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4. ノスアス洞窟の試練




フローラが立ち止まり、洞窟の奥を見つめる。


「ここから先が主の住処。魔物が待ってる…準備はできてる?」


アドニスは少し深呼吸をし、頷く。

「もちろん」



洞窟の奥へ進むと、急に空気が渦を巻き始め、耳元で風の音が強く響く。

アドニスとフローラは顔を見合わせ、警戒を強める。


「…来る」

フローラは静かに言った。


突然、視界が歪み、洞窟の中に強烈な風が巻き起こる。

風上の方を見ると、大きな翼を生やした怪物が鳴き声でこちらを威嚇した。

魔物は、風を使って周囲に竜巻を巻き起こし、洞窟内の岩を次々と飛ばしていく。

その強風で視界が遮られ、足元も不安定になる。


「くっ…!」

アドニスは踏ん張るも、強風に押されて1歩後退する。


「これでは戦いにくい…!」


フローラは風に乗ってきた岩を魔法で撃ち落とし、アドニスを援護する。

「無理しないで、あなたはセイランを探して」


アドニスはフローラの言葉に頷き、周囲を見回すと、右奥に倒れている子供の姿が見えた。

「右奥の子がそうか!?」


「…そう!少しずつ進んで、セイランに近づこう」


フローラは目の前に迫る魔物に立ち向かう。

だが、攻撃の一瞬の隙を見逃し、魔物の鋭い風の刃がセイランに迫る。


「危ない!」

フローラが叫ぶが、間に合わない。


「ダメだ!」

アドニスは子供を守るため、咄嗟に飛び込む。


自分の体が風の刃を受けるのを覚悟で、子供をしっかりと抱きしめる。

風刃はアドニスの背中を直撃し、強烈な痛みが走るが、彼はその場を動かさない。


「アドニス!」


フローラはすぐさま魔法で風を押し返し、アドニスのもとに急ぐ。

アドニスはゆっくりと立ち上がり、魔物を睨みつけた。


「…あいつか」


アドニスは、フローラが声をかけようとしたときにはもう走り始めていた。


「フェオン」


アドニスが呟くと、魔物の周りに大きな竜巻を発生させる。


「中級風魔法…?なんだ、出来るじゃない」


フローラが竜巻の中に火の玉を投げ入れると、火の渦ができ、魔物を包み込んだ。

魔物は強烈な風の刃を放とうとするが、アドニスの火魔法で次々に焼き消していく。


「もう終わりか?」

アドニスは風魔法で火の渦を押し込み、魔物の全身を激しく燃やした。

激しく暴れる魔物に近づき、アドニスは片方の翼の根元に剣を振り下ろした。

「グアアアアアア!!」



「やった!」

バランスを崩した魔物はついに倒れ、風が静まる。

洞窟の中に再び静寂が訪れた。



魔物を倒した後、アドニスは膝をついて息を整える。

背中に痛みが走るが、子供を守れたことにほっとしている。

フローラが駆け寄る様子を見て、アドニスは微笑む。


「大丈夫…?」


「けほ、けほ…心配ないよ、僕がやれることができて良かった」


「…本当に感謝してるわ、ありがとう」


フローラは少し微笑み、アドニスの手を引いて立たせた。


「中級魔法を一発で成功させるなんてすごい成長じゃない。いつの間に?」


「うん…、なんか、夢中になってたらいつの間にか出来ちゃった」




「セイラン!」

アドニスと手を繋いで帰ってきたセイランを見つけると、校長は走って駆け寄った。


「校長先生、ごめんなさい…」


「もう、むやみに洞窟に近づいてはいけないよ。でも、君が無事で良かった」



「…さて、話をしようか」


デウスリゼクトは、特定の場所でしか詠唱できない。

膨大な魔力を集めることができ、標高が高く、屋外などの天井が開いている場所の必要がある。

すべての条件を満たし、村から1番近い場所といえば、10年前に討伐された魔王の住処、魔王城跡地。

しかし、歩きで村から跡地まで行くには少なくとも2週間はかかる。

詠唱場所が魔王城跡地ではなかったとき、戻って作戦を練り直す時間はほとんどないと考えられる。


「そして、これだ」

校長がきらきらと光る何かを取り出した。


「…これは?」

「これは、君の首にかかっているペンダントのくぼみに収められていたもののかけらだ。『星のかけら』とでも呼ぼうか」

「え、このペンダントですか?」


黄色に輝く宝石のようなそれを見て、アドニスは確かに星のようだと感じた。


「なぜそんなものをお持ちに?」


「あれは、確か10年ほど前。魔王討伐が行われた頃に、村の周辺へ落ちてきたものだ。調べたところ、本来はこのペンダントに埋め込まれていたものだが、戦いの中で砕け、各地へ散らばってしまったらしい」

はっきりと覚えてはいないが、魔王討伐にウィンが向かった際、このペンダントを身に着けていたような気がした。


「なぜこのペンダントだと分かったのですか?」


「くぼみの周りにある模様に心当たりがあってな」


「なるほど…」


「これが無ければ詠唱を止めることはできない。優先して集めてくれ」

校長はアドニスに星のかけらを渡した。


「このかけらには、少しだが魔力を感じる。そして、この魔力は魔物を引き付ける特性がある。魔物の動きを観察すればすぐに見つけられるだろう。…逆に聞くが、なぜ君がそれを持っているのかい?」


「昔、祖父から貰ったという記憶はあるのですが、あまり覚えていないんです」


「ふむ…。君がペンダントを持っていること、何か意味があるかもしれんな…」



フローラ、校長とともに村の入り口まで向かう。

「本当にありがとうございました」


「この後はどうするつもりなのかね?」


「一旦村に戻り、情報を整理したあと、王都と協力して詠唱場所の特定を行うつもりです」


「そうか…。そうだ、もうひとつ頼みを聞いてもらえないだろうか」


「なんでしょう?」


「フローラを連れて行ってはくれないだろうか」


「え、私?」

突然の指名に、暇そうにしていたフローラは驚いた。


「これも何かの縁だ。彼女ならば君の力になる」


「僕は構いませんが…」


校長とアドニスが同時にフローラの顔を見る。


「私でよければ、協力いたします」


「ありがとう。ナリア村を出発した後に、最初にこちらへ寄ってくれないだろうか。彼女に旅の準備をさせたい」


「分かりました、ありがとうございます。それではまた伺います」


「ああ、よろしく頼む」



アドニスたちが村を去るのを見届けると、校長はフローラに向き直った。


「校長」


「ああ…。あれは間違いなく『星影の封環』(ほしかげのふうかん)だ」


「最初にペンダントを見たとき、もしかしてとは思っていました。やっぱり…」


「なぜ彼が持っていのるか、何か心当たりは?」


「まだ、情報は何も」


「やはり君には彼の旅に同行してもらうのがいい。星影の封環を、必ず死守するんだ。いいね?」


「はい」


「そして、あれと共に、必ずこの村に戻ってくるのだよ」


「もちろんです」


「最悪、デウスリゼクトは無視でいい」




無事にナリア村に到着したアドニスは、真っ先に村長のもとへ向かった。


「帰ったよ、じいちゃん」


「アドニス!無事だったか!」


アドニスはここまでの出来事を話した。


「そんなことがあったのか…。そうだ、そういえば、王都へ送った手紙の返事がまだ来ていないんだ」


「え、どうして?」


「わしには分からない。協力を仰ごうと思ったが、あちらでも何か問題が発生しているのかもしれない」


普段は穏やかで接触してこない魔物がかなり好戦的な性格に変化していた。

想像していたよりも、雪の影響は強いのかもしれない。


「そこまで遠い距離でもないし、直接王都へ行ってみるのはどうかな」


「そうだな、手紙の件や、そのペンダントの件も、直接話したほうが伝わるだろう。1人で平気か?」


「それに関しては大丈夫、あっちの村の魔法使いの方に協力してもらうことになったから」


「…?そうか、なら良いか。気をつけるんだぞ」



「交流を嫌う魔法使いが、わざわざ行動を共に…か。やはりあのペンダントは…」




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