地球鍋(三十と一夜の短篇第71回)
鍋は器物であって、食いものではない。
料理名の尻尾に従属することで、料理そのものと一体化した。
「鍋料理」から「地球鍋」へ。「地球鍋」とは、いったいなんであるのか?
地球の核を鍋と規定し、重力を蓋とする。
海というスープ、そのなかを遊泳する多種多様の具材。
熾烈な加熱はやがて、スープを蒸発させて陸地という鍋の領域を殖やす。
海中の具材の一部が、陸地に張りついてしまう。これでは出汁が取れない。
このままでは、「地球鍋」の意義が半減してしまう。
「もうそろそろ、鍋の季節ですな」
客人の催促を受けて、シェフはスープの増量を決める。
大洪水によって陸地の具材を洗いざらい、煮えたぎるスープのなかへ落としこむ。
「シェフを呼んでくれたまえ。じつにおいしかったよ。具だくさんで、おなか一杯だ」
「ありがとうございます。またのご来店、心よりお待ちもうしております」