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エグ目の描写注意です。
「[聖矢]!」
最初に動いたのは“修道者”、用意していた聖術を竜骨の骸骨に放つ。
聖力の矢を放つこの聖術は、ありふれた術ではあるが死霊系のモンスターには特効があり、高位のモンスターにも少なくないダメージを与えることができる。
パシュンッ
…筈であった。
「嘘…聖術でダメージが無いの?」
弾けた[聖矢]に、術を放った“修道者”は唖然とする。
非実体の矢ではあるが[聖矢]は物理攻撃力も持つため、仮に聖力が無効であってもダメージ0という結果は想像していなかったのだ。
「骨野郎はこれでも食らいな![大地割り]!」
次に動いたのは“重戦士”、[聖矢]が当たっても棒立ちの骸骨に、巨大な戦鎚が振り下ろされる。
ドゴオォンッ!
轟音が響き焼けた大地が陥没し、土埃が舞う。
「流石リーダー!頼りになるぅ!」
土煙の中から戻ってきた“重戦士”を、“騎士”が褒め称える。
死霊モンスターは聖術に弱いが、スケルトンは打撃にも弱く、大地が陥没する程の打撃が直撃した骸骨は、竜骨と言えども粉々になったことだろう。
ユラリ…
しかし薄れる土煙の中で、何らかの影が動く。
「!
まだっ、[剛射]!」
影を認めた“斥候”が、その細腕からはあり得ない威力の聖別された矢を放つ。
ボッ!
放たれた矢は、土煙と影を吹き飛ばした。
土煙がはれて視界が良くなったことで、“斥候”以外のメンバーも、その存在を認めた。
「まだ足りないか![鎧貫き]!」
「しつこいって![鎧斬り]!」
矢に吹き飛ばされ、立ち上がろうとする骸骨に、“騎士”と“熟練槍使い”の鋼の板すら切り裂き、貫くスキルが叩き込まれる。
ガギイッ!
「駄目か!」
「硬すぎでしょ!?」
しかしそれらのスキルは、骸骨に薄らとした傷をつけるに留まった。
「撤退!○○はアレを凍らせな!」
“魔導士”に足止めと、パーティー全体に撤退を指示する“重戦士”。
「…[凍結…」
指示を受けた“魔導士”の少女が、魔術の発動をしようとした時、今まで攻撃を受けても棒立ちしていた骸骨が動く。
トッ
骸骨は“魔導士”の少女に一瞬で肉薄し、いつの間にか持っていた乳白色の剣を振るう。
術は不発となり、“魔導士”の少女はその場に崩れ落ちる。
「何寝てるのよ!?」
逃走のため背を向けていた“騎士”には、“魔導士”が突然倒れたようにしか見えなかった。
それも無理は無いが、もし誰かが“魔導士”を助け起こそうと近付けば、彼女の首に一筋の赤い線が入っていることに、気がついたのであろうか?
それは永遠にわからないままとなった。
「今は逃げろ!」
骸骨が迫り、“熟練槍使い”が“騎士”に発破をかける。
「あっ!?」
ドサッ
再び逃走を開始しようとした“騎士”が転倒する。
「嘘でしょ!?嘘うそウソ…」
立ち上がろうとした“騎士”であったが、足に力が入らずパニックに陥る。
「どうした!?早く立て!」
急かす“熟練槍使い”に、パニックになった“騎士”は助けを求める。
「足が動かないの!助けて!」
「…今行く!」
少し躊躇うも“熟練槍使い”は“騎士”を助けるべく戻る。
「早く!嫌、いやぁ…」
這いずる“騎士”に泣きがはいる。
“熟練槍使い”が助けに来る間にも、身体から力がどんどん抜けていくことに恐怖しているのだ。
「さあ、掴んで!」
そう言って差し出された“熟練槍使い”の手を、“騎士”は掴むことが出来なかった。
「イ…ャァ………。」
「うっ…!」
何故なら、助けにきた“熟練槍使い”の目の前で、“騎士”は干からびてしまったからである。
干からびた“騎士”の身体は、着用していた鎧の重さでバラバラになるのであった。
ザリッ
“騎士”の死に様に、腰の抜けた“熟練槍使い”の前に、骸骨が立ち見下ろす。
「止めてくれ、頼む…。」
命乞いを始める“熟練槍使い”であったが、モンスターに人間の言葉が通じるわけは無い。
ボワァッ
骸骨の持つ剣から炎が立ち上る。
「何でもする、命だけは…。」
もっとも言葉が通じたところで、先に攻撃をしたのは彼女達であった。
ズバッ!
「ア“ア“ア“ァ“ァ“ッ!」
燃え盛る剣に斬られた“熟練槍使い”は、自らの身体を燃やす炎に、この世のものとは思えない悲鳴を上げる。
骸骨はそれを、ただ微動だにせず瞳の無い目で眺めていた。
「ァ“ァ、ァ…。」
やがて“熟練槍使い”は悲鳴を上げなくなり、炎の勢いも弱くなり、やがて消える。
トッ
骸骨は残りの者の追跡を再開する。
骸骨が去ったその場所には、かろうじて人形ということが分かる焦げ跡が残されていた。
…………。
「ヤバい、ヤバい、ヤバい。」
先ほどから“斥候”はそれを繰り返し、逃走していた。
前を走る“重戦士”以外のメンバーの気配は無い。
「皆死んだ、殺された。」
自分の尊敬する“重戦士”が集めたメンバーの死に、“斥候”の正気は崩壊寸前であった。
スパッ
「…ッ!」
しかし幸か不幸か、“斥候”の正気は保たれた。
左手の小指が落ちる。
激痛に“斥候”は歯を食い縛り、走り続ける。
スパスパッ
「フッ!うぅっ…!」
今度は両手の指が、合わせて数本落ちる。
連続して与えられた激痛に、呻き声を上げる“斥候”。
骸骨の次のターゲットは、完全に彼女に固定されているようだ。
スパパパッ
「うあ“っ!」
残る全ての指、両手首、左肘、左肩という順に切り刻まれた“斥候”は、遂に走れなくなる。
しかし“斥候”は血が流れる左肩を、手首の無い右腕で押さえ、歩みを止めず一歩一歩前進する。
スパンッ
「あうっ!」
ドサリ…
足首の腱を斬られた“斥候”は、無理矢理歩みを止められる。
「飽きた?」
こうなって姿を見せた骸骨に、“斥候”は無駄だと思いながら問う。
尊敬していた“重戦士”の姿は無い。
「ウラムカ?」
返答があったことに目を見開く“斥候”。
しかしすぐに目を伏せ答える。
「どうでもいい。」
強がりでもない、“斥候”の本心からの言葉が溢される。
“重戦士”と幼い頃からの付き合いであった“斥候”は、いつからか自身の意思が薄弱になってしまっていたのだ。
「ナラシネ。」
ヒュンッ!
そう言って骸骨は剣を振り、風を切る音が一つに重なる。
パッ
数瞬後、“斥候”は血煙と無数の肉片へと姿を変え、焦げた大地に還っていったのであった。
…………………。
「くそがっ!」
無事に森の中に逃げ込めた“重戦士”は、自らの運のなさに悪態をつくことしか出来ない。
「モンスターまで私を嘲笑いやがって…!」
彼女の人生設計が崩れ去ったのは“戦士”の職業を得てからであった。
そのせいで村では「オーガ女」とからかわれ、初恋の相手にも振られた。
失意のどん底に落ちた彼女は、同じく戦闘系職業を得た少女と、冒険者になるために街へと出ていった。
自分を邪険にした男どもを見返して、二度と自分に邪険な態度をとらせないように。
だからパーティーメンバーは自分と同じかそれ以下の年の少女でかためた。
しかし、自分が育てたパーティーは壊滅、“重戦士”だけが残る結果となった。
ガサッ
「来るなら来い!やってやる!」
背後の草むらに怒鳴る“重戦士”は戦鎚を構えて臨戦態勢をとる。
「待って!私です!」
草むらから出てきたのは、最近加入させた“修道者”の少女であった。
「…脅かすなよ。他は?」
臨戦態勢をとき、“修道者”に問う“重戦士”。
「すみません。逃げるのに夢中で…。」
「分かった。もういい。」
まず謝り、尻萎みにわけを話す“修道者”を遮る“重戦士”。
「…またやり直しかぁ…。」
前の街では追い出され、ここではパーティーが壊滅。
話が広まれば加入者は居なくなるだろう。
「さて、帰るよ。」
まだ息の荒い“修道者”に声をかけ、“重戦士”は歩き出そうとした。
ミシッ…
「痛っ!」
「どうしました!?」
足の指が潰れるような痛みに踞る“重戦士”にかけ寄る“修道者”。
ミシッ…ミシッ…
「ぐああぁっ!」
潰れるような痛みは更に拡がる。
「っ![治癒]!」
潰れるような痛みは当然であった。
何故なら本当に爪先が潰れていたのだから。
それを見た“修道者”は治療の聖術を行使する。
ミシミシミシッ…
「あああっ!」
「何で!?[治癒]![治癒]!」
しかし指先も潰れ始め悲鳴を上げる“重戦士”に、聖術を繰り返し行使する“修道者”。
ミシミシッ…、ミシミシッ…
治療される端から、それ以上の速度で潰れていく“重戦士”。
「[治癒]!」
「止め“っ!止めろ“っ!」
“修道者”に止めるように訴える“重戦士”だが、謎の攻撃をしているモノに対する言葉だと勘違いした“修道者”は術の行使を止めない。
ミシッ…ミシッ…グシャッ!
「み“っ!」
そして身体が完全に潰れてしまうまで生かされた“重戦士”は、原形の分からない肉塊となったのだった。
…………………。
…………。
…。
この後一人生還した“修道者”の少女の報告によって、勇者パーティーが仮称「竜骨骸骨」の討伐に乗り出したが、現場には死んでから数百年が経つと思われる、朽ちた竜骨しか存在していなかったという。
怪事件となった本件であったが、その約半年後から、各地の凶悪な名付きモンスターが次々と男女二人のパーティーに討伐されるようになると、次第に忘れられていったのであった。
そのパーティーは謎が多かったが、その功績から勇者パーティーの話と共に、長く語り継がれる事となった。
曰く、男は全身鎧の魔剣士、女は首にスカーフを巻いた魔導士。
曰く、男女は恋仲または夫婦であり、生命共有の指輪をしていた。
曰く、そのパーティーは数百年活動し、ある日装備を遺して消えた。
良くある誇張された英雄の物語。
真実を知るのは当人達だけである。
読んでいただきありがとうございました。
これにて完結となります。
しかしタグにあるように「お試し」の連載なので、評価が良かったり、要望があれば、もしかしたら長編化するかもしれません。
また、面白かったという方がおりましたら、ぜひ作者の別作品も読んで頂けると嬉しく思います。
そうでない方も、よろしければ悪い点の指摘でもいいので、アドバイスをして頂けると参考になります。
長々とした後書きになりましたが、最後にテンプレートで締めさせていただきます。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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