continue?
パーティー仲間に不遇な扱いを受けながらも、青年はようやく二次職である“属性付与術師”への転職が叶った。
“属性付与術師”の一番の特徴は何と言っても火や水といった属性を付与出来る事にあるが、他にも既存の付与の強化版に、〈遠隔付与〉や〈二重付与〉などのスキルの習得も可能になる。
「あんたのせいで今日は休みになったんだから、明日の依頼の報酬の分配はナシね。」
自身や他のメンバーの時はそんな事をしなかったリーダーの少女は、相変わらず青年に当たりが強い。
「役立たず、少しは使えるようになった?」
“斥候”の少女も追従する。
このパーティーはレベルか上がり、より稼げるようになってから、付与を必要としない上質な装備に身をかためていた。
「でもまたレベル上げでしょ?」
面倒臭いという内心を隠しもしない“騎士”の少女。
「“魔導士”の○○はもうレベル15なのに…。」
青年と少女四人とのレベル差は10前後。
いくら経験値効率が悪いとしても、同時に加入した少女と比べて、呆れたように言う“熟練槍使い”の少女。
「…………。」
話に挙がった当の“魔導士”の少女は、青年に視線すら向けない。
メンバー全員が二次職となったこのパーティーは、更に難易度の高い依頼をこなしていくこととなる。
…………………。
…………。
…。
一ヶ月後のある依頼にて。
「あ、エンチャ切れた。
○○エンチャして、早く!」
一段階上がった難易度に、久しぶりに付与を利用した“重戦士”の少女が戦闘中に、青年に付与を要求する。
「なら一旦退いてくれ!」
戦闘のど真ん中で付与など自殺行為も甚だしい。
「〈遠隔付与〉くらい習得しとけよ!」
何とか依頼を達成したが、青年への報酬はなかった。
…………………。
…………。
…。
青年が“属性付与術師”となって三ヶ月後。
「剣に[鋭利]、盾に[頑強]を付与しといて。」
“騎士”の少女が青年に付与を頼む。
「剣盾は一対で一つしか付与出来ないよ。」
この世界では剣盾や双剣、弓矢などの武器は一対とカウントされ、付与数もそれに伴うのは常識であった。
「えぇ…〈二重付与〉まだ覚えてなかったの。」
結局、“騎士”の少女は、青年を散々なじった後、[頑強]を付与していった。
…………………。
…………。
…。
青年が二次職となって半年が経った頃、パーティーに転機が訪れる。
「今日の依頼はこれね。」
そう言って、リーダーの少女がボードから剥がした依頼表には「ファイアリザード一頭の討伐」と書かれていた。
ファイアリザード
いずれファイアドラゴンに至るモンスター。
人五人分になる巨体で火炎を吐き、硬い鱗を持つことから討伐は二次職かつレベル20以上の六人以上のパーティーが推奨。
「少し、きびしい?」
パーティーの平均レベルは推奨されるレベルに後一歩といったところ。
“斥候”の少女が難色を示す。
「大丈夫でしょ。」
そう言う“騎士”の少女の根拠は、もうすぐレベル30になろうかという“魔導士”の少女であった。
「先に魔法で様子を見れるしな。」
万が一魔法が通用しなかったとしても、安全に撤退できるという“熟練槍使い”の少女。
発言権のあるメンバーの過半数が賛成した事で、パーティーは早速、ファイアリザードが居るという火山へと向かったのであった。
…………………………。
…………………。
…………。
…。
ファイアリザードが居るという火山に到着した一行であったが、そこで思わぬ事態に遭遇する。
「参った、ファイアドレイク。」
“斥候”の少女が発見したのは、ファイアリザードの上位種であるファイアドレイクであった。
「ここに来たのは進化の為か。」
火山には火属性の魔力が充ちる。
“熟練槍使い”の少女の推測は当たりだろう。
「でもチャンスだよ?」
発見したファイアドレイクは、拓けた場所で熟睡している。
“騎士”の少女の言う通り、工夫次第では討伐が可能であった。
「“属性付与術師”エンチャ、[鋭利]と[水]。
“魔導士”は[氷槍]の用意。」
リーダーである“重戦士”の少女は、青年に自らの得物である両手斧を突き付け、指示を出す。
寝ているところに、弱点属性が付与された武器での一撃必殺を狙うようだ。
氷槍は保険といったところだろう。
「…[頑強]と[土]の方がいいと思う。」
付与に関しては譲れない青年は、“重戦士”に意見する。
ファイアドレイクの鱗の硬さは、ファイアリザード以上。
鋭さで斬るより頑丈さで叩いた方が有効であると、青年は判断した。
「リーダーの言う事聞く。」
しかし、そう言う“斥候”と、三人の少女の責めるような視線に、青年は折れてしまった。
「付与[鋭利]、付与[水]。」
シュウゥ…
斧の刃が鋭さを増し、薄く水の膜に包まれ蒸気を上げる。
「お前報酬ナシね。」
そう言い残すと、“重戦士”は飛び出しスキルを発動する。
「[パワースラッシュ]ッ!」
“重戦士”の怪力により両手斧は勢い良く振るわる。
そして…
パキイィッ!
眠るファイアドレイクの首筋に一直線に当たった両手斧は、その刃を大きく欠けさせたのであった。
鋭利付与により薄くなった刃と、火山の熱で温まった斧が、水付与での急冷による金属疲労で脆くなっていた事が原因だ。
パチ
ファイアドレイクが目を覚ます。
「撤退!急げ!」
“重戦士”が叫び、三人の少女は素早く逃走に移る。
「グルルッ…!」
眠りを妨げられたファイアドレイクは、口から炎をちらつかせ、自身に攻撃した冒険者達に威嚇の声をあげる。
「グオッ!」
ファイアドレイクが攻撃の標的に定めたのは、アイスランスの準備をしていた“魔導士”の少女であった。
ボオッ!
人など一瞬で骨にしてしまうファイアブレスが、少女に迫る。
回避は間に合わない。
「[防護]ッ!」
少女は自身に防護魔法をかけるが、それだけでは防御が足りないことは明らかであった。
ダッ!
少女の前に、青年が割り込む。
「付与[防御]ッ!」
青年は防御力上昇の付与を少女に施し、炎に呑まれ見えなくなる。
オォォ…。
ブレスが切れた後には無傷で佇む少女と、真新しい白骨が遺されていた。
「何突っ立ってるの!?
逃げるよ!」
少女は“重戦士”に腕を引かれ、ただ足を動かす事しかできなかった。
フスッ!
ファイアドレイクは、冒険者を撃退したことで満足そうに鼻を鳴らす。
しかしまた冒険者が来ては堪らない。
ファイアドレイクもまたその巨体を揺らして、元寝床から去っていくのであった。
〈もう一度〉
…………………。
…………。
…。
バンッ!
受付カウンターを“重戦士”が叩いた音が、ギルド内に響く。
「ちょっと!
ファイアドレイクなんて聞いてない!
おかげで危なかったんだけど!?」
“重戦士”は、依頼より難易度の高い魔物であった事を受付嬢に抗議している。
「依頼の内容に手違いがあったのは謝罪します。
しかし、ギルド加入時に負傷等は自己責任と説明がなされています。」
ギルドはあくまで依頼の仲介組織であり、依頼を受注した時点で責任は冒険者自身に発生する。
「じゃあ依頼者を連れて来なさいよ!」
ギルドが出来る前は、冒険者と依頼者が直接やり取りしていた。
しかし、報酬の未払いや吊り上げ等のトラブルが多発していたため、ギルドが出来た経緯がある。
「ではギルド立ち会いで面会出来ないか打診しておきますね。」
ギルドが出来ることといえばそれくらいであり、強制力はないので、断られてしまえばそこで話は終わりだ。
「だ、か、ら!
今すぐ呼びつけろって言ってんの!」
“重戦士”もその事が分かっているため、引き下がらない。
「失礼、ちょっと良いかな?」
受付嬢に噛み付く“重戦士”に若い男冒険者が話かける。
「何よっ!
て、あんた達は!?」
話に割り込む不躾な男に、敵意満載に返す“重戦士”であったが、振り返ったとたんに言葉を失う。
“重戦士”に話かけた男は冒険者のみならず、一般でも有名であった。
その男の職業は“勇者”。
この世界で最も強いと讃えられる一行がそこにいた。
キタ---ッ!!
読んでいただきありがとうございます。
別作品もよろしくお願いします。