→Yes/No
「[聖障壁]!」
“聖職者”のスキルが、ファイアドレイクの火炎ブレスから“勇者”を守る。
ボワァッ!
無傷の“勇者”が、炎の中からファイアドレイクの正面に飛び出す。
ブレスを吐いていたファイアドレイクは反応出来ていない。
「これでお終いだっ!
「超袈裟斬り・極」!」
“勇者”のみが使用可能な、剣士スキルの超上位スキルにより、ファイアドレイクの首は、胴体から斬り離されたのであった。
…………………。
…………。
…。
ギィ…
ギルドのスイングドアが開かれる音に、“魔導士”の少女は、素早く反応する。
勇者パーティーがファイアドレイク討伐に向かってから少女は依頼に向かわず、勇者の帰還を待っていた。
「…普通“勇者”に遺骨の回収とか依頼するかね。」
ギルドに入って来るのが“勇者”でない度に、肩を落とす少女の様子を見ていた“重戦士”は、うんざりしたように呟いた。
「時間、無駄?」
“斥候”が首をかしげる。
依頼中に死亡した冒険者のほとんどは、埋葬すらされることは滅多にないのだ。
「あとお金もね。」
“騎士”も「勿体無い」と、相槌をうつ。
「仲間が死んだんだ、彼女は幼なじみだったらしいからな。」
“熟練槍使い”が擁護のようなことを言う。
「…役立たずだとしても。」
結局は“魔導士”の少女以外は、青年の死に何とも思っていないらしかった。
…………。
…。
ギィ…
「ファイアドレイクの討伐完了しました。」
しばらくすると勇者パーティーが帰還する。
少女はマナーが悪いことを自覚しながらも、カウンターに向かう“勇者”に話かける。
「あのっ!」
話かけてきた「遺骨の回収」を依頼した少女に“勇者”は、ギルドへの報告をパーティー仲間に頼み、少女に向き合う。
「君の言っていた遺骨だが、彼が死亡したと思わしき場所はあったけど、骨らしい物は一欠片も発見出来なかったんだ。」
“重戦士”のパーティーがファイアドレイク討伐に失敗して帰還までに数日、さらに“勇者”パーティーが現地に向かうのに数日。
そしてスライムなどのモンスターは、生物の死骸を分解する。
人骨とて例外ではない。
「……そうですか。
彼を探して下さりありがとうございました。
…報酬はそのままお持ち下さい、では。」
“魔導士”の少女は“勇者”に報酬の入った革袋を押し付け、“重戦士”のパーティーメンバーと連れ立ってギルドを後にしたのだった。
…………………………。
…………………。
…………。
…。
それから一年後“重戦士”率いる少女六人パーティーは、辺境都市を拠点に活動していた。
というのも少女たち五人のパーティーは、元々活動していた街で悪評が広まり過ぎ、活動に支障をきたしてしまったのである。
悪評のほとんどが“重戦士”の横暴によるものであったが、その他にはパーティーメンバーであった青年の不当な扱いも多分に含まれていた。
青年はただでさえ貴重な“属性付与術師”だった。
更にユニークスキルによる保険が無料ということもあって、重宝していた冒険者は多かったのだ。
勇者が訪れた理由も、青年の噂を聞いてパーティーへのスカウトのためであった。
横暴な冒険者も、依頼中に死亡する事も「よくあること」であったが、それだけ青年の死は大きな出来事であったのだ。
「「山火事の調査依頼」、ですか?」
“重戦士”の示す依頼を見て、この都市で加入した“修道者”の少女が読み上げる。
読み上げる言葉が疑問形になるのも無理なからぬ事であった。
というのも、少女が加入したときからこのパーティーは、討伐以外の依頼を受けることがなかったのだ。
「そ、“魔導士”のレベルが上がらなくなったから。」
“重戦士”の言う通り、街を出た時は“魔導士”のレベルが一番高かったが、今では平均して5レベル程低くなっていた。
「調査だけど報酬がそこそこ良いし。
わたしは賛成。」
“騎士”は受注に乗り気だ。
「でも最近は…。」
乗り気とは言えない反応の“修道者”。
彼女の言う通り、最近この地ではモンスター同士の縄張り争いらしき騒ぎが頻発していた。
「今は無理する時期ではないと思う。」
街を追われて懲りたらしい“熟練槍使い”も反対する。
依頼書でも「山火事の原因はモンスターと推測される」と注釈が書かれ、強力なモンスターとの遭遇の可能性があると示されている。
「だから私がいる。」
“斥候”は無い胸を張り、危なくなったら逃げれば良いと言い、賛成。
「決まりだね。
なら次は“運び屋”を雇うかについて……」
話し合いは「依頼受注」として、その後も続いたのであった。
…………………。
…………。
…。
「うわぁ…これはまた…。」
話の結果雇うことになった“運び屋”の少女が、広がる景色に言葉を失う。
「一体何があったのでしょうか…?」
人類の入ることができない「魔の大森林」にぽっかりと空いた穴のような焼け跡を見て“修道者”は恐れを隠せない。
「焼け跡が分かれてる、魔法の仕業。」
“斥候”が言うように、焼けた場所とそうでない場所の境界がくっきりとしている。
このような焼け方は、自然な火災ではあり得ないとされている。
「じゃあ調査開始だ。」
“重戦士”の言葉で、一行は焼け跡に足を踏み入れた。
…………………。
…………。
…。
「…何もない。」
調査開始から十数分、“斥候”が言う。
調査対象の焼け跡には「何もない」との言葉通り、焼け焦げた土しか残されていなかった。
「あっし、ヤな予感がしてきました…。」
既に逃げ出したそうな“運び屋”であったが、信用に関わるので仕方なしについて行く。
…………。
三十分程焼け跡に入り込んだあたりに、ソレはあった。
「やば、お宝発見!」
一行が発見したのはドラゴンの骨。
一部でも持ち帰れば大金が手に入るであろうソレが、何と全身分である。
「おそらくコイツのせい。」
“斥候”は、この焼け跡は火竜によるものと断定した。
「そうか、依頼は達成。
戦利品の回収をするぞ。」
大金入手のチャンスに違和感を感じられなかった“重戦士”は、竜骨の回収を指示する。
「あ~…。
帰っていいですかい?」
遂に“運び屋”はパーティーからの離脱を打診する。
「何を…、まぁいい。
価値が高いものを教えろ、報酬は無しで。」
相変わらずな物言いの“重戦士”だが、“運び屋”はあっさり答えて去ってしまった。
「さて、まずは牙から…」
カタカタカタ…
「ちっ!
…戦闘準備!」
ドラゴンの骨で価値が高いのは扱い易さから、そのアギトに並ぶ牙とされている。
それを回収しようと一行が竜の骸に近付くと、竜の左手の骨が動き出す。
「アンデット化…?
でも邪気がない?」
骨が動き出すとなれば、死霊モンスターの「スケルトン」を思い浮かべる“修道者”。
「スケルトンならコレで砕いてやるよ!」
そう吼える“重戦士”の手には、両手持ちの戦斧から変更され、同じく両手持ち武器である戦鎚が握られている。
カタカタカタン…
そうこうしている内に一行の敵が形造られた。
「はぁ?スケルトン?」
警戒して損したといった感じで剣を抜く“騎士”。
「人形?何で?」
観察眼に優れていても全く理由が分からない“斥候”は矢筒に聖水を充填する。
「ドラゴンに殺されて尚、現世に執着を遺していたか…。」
目の前の敵を憐れみ、冥界に送るべく魔銀の槍を構える“熟練槍使い”。
「…さしづめ、竜骨骸骨といったところでしょうか?」
疑問を振り払い、聖術の用意をする“修道者”。
己以外のパーティーメンバーが少なからず臨戦態勢をとる中、“魔導士”の少女は唖然として突っ立ったままであった。
「ごめんなさい。
…迎えに来てくれたのね。」
少女の呟いた言葉は、パーティーメンバーに聞き取られることはなかった。
読んでいただきありがとうございます。
作者の別作品もよろしくお願いします。