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アルソン side

 今までの夜会で侯爵家の僕に失礼な態度を取る者は、いなかった。侯爵家で唯一、王太子殿下の側近として選ばれた僕は、最大限に力を尽くしてきた。だから、カーラのことも困らないようにしようと尽力してきたのに、いつも父上たちに邪魔された。

 この上、リチェリーツェとの話まで邪魔されては堪ったものではない。早く切り上げて話の続きをしなければ、ならない。


「言うことにかいて、僕の愛人だなんて。侯爵家の僕が男爵令嬢を愛人に選ぶわけないのに」


「旦那様、アルソン様をお連れしました」


「入れ」


 父上は、カーラを良くは思っていない。いつもリチェリーツェを優先しろと言ってくる。僕はきちんと婚約者として扱い、そして結婚もした。カーラは、殿下から任せられた令嬢なのだから無視することは出来ないのに父上は分かっていない。


「アルソン、なぜリチェリーツェを夜会に連れて行かなかった?」


「そのことですか。いつも言っているでは無いですか。夜会に出られないとカーラが困るからです。僕は殿下からカーラのことを頼まれてるのです」


「夜会に連れて行け、と?」


「困らないようにして欲しいと言われてるんです」


 何度も説明しているのに理解してもらえない。僕は殿下の心情を汲んで、カーラのことを世話してるのに、何故こうも責められなくてはいけないのか。弟と妹も僕を怪訝な顔で見てくる。


「男爵令嬢が高位貴族の夜会に出られなくて何が困るんだ。連れて行くなら下位貴族の夜会だ」


「僕は侯爵家です。下位貴族の夜会に親戚でも無いのに出られません」


「そこは、分かっているのか。なら、親戚でも無い男爵令嬢を連れて行ったお前は、どうなのだ?」


 カーラの家は借金こそ無いものの裕福ではない。あれでは夜会に出るのもままならない。だから僕はカーラが困らないように夜会で婚約者となれる者を紹介するつもりで連れて行った。


「婚約者や妻以外の令嬢を連れて行くのは愛人だと言い触らしているのは、知ってます。でもカーラは殿下の()()です。邪推するのは止めていただきたい」


「分かっていないのは、お前だ。あの男爵令嬢は殿下の()()()()だっただけだ。一度も殿下の後宮に入っていない」


「それの何が問題なのですか?」


「違いが分からないとはな。愛妾は王家に嫁ぐには身分が足りない者がなる。愛妾の中には貴族に下賜されることもあるがな」


 わざわざ説明されずとも愛妾の意味くらいは分かる。殿下が僕に下賜されたのがカーラだ。だから僕は大切に扱っていた。


「男爵令嬢は、その愛妾になれないと殿下が認めた令嬢だ。間違っても褒美に下賜されたわけではない!」


「そんな。では、なぜ殿下は僕に男爵令嬢を下賜・・・じゃなかった。世話を命じたのですか?」


「愛妾ならば殿下が下賜先を命じることができるが、ただのいち男爵令嬢の下賜先を用意するのは越権行為だ。だから非公式にお前に言ったのだ。それを台無しにしたのは、何を隠そうお前自身だ」


「非公式?」


「気になるのは、そこなのか。ならば、殿下より書面で、命じられたのか?」


 父上は当たり前のことを確認してきた。公人であらせられる殿下が言うことは、全て公式だ。非公式なとどいうことは存在しない。


「納得していない顔だな。直接、殿下に聞いてみるといい」


「それは、あとにします。リチェリーツェとの話が途中なので。次から呼び出すときは話が終わってからにしてください。僕も暇ではないので」


「侯爵家当主が気にかけることではないな」


 父上は僕のことを息子として見ているのか常々疑問に思う。いつも当主としてしか会話をしない。

 そんなことよりリチェリーツェと話をしなければならない。きちんと殿下からの命令だと知れば、誤解も解ける。僕が好きなのはリチェリーツェなんだから。


「リチェリーツェ!」


「お部屋にお戻りください」


「どうして、侍従だけでなく、護衛も部屋の前に待機しているのだ? リチェリーツェの身に何かあったのか?」


「これから起こるかもしれないことに対応するために、我らがいるのです。お戻りください」


「僕はリチェリーツェと話がしたいんだ。途中だったからね」


 きちんと話せば分かる。リチェリーツェとは結婚式で誓い合った仲なのだから。ドアを開けようとすると護衛が止めてきた。


「何をしている?」


「若奥様の護衛です。お引き取りを」


 扉の両側に立っている護衛が鞘の入った剣で僕を押し返してくる。雇い主である侯爵家の長男に対する対応じゃない。父上に報告しなければならないな。


「僕は夫だ。なぜ妻の部屋に入るのに咎められなければならない!」


「若奥様のご命令です。何人たりとも通すな、と。これはアルソン様だけではありません。ご当主であっても同様の対応をいたします」


「お引き取りを願います。これは、二度目の警告です」


 片方の護衛が鞘から剣身を僅かに見せてくる。このまま強硬すれば、確実に斬られる。仕方なく引き下がった。


「一体、リチェリーツェはどうしたって言うんだ? 父上に呼ばれたときは、送り出したというのに」


 女心というのは難しい。母上もよく溜め息を吐いているから何かあったのか聞くが、聞くものではありませんと返される。さらに解せないのは、結婚したのだから夫婦の部屋で共に寝起きするものなのに、未だに別々の部屋なことだ。


「明日にでも殿下にお聞きしなければ」


 そうと決まれば、善は急げだ。ベルを鳴らして執事を呼ぶ。まだ、後継者指名はされていないが侯爵家長男である僕が後を継ぐのは決まりだ。僕の妻は公爵家出身だ。弟の婚約者の伯爵家とは格が違うんだ。


「お呼びでしょうか」


「あぁ。明日、殿下に伺うと先触れを出しておいてくれ」


「明日、でございますか? 今からでは殿下のご都合が悪いかもしれません。日を改めてはどうでしょう」


「こういうことは、早い方が良いんだ」


 誤解は早いうちに解かないと、大変なことになってしまう。殿下も緊急性があると賛同してくださるだろうから問題ない。

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