幼少期
数話で完結予定です
とある世界、とある時代の片田舎。
7歳の少年と少女が遊びの合間の一休憩。
「○○くんはしょうらいなにになりたい?」
少し乱れた、肩程までのライトブラウンの髪を整えた少女が、その大きな黒い瞳を輝かせて少年に聞く。
「ぼくはぼうけんしゃになってこわいモンスターをたくさんやっつけるんだ!」
少年は立ち上がると、愛用の木の棒を空に掲げる。
「じゃあわたしも!」
少女も立ち上がり両手を挙げる。
「おんなにぼうけんしゃはむりだよ。」
男の冒険者しか知らない少年は悪気もなく言う。
「むりでもついてくもん!」
頬を膨らませ言い返す少女。
「わかった!」
元気良く了承する少年。
「ほんと!?」
とたんに表情を明るくした少女が聞き返す。
「ほんとだよ!
ぼくが○○ちゃんを守るから!」
英雄譚に憧れる少年と、幼なじみの少女。
子供の純粋さと淡い恋心が混じり合う、そんなある日の一コマであった。
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…………………。
…………。
…。
それから三年。
健やかに育った少年と少女は10歳になった。
「○○、早く起きなさい!
○○ちゃん待ってるわよ!」
少年の母親の大声が小さな一軒家に響き渡る。
……バタバタバタッ!
騒々しい音をたて、寝癖をつけた少年が出て来る。
「○○ちゃんごめん!
そして母さんおはよう!」
寝起きにもかかわらず溌剌としている少年。
「ううん、大丈夫だよ。
…私が早く来ちゃったの。」
髪を腰まで伸ばし、楚々とした雰囲気となった少女は、頬を薄い紅に染めて言う。
「すぐ朝ご飯食べて来るから!」
そう言って少年は台所へと引っ込んで行く。
「…ごめんねぇ○○ちゃん。
大事な日なのに慌ただしくて。」
この世界では10歳になると誰でも初期職業とスキルを授かる。
そのため年に一度、その年に10歳になる子供は教会に赴き、それらの確認をする行事に参加するのが一般的である。
今日はその行事の日であり、節目ということで少女はいつもよりめかしこんでいたのだ。
「○○君らしくて私の緊張もほぐれちゃいました。」
少年の母親に少女は苦笑しながら言った。
「お待たせ!
じゃあ行こうか!」
朝食を掻き込んだ少年はそう言うと玄関から飛び出し、少女に振り向き手を差し出す。
「うん!」
少年と少女は手を繋ぎ教会へと駆けて行った。
…………………。
…………。
…。
「いいですか、皆さん。
これより職業贈与の儀を始めます。
これにあたり、覚えていて欲しいことがあります。
まず、職業とは神より我々一人一人に与えられるものであり、それらに貴賤はありません。」
司祭の声が教会内に朗々と響く。
「また、職業とは指針であり強制されるものではありません。
勿論、職業通りになる者の方が多く、才能を活用しているのも事実です。
つまり、職業とは自らの才能を神が御覧になり、才能を活用することの出来ることを示して下さっているだけなのです。
その事を忘れず、自らを研鑽して生きていきましょう。」
司祭の長く難しい話は10歳の子供にどれ程理解されたかは謎だが、いよいよ職業の開示が始まる。
「では一列に並んで下さい。
焦らなくても職業は既に確定しています。」
修道女が誘導を粛々と行い、子供たちを一列に並べ終える。
「…では前から順に、こちらの玉に触れて下さい。」
一番前の子供が水晶玉のようなそれに触れる。
ピカッ!
玉が光り、空中に触れた子供の現在のステータスが表示され、空欄であった職業の欄に文字が浮かび上がる。
「君の初期職業は………」
…………………。
…………。
…。
儀式は無事終了し、全ての子供が自らの職業を知った。
貴賤は無いとは言われたものの、やはり子供は正直であり、教会内には歓喜と落胆の声があちこちからあがる。
「○○君の職業は何?」
教会内の長椅子に座る少年に少女が話かける。
「……“付与術師”だってさ。」
職業・付与術師
物質に対し性質を一つ付与することができる職業。
例 道具に[頑強]を付与し、壊れにくくする
少年の住むような田舎や小さな町では非常に重宝される当たりの部類の職業とされる。
「そっか…。」
しかし少年の夢を知る少女は、少年にかける言葉が見付からずそれしか言えなかった。
「○○ちゃんは“魔術士”に〈詠唱破棄〉だっけ…。」
職業・魔術士
別名マジシャン。初級の魔術を扱う戦闘職。
例 [ファイアボール] 火球を射ち出す
スキル・詠唱破棄
術の発動に必要な詠唱を破棄するスキル。
術の発動を考えるだけでOK!
魔術士は勇者パーティーの定番職業であり、スキルはレア中のレアであり冒険者になれば一定の成功は確約されたようなものである。
「○○君のスキルは?
〈ワンモア〉なんて聞いたこと無いよ?」
職業が戦闘に向かなくてもスキル次第では可能性は残っている。
過去には職業“鍛冶師”でスキル〈鍛造・極〉によりドラゴンを討ち倒した英雄もいた。
少女はそれにかけたのだ。
「付与の失敗を一回だけ無かった事に出来るだけだよ…。」
スキル・もう一度
失敗を一度だけ無効にするスキル。
対象は素材と自身。
付与済みの物質には無効。
固有スキル。
付与や錬金は成功率があり、術師のレベルと作成難易度によって変化する。
難易度の高いもの程作成難易度は高く、経験値も多い。
また成功率が高い術師程重宝されるため、このスキルは〈詠唱破棄〉以上に有用ではあるのだ。
しかし、冒険者志望の少年には、とことん不要なものに感じてしまうのであった。
「そっかぁ……。」
少女もこれには項垂れてしまうのであった。
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…………………。
…………。
…。
職業贈与の儀から更に三年が経過し、少年と少女は13歳となった。
成人である15歳まであと二年。
職業を得た子供たちは見習いとなりレベル上げに励んでいる。
ブンッ!ブンッ!ブンッ!
「…ふっ!…ふっ!…ふっ!」
少年は村人の依頼で農具などに付与を行いつつ、独自に剣の練習を行っていた。
少年の暮らす片田舎に“付与術師”は居らず、教会にある蔵書の「初期職業・術」を読んで実践していた。
少女も同様に[ファイア]による種火の販売や[クレイ]による畑仕事の手伝いを行っていた。
「○○、休憩にしない?」
素振りをしていた少年の元に籠を持った少女がやって来る。
少年は素振りを中断して少女に歩みよる。
「いつもありがとう。」
コップに水を注いで渡してくる少女に礼を言う少年は、活発であった性格が落ち着き、少し背が伸び筋肉がついただろうか。
「後二年だね。」
そう言う少女も女性らしい身体つきとなり始めていた。
「付与は安定してきたし、剣術スキルも習得した。
あとはレベル上げか。」
職業贈与の儀の直後は消沈していた少年であったが、剣術スキルを習得したことにより二次派生職業である“魔法剣士”になれるようになった。
二次派生職業とは、レベルを50に上げることで転職可能になる二次職業をレベル25かつ条件を満たすことで転職できる職業である。
少年の目指す“魔法剣士”の場合、“付与術師”から二次職業の“属性付与術師”へと転職。
レベルは転職によりリセットされるため“属性付与術師”でレベルを25上げて、近接系のスキルを持つことによりようやく“魔法剣士”となれるのだ。
「一緒に頑張ろうね?」
非戦闘職が二次職業になる時点でベテラン扱いされる世界で“魔法剣士”になるには戦闘職の協力が不可欠である。
また、前衛職に比べて経験値の取得効率の悪い後衛職である少女もまた、レベル上げには苦労する。
「うん、頑張ろう。」
夢を再び追いかける少年と、少年を支えることを決心している少女は二年後に思いを馳せた。
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…………………。
…………。
…。
二年後の良く晴れた春の日。
15になった少年と少女は教会にて成人の儀に参加していた。
「今日、この日をもって君たちは大人の仲間入りを果たします。
この先の人生には時には辛い事があるでしょう。
しかし、先祖や神に恥じることの無い人生を送って下さい。
皆さまの人生に幸と祝福があらんことを。」
司祭が新成人への祝詞を話終えると光の粒子が教会内に降って来る。
「おおっ、これは!?」
驚く司祭らに、ざわつく新成人たち。
「オホンッ!
皆さま、安心して下さい。
この光は精霊の祝福。
皆さまの門出に精霊も喜んでいるのです。」
落ち着きを取り戻した司祭がこの現象の説明を行い、場を収める。
「これにて儀は終了となります。
新成人の皆さま、本日は誠におめでとうございました。」
こうして成人した少年は青年となり、少女と共に冒険者になるべく、最寄りのギルドのある街へと旅立って行くのであった。
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