悪夢日記
目の前に、人間だったものが二つ吊り下げられている。
無機質なガレージに彩りを添えているそれらを、俺は、両親だと思った。
目の前に吊るされた肉塊二つは、もう人の形ですらないのに。どうしてそう思ったのだろう。
顎に刺さったフックだけが二人の体重を支えている。コンクリートでできた床に血が染みて、不可思議な模様ができている。床に刻まれたヒビがよく目立って見苦しい。
肉がところどころ垂れて、飛び散って、息絶えている二人の体を見て、俺はマグロの水揚げを思い出した。ニュース映像のとおりなら、このあと競りが始まる。
俺の右手には鉈が握られていて、そのおかげで俺は犯行を自覚することができた。どうやって二人を殺したかは覚えていないが、おそらくめちゃくちゃに切りつけたのだろう。返り血に汚れた服は、洗濯をする気にもならない。
血生臭い光景と、それを作り出した自覚に寄り添われても、どうしてか息は乱れない。それどころか一仕事終えたような達成感がある。
ふと、視界の左側で何かが動いた。子供の影と足跡が逃げていく。娘だ、と思った。
俺は鉈を握りなおした。最後の一人までやり遂げようと思った。