表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星影の誓いを君と  作者: りん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/21

10. まだ見ぬ空の下へ




戦いが終わり、濃かった霧が少しずつ晴れていく。

アドニスは中央の水晶に慎重に近づいた。


「ハイマ君、これは町のオーブと同じもの?」


ハイマも隣に立ち、じっと観察する。

「…いえ、少し違います。とても似てはいますけど…中に、何か入ってる?」


「え?」

アドニスがもう一度覗き込むと、水晶の奥に、見覚えのある淡い光を放つガラス片のようなものがあった。


「これ、星のかけら…じゃないか?」


地面の魔法陣を観察していたフローラが急に表情を変える。

「ちょっと待って。アドニス、ハイマ、そこどいてくれない?」


「え、ああ、うん」

彼らが下がると、フローラは魔法陣をじっと見つめた。


「やっぱり…これ、分かったわ。ここでやろうとしてたことが」


「ほんとうに?」


「これは模造品を作る魔法陣。おそらく、町にあった本物のオーブの、偽物を作るためのもの」


「じゃあ、町にあったオーブは偽物だったってことか?」

アドニスが顔をしかめる。


「たぶんね。本物を持ち出すために、ここでよく似た模倣品を作って、すり替えたんだと思う」


「そんなことできるんだ…」

ハイマが口を開きかけ、フローラが先に言葉を続けた。


「でも、星のかけらを使ったことで、魔物が引き寄せられた。魔力が足りずに代用したんだと思う。結果的に、教会を守るはずのオーブが、魔物を呼び込むものになってしまった」


「それで、町が襲われたんだ…」

アドニスが唇をかみしめる。



フローラは近くに落ちていた古びた書物の山へと向かう。

さっきの戦いの衝撃で、散らばっていた書物のいくつかに目を通すと、ページの一部に目をとめた。


静かに輝く水晶の前に、フローラがそっと手を伸ばす。


「中にある星のかけら、取り出せそう。少し下がってて」


アドニスとハイマが後ろに下がると、フローラは小さく詠唱を始めた。

彼女の指先から、繊細な魔力が糸のように伸び、水晶をゆっくりと包み込む。


やがて水晶の表面が淡く光り、パリン…という音と共に、中央のかけらだけが空中に浮かび上がった。

フローラはすぐに布で丁寧に包み、それをアドニスに手渡した。


「はい」


「すごい…!」

ハイマが目を見開く。


「でも、オーブはどうする?星のかけらがないと、悪魔族を制御する力がないんだろう?」


「大丈夫。星のかけらほどの力はなくても、私の魔力と祠の残留魔力を利用すれば、短時間だけ機能する制御オーブが作れる。この魔法陣はかなり強力で、良くできているから、活用して何とかなる」


そう言ってフローラは祠の中央、魔法陣が描かれていた床に両手をついた。

その周囲に、彼女が拾い集めた書物や古い素材、砕けた鉱石、残った水晶の欠片、浄化草の葉などを並べる。


「この祠自体が、かつて制御魔法を研究していた場所だったみたい。魔法陣もその遺産の一部。ちゃんと整えれば、力を借りられるはず。こんなに魔力が整っている場所で作られたオーブ、さぞ強力だったのね」


アドニスとハイマは静かに頷き、彼女の背を見守る。

フローラの足元から魔法陣が淡く光を放ち、素材たちが静かに融合していく。

やがて、中央に浮かび上がった光の球が、ゆっくりと形を成していく。


「できた…」


新たなオーブは、本来のそれほど強くはないが、確かな光を宿していた。

それは一時的に悪魔族の力を封じる力を持ち、町を守るには十分だった。


「これなら、町に戻ってすぐ結界に設置すれば、最低でも1カ月は持つはず。デウスリゼクト発動まで、それだけ持てば十分でしょ」


「すごいな…さすが72歳」


「あんた、なかなか生意気になってきたわね…」


ハイマは胸に手を当て、そっと微笑んだ。


「…ありがとう、フローラさん。アドニスさんも」



町に戻った3人は、真っ先に教会跡地へと向かった。

かつて荘厳な雰囲気を放っていた場所は、今は瓦礫と焦げ跡が残るだけだが、それでも空気にはどこか安堵の気配が漂っていた。


フローラはそっと懐から新たな制御オーブを取り出し、結界の中心に置いた。

オーブはゆっくりと光を放ち、かすかな風と共に周囲に魔力が広がっていく。


「…これで、ひとまず安心ね」

アドニスがうなずき、ハイマも小さく息を吐いた。


そのとき、教会の裏手から足音が聞こえた。

ハイマの父だった。


「ハイマ…。ハイマ!生きて帰ってきてくれたのか…ありがとう、本当にありがとう」

ハイマの父はハイマを見つけ、すぐに抱きしめた。

彼の顔は疲れていたが、どこか晴れやかだった。


「お父さん…お母さんは?」

ハイマが静かに問うと、父は小さくうなずいた。


「…帰ろうか」


ハイマの家に戻ると、部屋には花が手向けられていた。

母はベッドに横たわり、安らかな表情で眠っていた。


フローラは静かに目を伏せ、アドニスは何も言わず、ハイマの肩にそっと手を添えたまま、目を閉じた。

誰も言葉を発せず、ただ静かに、祈るような時間が流れた。




「失礼いたします。こちら、騎士団長よりの報告書にございます」


重々しい声とともに差し出された書簡を静かに受け取った。

書面に目を通すと、わずかに眉をひそめ、重いため息をついた。


「…やはりか。行き先は、魔王城の跡地とある」


「いかがなさいますか、陛下。こちらからも部隊を派遣いたしましょうか?」


「いや。騎士団長をもってしても打ち破れぬとなれば、無用な犠牲を増やすだけだ。今は、もう一つの標的を優先すべきであろう」


「かしこまりました。では、騎士団長にはそちらの追跡班と合流するよう、指示を?」


王はしばし沈黙し、再び報告書を凝視した。


「…うむ、それがよかろう」


「はっ」


静寂が落ちた玉座の間に、フォグリス王の低い声が響く。


「あの者たちは、いったい何を成そうとしているのか…」




数日後。

町には少しずつ活気が戻っていた。

市場の通りには人の声が戻り、果物の香りや布の色彩が生き生きとしていた。


「え?ペンダントの欠片?…うーん」


商人に手あたり次第ペンダントを見せて聞き込みを行っていた。

「心当たりがないのなら全然大丈夫です」


「ああ!ギアハムとか行けばあるかもよ?」


「ギアハム?」


「鉱石の採掘とか開発とか活発にやってる町だよ。似たようなもんが発掘されてるかもしれないんじゃないか?」


「行ってみるしかないわね」

「そうだな。ありがとうございます!」


市場を出ようとしたとき、ハイマの声が背後から届いた。


「待ってください!」


振り返ると、旅装を整えたハイマが立っていた。

その目には、かつての迷いはなかった。


「僕も…連れて行ってください!」

「ハイマ…」


フローラがやさしく微笑み、アドニスも静かにうなずいた。

だが、ふとアドニスが言葉を挟む。


「いいのか? 家のことは…」


ハイマは一瞬だけ視線を落としたが、すぐに顔を上げ、まっすぐ答えた。


「父とちゃんと話し合いました。お二人と冒険する中で、家族のために強くなりたいと思いました。身体的にも、精神的にも」

少し震える声に、しかしはっきりとした意志が宿っていた。


「自分の力で誰かを守りたいんです。お二人と旅をして、もっと成長します」


アドニスは一拍置いて、口元に笑みを浮かべた。

「じゃあ一緒に行こう。次は、西のギアハムだ」


3人は再び歩き出す。

新たな旅路が、彼らを待っていた。



「いてっ」


「あ、すみません!」

アドニスが通行人と軽くぶつかり、よろけて後ろの柱に頭をぶつけた。


「…チッ」


「え、あ、すみません…」

思わず舌打ちしたアドニスに驚き、通行人は慌てて小走りでその場を離れていった。


「は?今、舌打ちした?」


「…」

フローラがアドニスの顔をじっと見つめる。

その瞳の色が、黒からじわじわと白く変化していくのが分かった。

表情も、さっきまでの優しい笑顔から、不気味なまでに冷たいものへと変わっていた。

事情を知らないハイマが、きょとんとした顔で辺りを見回している。


アドニスはフローラに視線を戻し、フローラの肩を掴んだ。


「お前さ、『ディーテ』っていう名前の魔法使いは知っているか」


「は」


フローラの顔が一気に強張った。


「今は、978年だよな?俺が死んだ歳は918年、君はもう生まれているはずだ。一回でも名前を聞いたことないか?」


「え、え」


「…は、はっくしょん!けほ、けほ…あれ?」


くしゃみをした拍子に、アドニスは目をぱちぱちと瞬かせた。

気がつけば、彼の瞳は元の黒に戻り、表情もいつもの柔らかなものに変わっていた。


「…答えて、今のは何?本当に、ふざけないでよ」


フローラの声は静かだったが、その瞳は真剣だった。


「…いや」

アドニスは口ごもるように目を伏せ、しばらく黙ったあと、覚悟を決めたように口を開いた。


「…分かった、話す」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ