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第4話 白亜の洋館

 ◇



 洋館の中に足を一歩踏み入れると、そこはまさに異国のような空間だった。


 英国式の壁紙や柱、調度品や装飾品。床に敷き詰められた光沢感のある深紅の絨毯。ところどころに並ぶ硝子窓からは柔らかい木漏れ日が差し込んでおり、窓の外には手入れの行き届いた日本庭園が悠然と広がっている。


「この奥のお部屋でございます」


 こんなにもたくさんの扉や部屋がある広い洋館で、よく迷わずにスタスタと進めるなぁとある種感動すら抱きつつ、杏子は男性使用人の後に続いていく。


(てっきりジローさんが出てくるかと思ってたけど、違うのか……)


 早いところお礼を伝えたかったが、仕方がない。


 さすがにここまでの規模の家柄ともなれば使用人の数も相当いるだろうし、あちこちを駆けずり回り、挙句の果てにわざわざ新吉原まで文を届けに来たことを考えても、彼はやはり単なる書生として雑務を引き受けていただけの存在だったか、あるいはああ見えて外回りの職務を担っている従者や御者だとか。その可能性の方が高いかもしれない。


「こちらでございます」


 余計な詮索をしているうちに、使用人はとある煉瓦色の大きな木製扉の前で歩みを止めていた。


 慌てて立ち止まり、頷きを返す。すると使用人は白い手袋をはめた手で、ギイ、と扉を開けた。


(わ……)


 広々としたホールの奥には、壁一面に広がる薄い硝子張りの窓。その傍らには英国を思わせる重厚な色味の厚手カーテンが束ねられており、過度に主張しすぎない優雅さを添えている。


 また右手中央には黒い大理石に囲まれた暖炉。左手の壁側には数々の調度品や美術品。そしてホールの至る所にはエレガントな装飾が施された三人掛けのアームソファや一人掛けソファ、サイドテーブルなどが配置されていて、テーブルの上にはティーカップや洋菓子、あるいは和洋折衷のもてなし料理などが用意されていた。


(す、すごい……)


 そんな異国情緒あふれる空間の中には、まるでその場の雰囲気には似つかわしくない『和』を強調する狩衣を纏った陰陽師たちが二、三十人ほど、座って歓談をしたり、あるいは立ち話をしたりして主宰者の到着を待っている。


 まだ五家全ては揃っていないようだが、おそらく各家からは現当主だけでなく、その一族の重鎮や後継者、あるいは師弟関係の者など、さまざまな人柄が集まっているのだろう。


 衰退の一途を辿っている星守家には、病に伏せっている当主の父以外、呼び寄せられそうな要員はない。隣に父さえいれば多少は心強かったのだろうけれど、無理はさせられないから仕方がない。


「どうぞ中へお入りください」


「あ、はい」


 ごくりと喉を鳴らし、意を決して中に入る。


「御影様は現在外出先からこちらに向かわれている最中でまもなくお見えになりますゆえ、ご到着まで今しばらくこちらでお寛ぎくださいませ」


 使用人の男性はそれだけ言い添えると、音もなくスッと扉の奥に消えていった。


 その場にポツンと取り残された杏子は、やや気後れしながらも室内を歩き始める。


 皆、久しぶりに顔を合わせているためか、表面上はにこやかに会話をしていてもどこか偽善的で、殺伐とした空気がひしひしと伝わってきていた。


 五行家の者たちは、相生にある家柄同士であればそれなりに良好な関係を築けているが、相剋にある家柄同士だとひどく険悪な関係だったりもする。


 だからこそ、かつて陰陽寮があった時代は星守家が仲裁役として必要不可欠な存在だったそうだが、権威が落ちた今の星守では、とてもじゃないがその重要な役回りは担えそうにない。


「おいおいおい、女がいるぜぇ? 誰だ無能な『星守』を呼んだやつは。せっかく気を回して頼まれてた招待状を破り捨ててやったっつーのに、顔出されちゃこっちの高額給金の取り分がへっちまうじゃねえかよお」


「……」


 そんなことを考えていると、ふと聞き覚えのあるガサツな声がして不快感が全身を駆け抜ける。


 振り返るとそこには、白に朱のアクセントが入った狩衣を纏い、獰猛な緋色の眼差しでこちらを睨みおろす、赤髪の男――五行家のうち、火の行を司る火賀家の長男、火賀政宗(まさむね)が立っていた。


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