新人冒険者
1フリス=1円の感覚です。
ステータス、RPGの初期値っぽくなっていますかね?
ギイッ…
とある街の冒険者ギルドのスイングドアの蝶番が軋んだ音を上げる。
ギルド内に併設された酒場にいた冒険者たちは、反射的に出入り口に視線を向ける。
入ってきたのは旅装の若い男女二人組。
(新人か。)
そう察した冒険者たちは、各々食事や談話に戻っていく。
二人組は少しギルド内を見回した後、ギルドのカウンターに向かう。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。
依頼ですか?」
受付嬢が一般人用のマニュアル通りの文句を言う。
「冒険者登録をお願いします。」
二人組の男性が受付嬢に答える。
(やっぱり。)
受付嬢とやり取りを観察していた冒険者は、全員が同じ事を思ったのであった。
「新規で二名ですね。
一名につき3万フリスになります。」
淀み無く登録手続きを開始する受付嬢。
毎年この時期は成人した若人が多いため、慣れたものである。
青年は腰の革袋から銀貨を6枚支払う。
(あら?………あらあら。)
3万フリスでもそこそこの金額である。
ごく普通に少女の分まで支払う青年を見て、受付嬢はこの男女二人組が単なるパーティー仲間でないことを察するのだった。
「こちらがお二人の登録証です。
再発行には10万フリス必要となるので、紛失には注意して下さいね。」
青年と少女の手にある登録証は彼らの現在のステータスが記入されていた。
名前 ○○(青年) 男性平均
レベル 2
職業 付与術師
体力 48/48 50
魔力 25/25 20
力 26 30
知恵 28 20
俊敏 28 30
器用 25 20
運 35 10
名前 ○○(少女) 女性平均
レベル 2
職業 魔術士
体力 35/35 40
魔力 40/40 20
力 10 20
知恵 40 30
俊敏 17 20
器用 43 40
運 22 10
…………………。
…………。
…。
それから数ヶ月、新人冒険者男女二人組は最低ランクの依頼をこつこつと、こなしていた。
「ゴブリン5匹の討伐、証明部位を確認しました。
報酬の小銀貨15枚です。」
二人の1日の仕事の稼ぎが今回は1万5千フリス。
そこから宿代5千フリスを引いて、1万フリス。
更に二人分の食事代二食分で2千フリスを引くと、残るのは3千フリス。
怪我をしてポーションを使用したりすれば、ほとんど残らない。
ランク1の新人が受けられる依頼だけでは、休息日を含めるとぎりぎりの生活である。
「おい、○○!
付与を頼んでいいか?」
そのため青年はギルドの許可のもと、他の冒険者の武器や防具に付与をすることでも稼いでいた。
「はい、一回1500フリス。
成功で3千フリスです。」
付与は持って数日のものであるため、一回あたりの費用は控えめである。
また、失敗しても魔力は消費するため基本料金と成功報酬があるのだ。
「ああ、この剣に[頑強]を頼む。」
普通であれば未熟もいいところの青年に頼む冒険者は皆無の筈である。
「付与術式展開、付与[頑強]。」
円陣が浮かび上がり、剣に魔力が注がれる。
ビキィッ!
剣に罅が入り円陣は消失する。
失敗である。
「〈ワン・モア〉!」
再び円陣が浮かび上がり、注がれた魔力が時間を巻き戻すように青年に流れていく。
円陣が消失し残された剣に、付与の失敗による罅はなくなっていた。
「もう一度付与を行いますか?」
青年は剣を拾うと持ち主の冒険者に問う。
青年に付与の依頼があるのは、これがあるからであった。
「ああ、今度は失敗しないでくれよ。」
冒険者はからかうように言い、再度の付与依頼をする。
「分かりました。」
…………。
…。
「…成功しました。」
先ほどと同じ手順を繰り返し、今度は無事成功したようだ。
「成功したので3千フリスになります。」
冒険者は革袋から小銀貨を三枚取り出しながら言う。
「普通なら剣はなくなって、1500フリス払うだけになっていたな。」
数打ちの剣と言えど、10万フリスは下らない。
実質的な損失は10万1500フリスだ。
「まだ失敗する確率の方が高いので…。」
それでも利用してくれる者に対するサービスだ。
青年は笑う冒険者に肩をすくめて返したのだった。
…………………。
…………。
…。
別の日、青年と少女の二人はギルドの依頼ボードの前で困っていた。
「うーん…。
今日は稼げそうな依頼が無いなぁ。」
現在のパーティーランクは未だに1。
依頼を受けなければ生活資金が底をついてしまう状況だが、今日に限って常設の薬草採集や街の清掃などの、主に15歳未満の見習いが受ける依頼しかない。
「ごめんね、私のレベルが低いから…。」
パーティーランクはメンバーの平均レベルが考慮される部分が大きい。
青年のレベルは12、少女のレベルは7。
レベル平均10からなれるランク2に一歩及ばない。
「気にしないで。
どうせソロでも同じだから。」
個人のランクもパーティーランクと似た基準であるが、青年のランクは1。
これは非戦闘職であることが原因であった。
結局この日はギルドに駐留、青年の付与代金である6千フリスのみの稼ぎとなった。
…………。
…。
別の日、二人は本日受けた依頼をこなしていた。
ゴスッ!
「ピキューッ!」
討伐対象である角兎が、礫を当てられ断末魔を上げる。
「…!
ねえ、見て!
レベル上がったよ!」
最近元気のなかった少女が、青年に自らの登録証を見せる。
名前 ○○(少女)
レベル 10
職業 魔術士
体力 43/43 8↑
魔力 16/56 16↑
力 14 4↑
知恵 44 4↑
俊敏 21 4↑
器用 47 4↑
運 22 0ー
確かにレベルが10になっていた。
青年が囮に徹し、少女に経験値を譲ったかいがあるというものだろう。
討伐指定数もクリアしたらしく、二人は早速ギルドへと戻っていくのであった。
…………。
「角兎5匹の討伐、納品を確認。
報酬の小銀貨10枚と、買取り金の小銀貨8枚です。
そしてお二人のレベル平均が10以上となったので、パーティーランクが2になりました。
おめでとうございます。」
稼ぎが合わせて1万8千フリス。
相変わらずカツカツであったが、明日からはより稼ぎの良い依頼を受けられるようになった二人のその日の夕食は、少しグレードの良いレストランで、となった。
…………。
宿に戻った二人は就寝の支度を終えて、おしゃべりの時間。
だが今日は青年の様子がいつもと違っていた。
「○○、どうしたの?
お腹痛い?」
確かに二人はいつもより少し多目の夕食をとっていた。
「○○、ごめん!」
突然謝る青年に少女は困惑する。
「本当はこんな事してる余裕は無かったと思う。
だけどこれを受け取って欲しい。」
そう言うと青年は細長の箱を取り出し蓋を開ける。
「これって…?
わぁ、綺麗…。」
箱に入っていたのは色石のネックレス。
シルバーのチェーンに小さな蒼い色石がついたシンプルな物であったが、アクセサリーなど持っていなかった少女に取っては何よりの宝物に思えた。
「嬉しい!
…けど、いつの間に?」
当然の疑問を青年にぶつける少女。
「前回の休息日にバザールで売っていたんだ。
お守りにどうかなって思ってつい…。」
少し値が張ったが、青年の蓄えを全てつぎ込む事で購入したのだ。
「大切にするね。
……それで、あの…。」
早速自らの首にネックレスをかける少女。
そして少し間が空き、何かを言おうとするも言い出せない様子になる少女。
「私、すごく嬉しくて…。
なんかよく分からないけど、○○に触れていたくなって…。」
真っ赤に染まった顔を俯くことで隠そうとする少女に、青年の理性が揺さぶられる。
「…えっと、○○が良いならシたい。」
そう少女に言った後、青年も顔を朱くする。
…コクッ
少女が頷く。
「出来るだけ優しくするから。」
コクコクッ
頷くことしか出来なくなった少女を、青年は自らが使っているベッドに寝かせる。
そしてその後二人は口付けをして、初めて交わるのであった。
アクセサリー〔献身の首飾り(呪)〕
この首飾りを贈られた者は、贈った者の目の前で着用する事で、贈った者の経験値の半分を得る事ができる。
読んでいただきありがとうございます。
別作品もよろしくお願いします。