片方のイヤフォン
「本じゃなくて音楽とは珍しいね。」
「たまにはね。」
「君、今どき有線のイヤホンしてるんだね。」
「それにスマホじゃなくてウォークマン?」
「アナログ人間って言いたいの?」
「おー突っかかるね。まさか。いいんじゃない?そういうのも。」
「……ワイヤレスは落としそうで怖いの。」
「耳小さいから。」
「へー。見せてよ。」
「ん」
「うわ。ホントだ。耳ちっさ!髪の毛で見えないから分かんなかったわ。」
「もう!笑わないでよ。」
「可愛いなって思ってんの。」
「どうだか。」
「信じてよ。」
「君のことまた知ることができて嬉しい。」
「本当だよ。」
「はいはい。」
「流さないでよ。」
「はぁ。私、スマホばっかって嫌なの。」
「唐突に話変えたね。」
「電話とかメールだけの機能だったのに」
「音楽とかゲームとか動画とか支払いとか全部出来るようになってきてる。」
「便利なんだけどね。写真とかも撮っちゃうし。」
「ただ本も紙じゃなくなって、音楽もCDじゃなくなって…」
「私が望んでるのはそうじゃない。」
「モノが増えないから片付けもいらないけど」
「そうじゃないの。」
「好きなモノが全部電子化して形が無くなっちゃう。」
「今までのモノは要らなくなるの?」
「それがなんか寂しい。」
「今日は饒舌だね。」
「ムキになっちゃったわね。ごめんなさい。忘れて。」
「何か嫌なことでもあったの?」
「来たときからいつもと違う顔してたよ。」
「変に突っかかってきたり、ムキになったり。」
「俺は君を傷付けない。君の味方だよ。」
「そんなに強がらなくていいんだよ。」
「やめて。強がってなんか_!」
「何でも吐き出せばいいよ。」
「俺が受け止めてあげる。」
「………今日ちょっと嫌なことがあったの。」
「本には集中出来なかったから好きな歌聴いてた。」
「八つ当たりだったわね。本当にごめんなさい。」
「気にしてないよ。それよりも───」
「君の好きな歌、俺にも聴かせて」
「イヤフォン片方貸してよ。一緒に聴きたい。」
片方のイヤフォン
「君もムキになるんだね。可愛い。」
「あなたも物好きね。」