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第9話 ジローと真の目的

 ◇



 ジローの計らいで清子を御者付きの馬車送り出した後、館内に移動した杏子たち。


 いや、今となってはもはや単なる〝ジロー〟ではない。

 

 この『裏陰陽寮』の発起人であり、指揮者であり、主宰者であり、総大将であり、寮長であり、自称謎の華族であり、〝神刀〟の使い手でもある謎多き男『御影ジロウ』――。


「……というわけで、君たちをここに集めたのは他でもない。今なお帝都に蔓延る鬼の討伐や怪異事件の解決に力を貸していただきたい。もちろん、各家の給金保障も行うつもりなので安心して職務に励んでもらって構わない」


(あのジローさんが御影様……嘘でしょ……)


 名の〝ジロー〟を漢字でどう書くかまではわからないが、今、顔を揃えた陰陽師集団の前に威厳のある大礼服姿で現れ、凛然と式辞を行い、陣頭指揮を執ってこれから自分たちを束ねていこうとしていることは、れっきとした事実だ。


(うう……ジローさん、服装からしてもてっきりただの書生さんかと思ってたのに……。彼はいったい、何者なんだろう)


 とはいえ結局、彼の正体は明かされないまま。華族よろしく、平民には到底真似できないような大豪邸に住み、かつ、給金付の『裏陰陽寮』を立ち上げることもでき、さらには神刀を扱えるという立場を考えれば帝家の血筋である可能性は高いが、彼の髪色は灰色と茶色を混ぜ合わせたような、くすんだ『柴色』。


 この国の帝家の血筋であれば、突然変異でも起こらない限り黒目黒髪と考えるのが自然なため、じゃあどういうことなのかと考え出すと、いよいよわからなくなってくる。


(たしか主上にはお二人のご子息がいたはず。うち、ご次男はすでにご病気で亡くなったといわれているから、可能性があるとすればご長男の……)


「――なんだ。人がせっかく渾身の式辞を披露したっていうのに、考え事か?」


 ジローの式辞を尻目に、一人、顎に手を当ててぶつぶつと考えごとに耽っていると、不意に声がして振り返る。


「じっ、ジローさん!」


 いつの間にか主宰者挨拶は終わっていたようだ。会場が歓談で賑わう中、振り返った先には謎に包まれてやまないジローが皮肉めいた笑みを浮かべて立っていた。


「あ、じゃなかった。申し訳ありません御影様。少々考え事を……」


「君にそう呼ばれると据わりが悪いな。ジローのままでいい」


「いや、でもっ」


「『主宰』の言うことは素直に聞いておいた方がいいと思うけど……」


「うっ。わ、わかりました」


「それよりもちょっといいか?」


「え? あ、はい」


 一人ポツンと会場の隅の方にいた杏子はジローに促されるがまま、大きな窓からベランダに出る。目の前には先ほど鬼と対峙した現場である和風庭園が広がり、背後には歓談で賑わう今出たばかりの会場。そんな狭間で、ジローはベランダの手すりに体を預けて、しばし外気を味わった。


「……悪かったな、黙っていて」


 やがてポツンとつぶやかれたその言葉に杏子は苦笑しつつ、正直に漏らす。


「いえ。考えてみれば私が勝手に従者さんだと勘違いしていただけですので」


「それはそうだが、ずいぶんしおらしいね」


「だ、だって……」


 くすくすと笑われ、杏子はむすりと口を尖らせる。


「謎が多すぎる主宰を相手に、迂闊な口はきけません」


「はは、もっともだ。まあ〝目的〟のためにはしかたのないことなんだけどな」


「〝目的〟……?」


 さらりと気になる言葉を呟かれ、首をかしげる。


『裏陰陽寮』再建の目的――それは、単純に帝都に蔓延る悪鬼討伐や怪異事件の解決ではなかったのだろうか?


 疑問を抱く杏子に、ジローは自身の手の内を晒すように告げる。


「表向きは帝都治安維持のための退魔除霊、怪異事件の解決。それに嘘偽りはない。だが、真の目的は別にある」


「どういう……ことですか?」


「現帝が鬼の鬼月(きづき)一門に狙われいる」


「なっ」


 鬼月一門――噂だけは聞いたことある。帝都に蔓延る鬼や怪異を牛耳る鬼の中の鬼。つまり、あやかし側の最高権力者と称して差し支えがない最強最悪の鬼一族のことだ。


 その一門に狙われるということは、もはやその辺に蔓延る怪異に日常生活を脅かされる程度の騒ぎじゃなく、鬼たちは本格的に人々を滅ぼし、悪鬼で支配された世を築き上げようとしているということなのかもしれない。


「それだけじゃない。おそらくだが、その暗殺計画に 五行家のうちの誰か(・・・・・・・・・)が加担し、内側から手引きをしていると俺は睨んでいる」


「そんな……」


「今日の鬼の襲来だってそうだろ? 結界が張られていたはずなのに、鬼が容易く中へ侵略できたということは、やはり中に協力者がいたと考えた方が自然だからね」


「……」


 なんということだろう。杏子は予想だにしていなかった言葉に絶句し、反射的に会場内に視線を向けようとしたが、機転を効かせたジローに遮られた。


 ジローが体の向きを変え、視界を遮断する位置に立ったからだ。


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