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8. こわがりな悪魔の決意




新たな手掛かりを求め、アドニスとフローラはディアブレアの町を訪れた。

王都とは違い、町の市場は活気に満ちていた。

しかし、雪が降っていることはどの地域でも変わらない。


「この辺りは、そこまで異変は起きていないのかな」


「そうね。旅に使うものも色々買っておきましょう」


2人は束の間、純粋に買い物を楽しんだ。

市場を歩いていると、ふと路地裏から若い声が聞こえてきた。

争っているような様子に、アドニスは思わず足を止め、声の方へと向かった。


「お前が祭壇のオーブを盗ったんだろ?」


「ちがう!僕じゃないって…」


「嘘つけよ、ぐうっ…じゃあ、なんで何ともないん、だよ!それが何よりの証拠だろ…!」

少年の一人が突然うずくまり、苦しみ出した。

アドニスは慌てて駆け寄る。


「どうしたの?大丈夫?」


「う…ううう…」


「君たち、この子はなぜ、何があったの?」


「こいつが、町の大事なオーブを盗んだから…!うっ…」

もう1人の少年も、頭を押さえて苦しみ始める。


「ちがう…」

もじもじと立っていた少年だけが、何ともない様子だった。

真っ黒でふわふわした髪の毛から覗く彼の紫の瞳は、悪魔族の特徴を示していた。


「あのオーブがないと、俺ら悪魔族は…力を制御できない…いててて…頭が割れそう…」


「君、体は大丈夫なの?」


「う、うん…」


「アドニス? 何してるの?」

フローラが駆け寄ってきた。


「この子たちの様子が変なんだ。大丈夫な君、診療所か、どこか休ませられる場所はある?」


「う、うん。ついてきて」



「おかえり、ハイマ…?どうした?」


「お父さん、この子たちも、頭痛が」


町の端にある診療所に子供たちを運び、ベッドに寝かせた。

看護師が額の汗を優しく拭く。

診療所を営んでいるのは、ここへの案内をしてくれた男の子、ハイマの父だった。

事情を聞いたアドニスとフローラに、先生は静かに語り出した。


「この町の北には、大きな教会があります。そこの奥には、悪魔族の力の暴走を抑えるために古くから保管されてきた『制御のオーブ』というものがあったのですが…」


「盗んだ、という話を子供たちがしていましたが」


「ええ。数日前の深夜、教会が魔物に襲われ、建物は全壊。オーブも行方不明になってしまった。それからというもの、悪魔族の住民たちが原因不明の頭痛に苦しみ始めたんです」

先生はベッドで安静にしている子供をちらりと見た。


「妻は悪魔族ですが、私はエルフの出でね。子供たちは悪魔族以外の血も継いでいるため、幸いオーブの影響はまだ出ていないということです」


「…うん」

ハイマは静かにうなずいた。


「けれど、ひとつ気になることがあるんです。あのオーブは魔力を制御するためのもので、魔物のような存在が近づくはずがない。なのに、なぜ…」


「そのオーブ、誰かが管理されているのですか?」


「祭壇の強力な封印で、誰の手にも渡らないようにされていました。ですが、それが破られていたんです。…あ、思い出しました」


「何か心当たりが?」


「しばらく前に、あなた方のような旅人がこの町に訪れて、教会でオーブを見せてほしいと神父に頼んでいました。断られていたようですが…確か、若い男の方でした」


アドニスの顔がぴくりと動いた。


「その旅人、この写真の人ではないですか?」

こんな時のために持っていたウィンの写真を見せる。



「ああ、ええ、そうでした。お知り合いの方ですか?」


「…そうです」




そのとき、診療所の扉が激しく開いた。


「お父さん!お母さんが…!お母さんが!」


「リィナ!?」


小さな女の子が泣きそうな声で訴える。


「どうしたんだ?」


「お母さんの様子がおかしくて…」


「なんだって…。すぐに行こう」



「ウアアアアアアッ!」


診察室のベッドに横たわっていた女性が、突然暴れ出す。

テーブルに置かれたカップやランプが床に落ち、派手に割れる音が響いた。


「これは…まずい!」

先生が顔をしかめる。


「旅人さん、鎮静剤を打つのを手伝っていただけませんか!?」


「もちろん」


アドニスと先生で女性を押さえつけ、その隙に看護師が素早く注射を打ち込む。

数秒後、薬が効き始め、女性の身体から力が抜けていった。


「どうしよう…」

先生、深刻な表情で額に手を当てる。


「まだ解決策が見つかっていないのに、患者は増える一方。早くなんとかしないと、大変なことになります」


「…じゃあ」

震える声が、アドニスの背後から聞こえた。


「僕が…オーブを見つけてくる」

ハイマだった。


「お前…町の外は危険なんだぞ。戦えるわけでもないのに、無茶だ」


「でも、このままじゃ…お母さんや町のみんなが…!」


「それでも!」


「なら、僕たちが行きます」


フローラが口を開いた。

「私たちなら、戦闘経験はそれなりにあるし…その旅人の件も、引っかかる点があるので。調べる価値はあると思います」


「本当に…?」


「旅人が本当に僕の知り合いなら、この事件に僕たちも関わらなければいけない。協力させてください」


ハイマがアドニスの方を向いた。

「お願いです、僕も行かせてください!」


「お前、まだそんなことを…!」


「だって!」


「ハイマ君も一緒で大丈夫です。僕たちが守ります。人数は多い方が助かります」


「…!」


先生はしばらく黙っていたが、やがて深くうなずいた。


「…分かりました。何から何まですみません。どうか…この町と、悪魔族を救ってください」




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