Papa likes me,and i love you too!
「おはよう、希望!今日はのんちゃんの好きなたこさんウィンナーにしておいたよ!」
11月だというのに暖かく、天気の良い朝。
ピンクのエプロン姿のパパが、にこにこ顔で話しかけてくる。
…正直、めんどくさい。
私は朝は機嫌が悪いのよ。
何年も一緒にいてどうして分からないの!という風にあからさまに冷たい態度で答えてみせた。
「へぇ〜。ていうかあたしたこウィンナー別に好きじゃないし。だいたいそののんちゃんていうの、そろそろやめてくれない?恥ずかしいから!!」
パパは微笑っている。
いっつもいっつも優しく微笑っているんだ。
遠い昔、まだ私が小さかった頃、パパがお弁当を作ってくれたことがあったの。
その日はとっても楽しみにしていた遠足で、可愛いお弁当もずっとずっと楽しみにしていたのだ。
ママと約束していたのに、急にママが風邪を引いちゃってパパが代わりに作ることになったの。
初めてパパがお弁当を作ってくれた日。
私はお弁当を一口も食べずに持って帰ってきた。
夜になって帰ってきたパパに泣きながら怒ったのを今でも覚えている。
『パパのバカぁ!ひどいよ!全然可愛くないもん。こんなのじゃだめなんだもんっ!!』
パパは眉をハの字にまげてやっぱり微笑んでいた。
困ったように申し訳なさそうに、ごめんね、ごめんねって。
だけど私はずっと泣いていたみたい。
ウィンナーがみんなみたいにたこさんじゃないって、ごつごつしたおにぎりよりもサンドイッチがよかったって、どうしてりんごのうさぎさんじゃないのって、泣き疲れて眠るまで永遠パパを責めていたらしい。
だからかな。
この歳になってもパパは未だに可愛らしいお弁当を作る。
まるで幼稚園生のお弁当みたい。
「あたしもう高校生だよ?いつまでも小さい子どもじゃないんだからさ。だいたい無理してお弁当作ってくれなくてもいいよ。お昼なんてコンビニか購買で買うし。」
家ではパパがお弁当を作る係り。
あとお風呂掃除も。
わりと家事に積極的なタイプのダンナさんみたい。
ママはよくパパの自慢をする。
確かに優しいしね。
どんなに前の日の夜が遅くても、パパは必ず早く起きてお弁当を作ってくれる。
ちゃんと可愛く凝ったやつ。
本当は感謝してる。
本当は朝起きて、パパに今日もありがとって、いつもおいしいよって伝えたい。
だけど絶対無理。
何か恥ずかしくって、毎朝ちょっと不機嫌な態度をとってしまうの。
でもありがとうって思ってる。
いっぱいいっぱい思ってるから、お弁当箱はいつもキレイにして持って帰ってくるって決めてる。
正直、ママのお料理の方が味はおいしいけど。
だけどパパのお弁当だってなかなかいい線いってる。
けっこうおいしいの。
なんて、なかなかこの一言が言えないのだけど…
──12月。
冬の朝はやっぱり寒い。
だけどパパがお弁当を作っているから、私が起きてくると部屋はいつも暖かい。
…はずなのだけど、今日はまだ寒いままだ。
「…?パパ…まだ寝てる。」
あぁ、きのうは確か遅くまで仕事していたっけ。
ノートパソコンと真剣に見つめあっていた。
実は仕事中のパパの真剣な顔、意外と好き。
そんなことより、
「…とりあえず、顔洗お。」
顔を洗ってお化粧をして、制服に着替えた。
お昼はコンビニで買うことにして、朝ご飯もオレンジジュースでいいやと冷蔵庫に手を伸ばした時、パパが慌てて起きてきた。
「おはようのんちゃん!ごめんごめん、寝坊しちゃって!すぐ何か作るから…っ」
「いいよ別に!!コンビニで何か買うし。」
あぁ〜、本当は遅くまで仕事お疲れさまって言いたい、のにな…
「じゃあせめて朝ご飯くらいは何か食べて行きなさい。すぐ作るから、ね!」
私はリビングの椅子に黙って座った。
パパはいつもどおり、ピンクのエプロンをして朝ご飯を作り始めた。
私はそんなパパの後ろ姿を見つめていた。
「部屋寒かっただろ〜?あ、スクランブルエッグでいい?」
大きくて暖かいパパの背中。
小さい頃からパパの背中にくっついていると、安心して眠れたらしい。
「…ねぇ、パパ。そのエプロンてもしかしてあたしがあげたやつ?小学校の時、家庭科の授業で作った…」
みんなはママにって作っていたけど私はパパのために。
あのお弁当以来、パパは一生懸命に可愛いお弁当を作ってくれるようになったの。
だから私はいつしかママよりもパパのお弁当が食べたいって、パパのお弁当が大好きだって毎日口にするようになっていた。
だからいつからか我が家では、お弁当係りはパパ。
私の大好きなパパに、大好きなピンク色のエプロンを一生懸命作ったんだ。
だけどポケットの位置もズレているし、パパの文字のワッペンも何かちょっと曲がってる。
へんてこエプロンだ。
パパは出来上がったお皿を持って、くるりとこっちを振り向いた。
「そうだよ!希望がくれたエプロン。パパの大切な宝物だ。けっこう似合うだろ?」
何かよく分からないけど、何だかちょっとだけ涙がこぼれそうになったから、私はにこっと微笑ってみせた。
「まぁまぁかな!いい歳してピンクとかちょっときついけど。」
「そうかなぁ?まだまだパパ、イケてると思うけどなぁ〜♪」
「自分で言っちゃう(笑)?ないなぁ〜!」
やっぱりまだまだ気恥ずかしくって、素直にありがとうの気持ちは伝えられないけど。
ちょっとずつ、私らしく伝えていくね、パパ。
私はフワフワの朝ご飯を頬張った。
「…おいしいよっ。」
「え?そっか!良かった良かった。」
めずらしい私の言葉に、パパも何だかちょっと照れくさそうだ。
「…あのさ、あのね。」
「ん…うん?」
「…明日はあたしが作るよ、お弁当。自分のとパパの分、あたしが作るからさ!!」
パパは鼻の頭をぽりぽりしながら優しく微笑っていた。
「そっか。ありがとう。明日の朝、楽しみだな!」
ありがとう、パパ。
大好きだよ、パパ♪
「ごちそうさまでした。だからさ、今日の夜教えてね!!…たこさんウィンナーの作り方。」
「…あぁ!もちろん!」
親愛なるパパ。
これからもよろしくね♪
パパの愛する娘より。