忌避
「ねえねえ!昨日商店街で声掛けたのに無視したでしょ!」
「昨日?昨日は真っ直ぐ家に帰ったから、商店街には行ってないよ。」
「うそー!私めっちゃ似てる人に声掛けてたのー?恥ずかしいやつじゃん!」
「知らんけど、僕じゃないよ(笑)」
「じゃあ、ドッペルゲンガーかもね!会ったら死んじゃうんだ〜。」
「はは、そんなの噂だよ(笑)」
朝の何気ない会話が今日も平和な学校生活を物語っていた。
放課後、僕はいつも通りの通学路で帰ろうと思っていたが、今朝の会話で出た僕に似た人物が少し気になった。
「そういえば、新作出てたよなー。」
お気に入りの新刊もある事だし、商店街に寄って帰る事にした。
お目当ての本を買い終え、軽くぶらぶらしながら商店街を歩き、自分に似た人物を探してみた。
「いるわけないか。」
少し残念な気持ちになるが、楽しみにしていた本もあるし、僕は家に向かって歩き出した。
商店街を抜け、人通りの少ない近道を選んでいく。
「あれ?」
数メートル先に同じ学校の学ランを来た学生が急に現れたように感じた。前を向いて歩いていた様な気がしたが、気付かなかった。あまりこの近道で同じ学校のヤツには会わないのもあって少しびっくりした。
違う学年かな。見たことない。いや、なんだろ。見た事はある気がする。背丈も格好も持ってる物も見覚えがある。既視感?妙な胸騒ぎを覚えた。
目の前の彼は曲がり角で左に曲がった。そこの曲がり角を左に曲がると僕の家はすぐそこだ。僕は自然と駆け足で追いかけていた。曲がり角を覗くと、彼の姿はもうなかった。
なんか嫌なモノを見た気がした。朝の何気ない会話が僕の中にしこりを作っていた。
―
父親が帰って来て今日あった出来事を訊かれたので、友達との会話を話した。
「ドッペルゲンガーか!懐かしいなー。昔あったなー。そんな噂。」
「お父さんが若い頃からあるんだね。」
「そうだな。お、そういえばこんな話を聞いた事あるぞ。怖い話。聞く?」
「話したいんだろ。言いなよ。」
父親は怖い話とか好きでたまに話してくるがだいたい怖くない。けど、聞いとくとたまに学校でも怖がりな友達を怖がらせるのに役立つので悪くはない。
「そうか。そうか。聞きたいかー!しゃーないのー!」
僕は嬉々として話し始める父親に少し呆れていた。
―
私は同じ大学生の友達3人と肝試しをする事になった。A子とB君とC君と私の4人。地元で有名な心霊スポットで元々病院だったとか、そうじゃなかったとか…よくわかんないけど。
19時に集合してB君の車で向かう予定。私はA子と待ち合わせ場所のコンビニで買い物していた。
「私本当に一緒でいいの?」
「良いに決まってんじゃん!A子いないと私が寂しいし。」
「でも、ほら私門限あるじゃん。」
A子の親は厳しく、大学生にもなって門限がある。22時までに帰らないと鬼電が来て、電話を耳に当てなくても聞こえるぐらいの声量で怒ってくる。ちなみにその声量を出すのはA子の母親だ。
「いいのいいの。あんまり遅い時間なんかに心霊スポット行って、迷子になるより、早い時間の方がいいしょ。」
「んー、ありがと。」
我ながらよくわからない理屈でA子を宥める。納得するA子もA子な気がするが。
「待ったー?ごめんごめん。」
待ち合わせな時間を2、3分過ぎたあたりでB君とC君がコンビニにやってきた。
「全然!いこいこ!」
コンビニで買い物を終え、私達はB君の車に乗り込んだ。
―
「なんか大した感じじゃなかったな。」
心霊スポットでの探索を終え、B君が震えた声で言った。
「声震えてるぞー(笑)」
「うるせーよ(笑)」
男子がイチャつく様は見ててアオハルを感じる。心霊スポットでは特に異常現象はみられなかった。
「いいから!A子送らないと怒られるよー!」
時刻は21時を過ぎていた。ここからだと10分前ぐらいには着く計算になる。
「そうだな。じゃあ、帰るか。」
帰り道、A子がトイレに行きたいと訴え、心霊スポットから割と近い公衆トイレに行く事になった。
全員で車を降りて男女それぞれトイレに向かう。
「A子先車行くねー。」
用を足し終えた私は先に車へ向かう事にした。車の横でB君とC君は談笑しながら煙草を吸っていた。私も会話に混ざり、A子が戻ってくるのを待った。
「つか遅くね?」
C君がそういうまで気付かずに、頭の悪い会話で爆笑していると時間はあっという間に15分程過ぎていた。
「確かに。え、倒れたりする?」
「わからん。様子見にいこ。」
私達はA子の様子を見に女子トイレへと駆け寄った。
「中見てくるからちょっと待ってて。」
男子2人を外で待たせてA子に声を掛ける。
「A子大丈夫ー?」
返事はない。個室をノックするが反応もない。一つ一つ個室を開け中を確認するがいなかった。
「え?」
プルルルルルル
ポケットの携帯が鳴った。
「わ!びっくりしたー。誰だろ。」
画面を確認するとA子と表記されていた。動揺しながらもとりあえず出てみる。
「もしもし?A子?」
「あれ?みんなどこにいるの?私車の横にいるんだけど。」
「あれ?まじ?」
女子トイレから出て、男子に説明し車に戻る。トイレに駆け寄る時すれ違ったのか。気付かなかった。男子2人も腑に落ちない顔していた。車の横にいるA子を見て、とりあえず私達はホッとする。
「もう、いなくなったかと思ったよー。良かったー。」
私がそういうとA子はふふっと笑うだけだった。
「つか、やべ!門限間に合わないかも!急がねーと!」
私達は急いで車に乗り込みA子の家に向かった。
―
「バイバーイ。」
みんなでA子の家の前で手を振り挨拶をして、車を出した。
「いやー、やっぱりあの母さんこえーわ(笑)」
帰り道で22時を過ぎてしまい、爆ギレ電話がA子と私達を襲った。みんなで必死に謝り事なきを得た。
「とりあえず腹減ったし、マックでもいかね?」
「さんせーい!この時間からのマックは幸せだー。」
プルルルルルル
私の携帯が鳴った。画面にA子とまた表記されていた。何か忘れ物でもしたのだろうと思い、電話に出る。
「なしたー?忘れ物ー?」
「ねぇ!みんなどこにいるの?!」
凄い剣幕にA子は言った。
「え、なになに?今A子の家近くだよ?」
さっき送ったばかりなんだから当たり前じゃんと思いながらもそれは言葉にはしなかった。
「なんで?!私まだあのトイレにいるよ!!」
「え?」
言ってる意味がわからなかった。いや、言葉の意味はわかるけど。文章として理解出来なかった。さっき家まで送っているのだから。
「なになに?喧嘩?」
私とA子の電話の異様な雰囲気にC君が茶々を入れる。
「いや、違くて。A子まだあの心霊スポットの近くのトイレにいるって。」
「は?意味わかんね(笑)さっき送ったじゃん(笑)」
「え(笑)どゆこと?」
2人の反応は至極当然であった。
「A子?さっき家まで送ったの覚えてないの?」
「いいから!とりあえず早く迎えに来てよ!!」
A子は凄く取り乱し状態で、こちらの話を一切聞き入れてくれない。
「とりあえず、A子の家に向かうわ。」
A子の家まで車で戻り、B君が家のチャイムを鳴らす。A子の母親と二言、三言話し終え車に戻る。
「A子は部屋にいるってよ。もう寝てるって。」
やはりA子は家に送っている。けど、寝てるならこの電話相手のA子は?頭がパンクしそうになる。
電話越しのA子は泣きじゃくり迎えに来いと強く懇願していた。切ろうもんなら電話越しに殺されそうなぐらいに。
「ごめんだけど。一回あのトイレまで行ってくれない?」
私は大切な友達がふざけてこんな事してる様には思えなかった。
「おっけ。とりあえず急いで向かおう。」
―
トイレに着くとそこにA子はいた。泣きながら私に抱きつくA子はどう見ても本物だった。男子2人も唖然としていた。
「とりあえず帰ろう。」
「そうだな。」
私達はA子を家まで送る為、例のトイレを後にした。
―
「これ、ドッペルゲンガーじゃね?」
A子を送ってる途中でC君が言う。
「ドッペルゲンガーてあの、会ったら死ぬてやつ?」
「そうそう。だって、今さA子の家には寝てるA子いるじゃん。やばくね?それ。」
「どういうこと?私がもう1人いるの?」
「わかんないけど、さっきA子の家の近くにいるって言ったじゃん。あれ。A子を送ったからなんだよね。」
「え?意味がわかんない。怒るよ?」
当たり前の反応だ。家にもう1人自分がいるなんて、現実的じゃないし、からかわれてると思ってしまうのも無理もない。
「いや、ガチ。」
いつもふざけてるC君のマジトーンにA子も察した様子だった。
「確かさ、ドッペルゲンガーてしばらく経ったら消えるって話なんよ。だからお前の家にしばらく居させてやりなよ。」
「それは良いんだけど、あっちがいなくなったかわかんなくない?」
「そこはほら。門限。あのお母さんからの鬼電でわかる。だって今A子にはかかってきてないじゃん。」
「確かに。今日お母さんから門限過ぎたのに電話来てない。」
「な?じゃあ、とりあえずマック行くべ。」
C君の機転の効いた名案でA子はしばらく私の家に居候する事になった。
―
1週間後、A子の携帯に母親から門限の電話が鳴った。
「はい。今帰ります。」
泣きながら答えるA子に、A子の母親はいつもの声量ではなく、ただただ我が子を心配する優しい母親の声だった。
2人でA子の家に向かった。出迎えてくれたA子の母親に謝った後、A子と一緒にA子の部屋へ上がり、私は驚愕した。
A子の部屋の絨毯に人型の水跡がくっきりとついていたのだった。
―
「どうだ?なかなか怖いだろ?」
自慢げに話し終えた父親の顔にイラっとしたが、なかなか面白い話だった。
「良かったよ。でも、なんか落ちが弱いっていうか。」
「なんだお前、いつもより反応わりぃな(笑)あ。そうそう。後日談というか。1週間A子は、友達の女の子の家にいたんだってよ。その間も学校はあったらしいんよ。でな、サークルの書記かなんかやってたんだって。そのいなかった1週間分どうなってるか確認したら、ちゃんとA子の名前で記載してあったんだと。でも、全く字体が違ったらしい。」
「ドッペルゲンガーが代わりに学校行ってたてこと?」
「多分な?で、その1週間の自分の様子を周りの人達に訊いたんだってよ。そしたらみんな、元気なかったよねて、同じ答えがきたんだって。」
「へぇー。本物より覇気ない感じなんだ。」
「でよ、その友達が1番何が怖いって。部屋の水跡見た時のA子の顔だってよ。」
「顔?」
「笑ってたんだと。」
「おい。そこまでちゃんと言えよ。」
「わりぃ、わりぃ。忘れてた(笑)」
「ちょっとー!部屋ビチャビチャじゃない!何したのー?」
2階の僕の部屋から母親の怒鳴る声がした。
「あーあ。お前なに…え?
なんで笑ってんの?」
『ナんデもないヨ。トウさン。』
この話は僕の友人が、大学の時に出会った同級生から聞いた話で、嘘か本当かはわかりません。ただ僕はこの話を初めて聞いた時、本当に本物が残ったのかわからないとこが怖いなって思いました。心霊スポットに行きたい…。