ー暗転ー
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大礼服に身を包んだ男は、一人ベランダに佇んだまま、賑やかな会場に戻り豪華な食事を堪能する女の行く末を、しばらく長いことその鋭い双眸で追っていた。
「玲二郎様」
彼の逡巡と視界を遮るよう、フロックコートを着た使用人の男が声を投げる。
彼は振り返り、ひどく不満そうな顔で訴えた。
「ここではその名で呼ぶなと言っただろ。場を弁えてくれ」
「し、失礼いたしました。帝様からのお達しがあり急いでいたもので……」
「親父からの?」
「玲……ゴホン、ジロー様。その呼び方は良くありません。方々で差し支えますよ」
窘めたつもりが逆に窘め返され、やれやれと肩をすくめるジロー。
「わかったから。それで、殿下のお達しとは?」
「一度御所に戻って『裏陰陽寮再建』の進捗報告が欲しいと」
「なんだ、そんなことか。まだ始まったばかりだというのに、ずいぶん急かしてくれるな」
「身に迫る危険に備え、一刻も早く〝五行の宝玉〟の行方が知りたいのではと……」
「ったく死人遣いの荒い……」
ジローは不満そうにこぼしながらも、『五行の宝玉か……』と、心中でつぶやいた。
「(まあ、もう見つかったようなモノだけどな)」
確信に近い答えを今一度自分の中に認めるよう、ジローは会場内で優雅に食を嗜む星守の娘をジッと見つめる。
――鬼と対峙し、彼女が陰陽術を使った時のこと。
彼女の手の甲には、たしかに五玉を結ぶ五芒星の紋様が浮かび上がっていた。
「(かつて帝都が鬼に襲われ、〝五行の宝玉〟が狙われた時――あの娘の母親は、鬼の手から宝玉を守るため、最終手段として、術を施した宝玉を……食べたに違いない)」
そうしてその場を無事にやり過ごし、星守の母はなんとか一時の難をのがれた。
無論、すぐにそのことを報告しなかったのは、鬼による帝都襲撃に『五行家』のうちの誰かが加担していることに気づいており、その犯人を炙り出すまでは黙っていた方が良いと判断したからだ。
「(その後しばらくして星守の母は妊娠……そうして生まれた子どもが星守杏子、彼女のはず)」
おそらく〝五行の宝玉〟は全て、目に見えぬ血と生命と力となって、娘である杏子に受け継がれたのだろう。そう考えれば、今日目の当たりにした、想像を遥かに超える星守の術式や、その他の全ての事象に説明がつく。
「(自分が神刀を託された時に見えたわずかな残像)」
「(どこを探しても見つからなかった〝五行の宝玉〟のありか)」
「(弱まることはあっても、いまだに絶えることがない五行家の力)」
「(それらは全て〝星守杏子〟という強い霊力を持つ娘の存在で、一つの線に繋がる――)」
ずっと靄に包まれていた謎が、ジローの中で一気に晴れたような気持ちになっていた。
「(……さて。その事実をどうやって俺の武器としていくべきか)」
ジローは会場内にいる、使い方次第では有能となる陰陽師集団を見やる。
――火賀家、水月家、木原家、金近家、土方家。
曲者揃いの五行家だ。
彼らの中に、悪き鬼と繋がりを持ち、現帝を亡き者にすることで私腹を肥やそうとしている者がいるはずで――。
「玲……ジロー様?」
「ん? ああ、悪い。すぐに行く。出立の準備を」
「畏まりました」
帝の……父の身と、ひいては国の行く末を静かに案じて。
ジローと呼ばれた男――表向きには死んだとされている帝家次男・御堂玲二郎は、曲者たちが集う会場をそのままに、颯爽と白亜の洋館を後にしたのだった。
【帝都星守陰陽譚 一部/了】
お読みいただきありがとうございました!
本作はコンテスト用に執筆した作品のため、中編にて一旦完結となっております。
現段階では続きの執筆は未定ですが、場合によっては長編化する可能性もございます。
またご縁がありましたら、書くかもしれない本作の続編で、あるいは全く別の新作にて、お付き合いいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします!




