れに向かいます」



 フランクは別邸にいる心優しい愛するメアリーの元に行く。青褪めた顔で。



 離れの玄関を開けるとメアリーに付けたメイド達が現れる。

「旦那様、メアリー様が待っておいでです」


「待ってる?何故だ?」


「今日という日をお飾の妻ではなくメアリー様に捧げるのですよね」


「君らもそう思っているのだな」

「そうですよ。現に初夜の妻となった女を置き、ここに来たではありませんか。メアリー様の言うとおりに素敵な寝室となるように準備してます」


「お前たちはココから動くな」

「お部屋まで案内を」


「向こうからも使用人達が来るから、下で待つのだ」


「メアリー様を屋敷の女主人と報告するのですか」


「………………私は待てと言ったぞ」


「……はい」


 ※※※


 静まり返る屋敷

 

 この部屋に向かい近づく足音と男の息を切らし名を呼ぶ声に聞き覚えがあった。



「クリスティナ様……どこですか?クリスティナ様……」


「サイラス……サイラス……ここよ……私は……ここ」


 ドアを叩いて場所を知らせるクリスティナ。


「クリスティナ……ここか?くそっ、何故カギがかかってるのだ。クリスティナ、離れて」



 鍵のかかるドアに体当たりを何度もするサイラス。執事は使用人を呼びに行く際に、この部屋に再び鍵をかけたのだった。

 何度もドアに体当たりをしドアを壊して入る男。


「はぁ、はぁ……クリスティナ様、ここにいましたか、探しました……クリスティナ様?こんな部屋にずっと?」


「彼はメアリーの元に行ってしまいました。彼はメアリーの言葉を信じてましたの……婚約者であり、妻となった私よりも……メアリーを信じて……今夜ですら離れに……」


 サイラスはクリスティナの側に行く。

「クリスティナ様、帰りましょう。旦那様達が家で待ってます。大丈夫ですよ」


「サイラス?」



「あの男は夜会でクリスティナ様に一目惚れをし、フランク様の両親の願いで……彼が貴方を幸せにしてくれるならばと両親は結婚を許しましたし、幸せであるよう援助してきました。しかし、今日貴方は勇気を出しご両親に状況を伝えました。偉かったですね、お嬢様」


 泣くクリスティナを抱きしめるサイラス。


「うっ……う……今日しかなかったのよ。彼もね、最初は優しかったのよ。結婚が決まり、この屋敷に来てからよ、徐々にね……気付いたらこの部屋での生活よ」


「そうでしたか」


 クリスティナを自身に強く引き寄せるサイラスであった。


「彼を見るのはね……この部屋の窓からだけだったの。メアリーのいる離れから仕事に行く彼、メアリーの元に帰る彼、そして楽しそうにメアリーと散歩する彼だけよ。誰も……誰も助けてくれなかったの……手紙すら両親にも届いていなかったのでしょう?」


「はい。ご両親はとても悲しんでおります。そしてあの男とメアリーに対し怒っております。ご両親は貴方の帰りを待っておりますよ。結婚前にご両親は何度かここを訪ねたのですが流行り病と言われたり、あの男と出掛けていると言われこの屋敷には入る事はできなかったのですよ。

ご両親も手紙を出しても返事が来ない事を心配しておりました」


「私は戻ってもいいの?」


「はい、私が貴方を守りますから大丈夫です」



***


「メアリーいるか?」

「はい、フランク様お待ちしてました」


 

「ちょっとホールに来てくれないか。皆も揃えている」

「私を女主人と認めると宣言してくれるのですか」


「…………上着を着てくれ」

「わかりました」


 嬉しそうに薄い夜着の上からガウンを羽織り愛する男フランクの隣を歩く。



――私はあの女に勝ったのよ。最初から気に入らない女だった。お母様は屋敷を追い出されてから大変だったと言い私は母の虐待を受け育った。しかし最後は男と一緒になると言い、私をあの女の家に置いていった。そして知ったのは全て持っている幸せそうなクリスティナ。憎かった。そして婚約者のフランクは素敵な人だった。ちょっと嘘と涙を見せたら信じたわ。そして虐められたと言い抱きつき肌を見せたら簡単に私を抱いたわ。やっとあの女よりも上に立てる。私はフランクに愛されている。勿論、わたしも愛してる。あの女はこのまま、あの部屋に1人愛されずに一生を終えればいいのよ。


***


 厳しい顔のフランクと自信に満ちた顔でフランクの隣に立つメアリー。

 ホールには使用人達が嬉しそうに屋敷の主人であるフランクと幸せそうなメアリーを羨望の眼差しで見つめる。



 フランクは口を開く。

「君達は……私に嘘を言っていないか?」


「え?クリスティナが何か嘘を言ったのですか?」


 黙り込む使用人達、フランクは冷たい視線を使用人とメアリーに向ける。


「メアリー、君の雇い主であるクリスティナをずっと呼び捨てにしていたのかい?」


「え……違う……私は……彼女に……ずっと……」


「君は……クリスティナに虐げられていたと」


「えぇ。だから貴方は今日、彼女に愛する事はないと伝えて私の元に来たのですよね」



「そうですよ。クリスティナ様はメアリー様を虐めていて」


 メイドの1人が話し出す。


「誰か、メアリーが虐められている所を見たものは?」



「………………」


「こんなに使用人がいるのにおかしいな」


 そもそも、半年以上クリスティナの姿を見た事がない使用人達。

「メアリー、私は言うつもりだった……他に愛する人がいるとね」

「私も愛してますわ。フランク様」



「それで、君は……いや君達は彼女を部屋に閉じ込めたのは何故かな?彼女の家から援助金をもらう為だけの妻にしろと私は言ったのかな?」


「え……それは」


「メイド長……なぜクリスティナにはメイドがいない?掃除や身支度は誰がした?」

「いや……あの……自分でなさると……」


「何故、彼女のクローゼットには服がない?初夜の女性の部屋にしては質素だったな。花も飲み物も軽食も水差しすらない。ベッドと机だけの部屋。先程見たがメアリーの寝室には全て揃っていたが?執事よ、私に報告していた彼女の買い物は本当に彼女がしたのか?メアリーの部屋にある洋服や家具、アクセサリーは本当にクリスティナが注文し不要と言い捨てた物なのか?」


 何も言わない使用人とメアリーに向け話を続ける。


「今夜も私がすぐに立ち去ると思いクリスティナの部屋には何も準備しなかったなのか?彼女が部屋の明かりをつける事も私と夜を明かす事もないと思っていたのだよな。私はこの家に援助してくれている彼女に感謝を伝えようと……これからの夫婦の在り方を相談しようと思っていた。私の事を恋人と過ごす為の隠れ蓑だとしても……初夜の女性を1人にするような屈辱を与えるつもりはなかったのだよ。しかし、あれ以上彼女の側にいる資格は私には無いとわかり、真実を知る為に皆を呼んだ」


「…………」


「部屋から出た私を君らは何と言った?別邸でメアリーが準備している?ここでも同じだ。皆、ここに来ると思っていたのだろう。そして、現に私は彼女を残しここに来たが満足か?ここに来たのはメアリーと過ごす為ではないぞ」


「…………」

 青褪める使用人とメアリー。


「私はな……今夜は初夜だ。先程も言ったが、例え抱く事はなくとも彼女と話をしようと思っていたのだよ。今後についてね。今頃、彼女の家族が彼女を迎えに来ているだろう。彼女は唯一外に出られ家族と2人になれる時……彼女はバージンロードを歩きながら父親にここでの生活を話したのだよ。彼女は家族に大切にされているからね」


「執事よ、……手紙は?私宛に彼女から来ていただろう?」

「それは……」


「皆で読んで彼女を嘲笑っていたのか?」

「…………」


「私宛の手紙だ。捨ててはないよな」

「それがその……」


「本当にあの部屋に男を連れ込んでいたのか?」

「………………」


「何故、誰も言わない。いつから彼女のメイドのメアリーがこの屋敷の女主人になったのかな」


「そして、メアリー?」

「はい……」


「私に嘘を言い、私に抱かれて愛され楽しかったであろう。私も君を信じ愛していたのだぞ。今日はクリスティナには今更だがメアリーを愛する事の許しをもらおうと思っていた。それなのに彼女から聞かされたのは、この屋敷での生活だ。鍵のかかる、あのドアの下の小窓からどんな思いで食事を受け取っていたのか……」


「…………」


「なぁ……執事よ。ここに来る前にクリスティナの部屋に鍵をかけてはないよな……」


 騒めく使用人達と震える執事。


「皆がしていた事は監禁だ、そして虐待、勝手にクリスティナの名義を使った買い物は横領という立派な犯罪だ。しかもクリスティナは公爵家の令嬢だから罪は重い。つまり、公爵家の者がクリスティナの部屋に行きカギがかかっていたならば私達は何を言われても反論はできない」



「………………」


「さあ、君達はどうする?私は事実を伝えて彼女の両親に謝罪する。彼女の家からの援助金は返却するから給金は何とかなるが退職金は出せない。屋敷も売りに出す事になるだろうからな、全て売っても足りない位だよ……勿論、紹介状も無理だ。何せ本来の女主人を監禁するような使用人だからな」


「そんな……私達は旦那様達の為に」

「メアリー様が……」


「私の両親にも伝えなくてはいけない。朝までに出て行きたい者は出て行くといい、しかし出る前に荷物を確認する。この家の物を持ち出されては困るからな。執事、購入品の帳簿をすぐに持って来い」



「すいません……あの」


 サイラスに上着を借り屋敷を出て行こうとするクリスティナは最後にフランクに挨拶をしにきたのだった。



「クリスティナ……」


 気まずそうな使用人達には見向きもしない2人。


「初めまして、私はクリスティナ様の執事をしておりましたサイラスです。何やら事の重大さに気付き今頃になり皆を集めて何やってるのですか……。例えベッドを共にするつもりがなくとも初夜なのですから妻を1人にするのは失礼です。しかもドアには鍵が掛けてあるし……ドアを破壊した事は謝罪しませんから。そして話は途中からですが、そこから聞かせてもらいました。お困りのようなので外に待たせてある、うちの使用人達にも手伝いをさせます。お宅の執事もお嬢様の監禁に手を貸していたようなので信用できないでしょうから」


「すまないな」

 クリスティナとサイラスに頭を下げるフランク。


「いいえ、最後に貴方が真面目な人で良かったですよ。お嬢様には誠実ではなかったようですがね。あんな女と浮気をしてるのですから」


「…………」


 サイラスはメアリーに怒鳴る。


「メアリー、お前は何をしてるのだ。お嬢様から夫を寝取るとはお前の母親と同じだな。ちなみに、お前は旦那様の子供ではないぞ。それなのにお嬢様はお前を側に置いていたのに図々しい……それも母親似だな。雇い主の初夜にガウン……その下はどうせヒラヒラした夜着でも着てるのだろ、お嬢様をバカにしすぎだ。そして、ここの使用人もクソだな。あんな誰にでも股を開く女の言葉を信じてさ……女主人?品も教養もない女にか?どうせ金か女、男でも紹介してもらってんだろ」


「煩い、お前だって孤児のくせに」


「孤児だったとしても、嘘を言い同情を買い、人の男を寝取り、この屋敷の女主人になろうとする女よりはいい」


「メアリー、いい加減にして。サイラスに謝って。彼は一生懸命に勉強をしてたのよ。貴方に孤児だからと言われる筋合いはないのよ。貴方よりも何倍も屋敷の為に働いているわ。貴方のした事は実家の使用人達に擦り寄り、身体をつなげる事、その方達は皆解雇にしたわ。それに、本日をもって貴方も解雇よ」


 クリスティナはメアリーに言う。


「煩い、クリスティナ……お前のせいで全てが台無し、黙って大人しく部屋にいれば良かったんだよ」

 メアリーはクリスティナを激しく罵った。


 メアリーの態度と口調に驚く使用人達とフランク。


「はははっ……メアリー、私の愛した女性はとんでもない女だったようだ。どうするメアリー?」



「どうとは?」


「この屋敷は……もう終わりだよ。貧しくなった私は不要だろう?」


「フランク……私は貴方を愛して……」

「私への愛は本当なのか、私には……もうわからない。私の君への気持ちもわからないよ」


「嘘じゃない、私はフランクを愛してる。フランクも何度も愛してると言い抱いたでしょ」



 フランクは何も言わずクリスティナの側に行く。


「最後にクリスティナ、本当にすまなかった。私は君に一目惚れしたのは本当だよ。もっと話し合いに行けば良かったのに……そうしたら僕達は……」


「いいえ、今の現状が全てです。もしもは無いのよ……私は貴方を待っていたわ。鍵のかかる部屋から出してもらえるかとね。貴方は来なかった。例えメアリーの言う事を信じていたとしても婚約者としてするべき事はあったのよ。私の貴方への恋はあの部屋の中で消えてしまったわ」


「クリスティナ……」


「あの夜、『月が綺麗ですね』と貴方は言い、私は『今なら手が届きそう』と言いました。しかし……ここでは『私には月は見えません』でした」



「そうか……すまなかった」


 そしてサイラスにこっそり伝える。


― メアリーは私と一緒に罪を償う。二度と君らの前には現れないだろう。一生檻の中に入る可能性が高いからね。



「そうですか」

 

 サイラスもまた、小さな声で話す。


― 私は、お嬢様を連れて帰る、ここには警ら隊を呼ぶから大人しくしておけ。



「最後まですまない、世話になるよ」





***


 その後、クリスティナは両親の待つ家へと戻る。

「パパ……ママ……ただいま」


「クリスティナ、すまなかったな。よく頑張った」

「クリスティナ……可愛い娘のクリスティナ。お帰り」


 その夜は両親に挟まれ眠るクリスティナであった。




 その後一週間が過ぎた。クリスティナとフランクの結婚は取り消しとなり、今回の騒ぎは貴族の中で大きな話題となっていた。


「あら。サイラス久しぶりね」


「色々とな……さてメアリー達がどうなったか旦那様に報告に行くが一緒に行くか?」

「……う〜ん。行く」


 屋敷の廊下を2人で歩く。

「クリスティナはどうなったと思う?」


「愛し合うフランクとメアリーは、家を失い貧しくても2人で生きて行く事を選びました。と言う感じかな」


「クリスティナはフランクの事を好きだったのだろう?」


「ん〜、そうだったわね。でも、あの生活ですっかり好きとかそう言うのはなくてね、どうパパ達に知らせるかばかり気にしていたわ」



 コンコンコン


「入れ。おや、サイラスか。クリスティナも一緒か。報告だな」


「はい」


― 屋敷を出る際にクリスティナの父が念の為にと連絡していた為に警ら隊はクリスティナが屋敷を出る際には到着していた。その際にサイラスは隊長に事情を全て話していた為に使用人は全て逮捕となる。使用人達は騒ぐも高位貴族監禁の罪は重い事だと知らされた為に諦め大人しく連行されたのだったと。主犯格となったのは屋敷の主人であるフランクと計画の実行犯でもあるメアリーも逮捕となる。


 メアリーは騒めくもフランクに宥められ大人しく連行されたと。そして、尋問の際に屋敷でのクリスティナの生活が露わになり、それを聞いたフランクは泣きくずれクリスティナに謝罪をしていたとサイラスの口から報告された。


「そうか……やはり2人は実刑だな」


「パパ……フランクとメアリーは愛しあっていたわ」

「……そうだが愛と罪は別だよ」


「知り合いの看守に聞いた所……尋問にて顔を合わせたメアリーはフランクに対し愛を叫ぶもフランクの方はその愛に応える事はなかったそうだよ」


「そう……」

「クリスティナ?残念かい?もっと2人が最悪な最後を望んでいるのかな?」


 サイラスはクリスティナに尋ねる。


「いいえ……羨ましいなぁとね。だって嘘から始まったとしても愛し愛される人と出会ったのですからね。罪を償ったらまた2人仲良くするのよ」


「こっそり聞いた話だと。フランクはある意味被害者である事も考慮され刑期は短いだろうとね。しかし、メアリーは主犯格だ。クリスティナの監禁に横領と……」


「と?」


「どうやら、他のメイド達にも貴族の男を紹介していたみたいで」


「あら、皆が幸せになるようにしていたのかしら」


「違うよ……相手に選ぶ貴族は既婚者ばかりだったみたい」


「は?」


「つまり、愛人の紹介と売春の斡旋だよ。屋敷に男を呼んでいたのはクリスティナではなくメアリーで、本邸の客室でメイド達とね」


「…………」


「小遣い稼ぎや愛人となる事ができた使用人もいた事からメアリーは皆に慕われていたようだよ。まあ、使用人の女だけではなくてね。男の使用人も未亡人や夫に相手にされない夫人を慰めていたようで……あの屋敷は陰では娼館と呼ばれていたようだよ。つまり、牢からは一生出られない、出たとしてもお婆ちゃんだ」


「……メアリーは娼館を経営していたら大成功を収めていたのでしょうね」


「ははっ、確かにな。さて、可愛い娘よ。今後の事だが、慌てて結婚しなくてもいいぞ。まあ、誰かが婿に来てもらえると嬉しいがな。この際、貴族である必要はないし、平民でもよい。じっくり話し合い信頼できる相手を探しなさい。まあ、言ってくれればパパが誰が紹介しよう」



「パパありがとう。私ね少し旅行をしたいわ。そうね……のんびりね。ずっと屋敷に閉じ込められていたから」


「そうか……旅行か?いいかもしれないな。お金も慰謝料としてかなりの金額をもらったからな。1年間高級な宿に泊まる位は問題ない。まあ、条件はサイラスを連れて行く事だ。彼はクリスティナを守れる程度の腕もある。私の元で学んだから賢く冷静だ。せっかくだから楽しんで来い。クリスティナもサイラスだと安心だろ」


「サイラス……私と一緒に旅行に行かない?」


「しかし、私にも仕事が……」


「雇い主の私が許可しているのだ。もう1人育てたい男も見つけたしな」


「もしやこの前、孤児院に行ったのは……」

「数名いい子を引き取ろうと思ってな。サイラスの様に優秀な男になるかもしれない」


「私は図書室で行き先を決めてくるわ」


「サイラスには少し話があるから、クリスティナは先に行って」

「わかったわ」


***


「サイラス……」

「あの……私は旅行を最後に解雇でしょうか……」


「そんな訳ないだろう。私と妻は……君が息子になってくれたらと前から思っていたのだよ。しかし、今回は向こうの家から頭を下げられてな……諦めていたのだよ」


「旦那様?それって……」


「私の後継となる様に君を育てたつもりだよ。クリスティナにも言ったように、できれば婿がいいと、そして身分は関係ないとね。だから頑張れ。クリスティナの事だから少なくとも1年は旅行するだろうし……1年は長い様で短いからな。それにお前を男と見ているかが問題だがな……」


「ありがとうございます。頑張ります……」


 顔を赤くし答えるサイラスであった。


― 俺がクリスティナと会ったのは俺が10歳、クリスティナは7歳の時だった。教会の慰問の為にやってきたクリスティナの可愛さに思わず心臓がドキリとしたのを今でも鮮明に覚えている。何度か訪問されるうちにクリスティナとは仲良くなった。そして神父からの呼び出しで使用人見習いとして引き取ってくれる家が見つかったと言われた。正直クリスティナと会えなくなる事が寂しかったが、引き取ってくれる家があるだけマシだった。

 

 俺が訪れたのは大きな屋敷だった。酷使される覚悟でドアをノックすると出迎えてくれたのはクリスティナだった。そう、俺はクリスティナの屋敷で働く事になったのだ。俺は頑張った。クリスティナの側にいる為に。俺はクリスティナに恋をしていたが、決して結ばれる事のない恋だ。彼女の幸せの為に自分の人生を注いだ。それから10年クリスティナは17歳となり綺麗な女性へとなった。その後、フランクと恋に落ちたクリスティナ、そして結婚する1年前に男の屋敷へと向かった。


 最初は届いていた手紙が来なくなり心配する両親、訪ねるも病や不在だと断られる事が続く、そして結婚式を迎えた彼女は……サイズの合っていないウェディングドレスを着ていた。両親も俺も驚く、彼女の身に何があったのか……バージンロードをやけにゆっくりと歩く旦那様とクリスティナ、怒りで赤い顔の旦那様から、屋敷では監禁され、メイドとして同行したメアリーはフランクと浮気をし本邸には戻らない生活を半年以上続けていたと教えられた。

 

 旦那様はクリスティナを迎えに行くよう俺に指示するも門前払いだった。門の外で機会を窺うとクリスティナの元にいるべき男は別邸へと向かって行く、腑が煮えくり返る思いだった。その後、ゾロゾロと使用人も別邸へと向かう。これはチャンスと屋敷に忍び込んだ俺はクリスティナを探す。そして見つけたのだ……外からカギが掛けられた部屋にクリスティナは質素なワンピース姿で立っていた。すぐに抱きしめ事情を改めて聞いた。

 お人好しなクリスティナはフランクに出て行く事を伝えると言い、別邸に向かう。別邸で見たのは、フランクが使用人達を集めてクリスティナの対応について説明を求めている姿だった。あの男は何も知らなかったのだと思ったが、使用人のした事は主人の罪である。そしてクリスティナを側に置きながらメアリーと浮気したアイツを許せなかった。その後メアリーは俺を罵り、クリスティナも罵った。

 この屋敷の使用人とフランクの驚く顔が面白かった。何よりもクリスティナは俺を庇い褒めてくれた事がうれしかった。クリスティナを屋敷に連れ帰り俺はメアリーとフランクの罪状など情報を集めた。

 そして俺に来た人生最大のチャンス。クリスティナとの旅行だ。クリスティナの両親は俺の気持ちを知っていたのだ。これから俺は全力でクリスティナを落とす事を決めたのだった。



***


「パパ、ママただいま〜」


「おかえり楽しかったかい?しかし1年を過ぎた位だな、もう少し楽しんでくるかと思ったわ」


「まぁね。お婿さんを連れてきたのよ」

「ほぉ、紹介してもらえるかな?」




 クリスティナの隣から一歩前に出て、挨拶をする男。



「ただいま戻りました。クリスティナの婿候補のサイラスです。彼女を世界一幸せにしますから結婚の許可をいただきたい。他にも報告がありまして」


「そうか、そうだな。まずは旅の様子を聞かせてくれ」


「パパ、ママあのね。私、サイラスとの赤ちゃんが出来たの」



「は?赤ちゃん?サイラス?お前……」

「ははは……先月わかり旅を切り上げて戻りました」


「お前はちょっと私と話をするぞ」

「はい……」




 数ヶ月後には屋敷には可愛い産声が響き渡るのだった。


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― 新着の感想 ―
どうもサイラスにイマイチ好感が持てないなあ 多分旅行中に案の定クリスティナに手を出したからだと思います あと間抜けだったとは言えブランクが根っからのクズではなく、被害者だった一面もあり、本来は真面目で…
いくらメイドから何か言われたからって、夫が愛して結婚した妻と全く会ってないことに疑問を持たないのは無理がある。家の品位ってものがあるんだから、むしろ悪評を耳にすればするほど訪ねてくるでしょう。 妻の側…
ていうか身のうち話って何ぞ。身の上話ならわかるけど
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